13


――PM 0:50 ヒーロー基礎学

「今日のヒーロー基礎学だが、俺とオールマイト、それともう1人の3人体制で見ることになった」
「ハーイ!なにするんですか!?」

相も変わらず気怠げに教室へ入ってきた相澤が今回のヒーロー基礎学について説明を始めた。
フライング気味に瀬呂が何をするのかと挙手をして問えば、相澤はまた睨むのかと思ったが、瀬呂の質問に答えるかのように1枚のパネルを掲げる。
そこには『RESCUE』と書かれていた。「災害水難なんでもござれ――人命救助訓練だ!!」相澤のバスから告げられたのはレスキュー。
暴風、豪雨、豪雪、洪水――その他災害にも順応に対応し、適切に市民を救助する力をつける。

「レスキュー…今回も大変そうだな」
「ねー!」
「バカおめーこれこそヒーローの本分だぜ!?鳴るぜ!!腕が!!」
「水難なら私の独壇場。ケロケロ」

上鳴、芦戸が同調し合う中、切島の熱く燃える意気込みが教室中に響き渡る。蛙吹の“個性”なら確かに水難向きだろう。
盛り上がりを見せる一画だが、流れを断ち切られ話が脇道に逸れてしまったからか、相澤が牽制するように「おいまだ途中」と睨みつけた。
下手すれば除籍されると身の危険を感じたのか、面白いくらいシンと静まり返る教室。
徐ろに相澤は壁に向かって手に持っていたリモコンのボタンを押す。壁に収納されているコスチューム。
今回は活動を限定するコスチュームもあるだろうからと、着用は各自の判断に任せるそうだ。
訓練場所も少し離れた場所にあるらしく、バスでの移動とのこと。
準備開始、という相澤の合図と共に各々が動き出す。
静も含め、殆どのクラスメイトがコスチュームを手にしていた。

一方コスチュームではなく体操服を着ている緑谷が気になり声をかければ、戦闘訓練でボロボロになったからと麗日に答えた。
修復を依頼しているサポート会社からの連絡がくるまでは体操服での参加になるようだ。バスの前まで辿り着けば、委員長飯田がさっそくクラスメイトを牽引する。
持参してきたのか、ピッピッと笛を鳴らしながら番号順に2列に並ぶよう整列を促した。――が。

「こういうタイプだったくそう!!!」
「イミなかったなー」

飯田のイメージしていた座席は公共機関を走るバスと同様の並びだったようで2列に並ばせたのだが、いざ乗ってみれば後方はイメージ通りでも前方は左右向かい合う座席になっていた。
結局番号は関係なく、委員長飯田の初の仕事は失敗に終わり肩を落とす。
肩に手を置いてあげた芦戸だが、掛けてあげた言葉は慰めにもなっていなかった。

賑やかなバスの中。思ったことを口にしてしまう蛙吹が不意に緑谷に「あなたの“個性”はオールマイトに似てる」と言う。
確かにあの増強型はオールマイトを彷彿させるなと、運転席の後ろの個席に腰掛けて景色を眺める静は思った。
しかし否定の意を唱えるのは、“個性”硬化の切島。彼は自身の“個性”について、対人では強いが地味なのが不服のようだ。
緑谷がプロにも充分通用する“個性”だと褒め称えれば、ヒーローも人気商売なとこがあると口にした。
それについて青山が自分の“個性”は派手さも強さもプロ並と自画自賛するが、隣の芦戸にお腹を壊すことを笑顔で指摘され、反論できない青山の顔に陰が落ちる。

「照己の“個性”もいいよな!空を自由に飛びてー!」
「地上に舞い降りた天使だよねー」
「静ちゃんはスピードもあるし、ものを武器としても扱えるからサポートと戦闘どっちもいけると思う」

急に話題が自身に向けられ景色から後ろの席へ向ければ、羨望の眼差しを向けてくる切島を筆頭にクラスの面子がこちらに目を向けている。
注目されるのが苦手な静は困ったように視線を逸らした。

「派手で強えっつったらやっぱ轟と爆豪だよな」
「ケッ」
「爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気出なさそう」
「んだとコラ出すわ!!」
「ホラ」
「この付き合いの浅さで既にクソを下水で煮込んだような性格と認識されるってすげぇよ」
「てめぇのボキャブラリーは何だコラ殺すぞ!!」

蛙吹の最もな意見も相まって、上鳴の絶妙な揶揄に怒号を浴びせる爆豪は鬼のような形相で立ち上がり、今にも掴みかからん勢いだ。
隣の席の耳郎が酷く煩わしそうに身体を逸らしていた。緑谷は冷や汗を大量に流しながら信じられないと頭を抱えている。
賑やかな空気が車内を包み笑い声が響き渡るっていたが、「もう着くぞ。いい加減にしとけよ」と苛立ちを滲ませた相澤の一声で車内は極寒のように冷えきった。


USJ――それはハリウッド映画の世界観を余すことなく体感出来る大人気のテーマパーク。
バスに揺られて辿り着いた先が、まるで本当にそこに来たかのような迫力をもつ演習場に、生徒のボルテージが湧き上がる。勿論ここはテーマパークではなく、演習場。これから何が課せられきつい訓練になるかなど、想像もできない。水難事故、土砂災害、火事etc.――あらゆる災害を想像し造られた演習場。
その名も『ウソの(U)災害や(S)事故ルーム(J)』――USJだった。僕がつくったという宇宙服に身を包んだ『スペースヒーロー』13号が1−A組を迎えた。
災害救助で活躍しているヒーローで有名な13号を目の前に、ヒーローオタクの緑谷と好きだという麗日が盛り上がる。
そんな2人を横目にお似合いだなと小さく息をついて口許に笑みを浮かべていれば、13号と相澤が何か話し合いだした。内容は聞き取れないが、相澤が「仕方ない始めるか」と切り出して演習が始まろうとしていた。オールマイト不在だが、良いのだろうか。
素朴な疑問をもちながら、13号が始める前に1つ2つ3つ4つ小言を伝えたいらしい。
増えゆく小言にげんなり顔になりながらも、13号の小言に耳を傾けた。

「皆さんご存知だとは思いますが、僕の“個性”はブラックホール。どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます」
「その“個性”でどんな災害からも人を救い上げるんですよね」
「ええ、しかし人を簡単に殺せる力です。皆の中にもそういう“個性”がいるでしょう」

紙一重だ。人を救える反面、人を殺せる。“個性”発現により超人社会となった今、“個性”の使用を資格制にし厳しく取り締まっている。
一見成り立っているようにみえるが、一歩間違えれば容易に人の命を奪える“いきすぎた個性”を個々が持っていることを忘れないでほしいと13号は紡ぐ。
相澤の個性把握テストでは自身の“個性”が秘めている可能性を知り、オールマイトの対人戦闘訓練では“個性”を人に向ける危うさを体感した。

「この授業では心機一転!人命の為にどう“個性”を活用していくか学んでいきましょう。君たちの力は人を傷付ける為にあるのではない。
救ける為にあるのだと心得て帰ってくださいな」

以上!ご清聴ありがとうございました――13号は綺麗なお辞儀と共に締め括った。
13号の“小言”はヒーローの卵たちの心に響いただろう。ステキー!と興奮する麗日とブラボー!と拍手喝采を送る飯田は特に、感銘を受けたに違いない。
我々を包んでいた緊張感が13号の物腰柔らかな一面により和らぐ中、ふと、静の背中に悪寒が走った。
ぞわぞわと、嫌な感覚がして生唾を飲み込む。

どうしてだろう、自分はこれを知っている。

「そんじゃあ、まずは…」

早速、演習を始めようと相澤が口を開き指示を出しかけたその時―、
セントラル広場に出現した黒い渦。徐々に広がる渦を注視していれば、人の手のようなものが見てとれる。
次の瞬間、顔面が掌に覆われた不気味な容姿をした人間が這い出でるように渦の中から現れた。

「一かたまりになって動くな!」

振り向き様、相澤の焦燥を滲ませた声音が演習場に響き渡る。状況を読み込めない生徒達は目を点にさせ、佇むしかない。
すぐ様13号へ生徒を守るよう指示を出すが、その間にも広がった渦の中から次々と異なった人種や種族が溢れ出てくる。
切島が入試の時みたくもう演習が始まっているパターンかと独りごちるが、相澤はゴーグルを装着し、動くなと再度生徒らに念を押した。

「あれは――敵だ!!」

敵――それに生徒達にも緊張感が走った。戦闘準備を整える相澤の背後で静は揺らぐラピスラズリで敵の群れを凝視する。
敵の群れの中、独特の存在感を醸し出す1人の人物。顔や腕が掌に覆われている、不気味な男。
ギロリと此方を見上げるその人物と目が合った気がして、"恐怖"が今の自分の感情の全てを攫って行った。

「13号に…イレイザーヘッドですか…。
先日"頂いた"教師側のカリキュラムではオールマイトが此処に居るはずなのですが…」
「やはり先日のはクソ共の仕業だったか」

以前として靄の中から現れる敵の姿。敵の行進(マーチ)が止まらない。徐々に増える敵の数。
あっという間に此処にいる生徒以上の数が揃う。非常にマズい。
今まで実感していなかった周りの皆も今、自分達が置かれている状況を理解したのか顔を引き攣らせている。

「どこだよ…せっかくこんなに大衆引きつれてきたのにさ…。オールマイト…平和の象徴…いないなんて…」

そうだ。これは、ただ机に向かって知識を蓄える授業じゃない。いつも先生たちが見守ってくれる優しい演習なんかじゃない。
競り上がってくる今までに感じた事の無いほどの悪寒に吐き気すらしてきそうだ。無意識に握りしめた拳に汗が籠るのを感じながら奥歯を噛みしめる。
そして、此方を睨み上げる体のあちこちに手が張り付いた1人の敵から感じられるのは唯一つ。

「子どもを殺せば来るのかな?」

それは、途方もない悪意。

- 63 -

*前次#


ページ:



ALICE+