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雄英体育祭。
ヒーロー科、サポート科、経営科、普通科の全校生徒参加の体育の祭典。
学年ごとに分かれたステージで予選競技を行い、勝ち抜いた生徒が本戦で競う学年別総当たり戦。
かつて国民的スポーツの祭典はオリンピックが最大規模であったが、今となっては未来のヒーローを排出するトップ校、雄英高校の体育祭こそが国民的祭典となっている。多くのマスメディアも大々的に扱いテレビ放送もされ、観覧席には未来のヒーロー視察、スカウト目的のプロヒーローも多く来場する、生徒たちにとっては華々しいプロデビューのキッカケとなる最大のアピールの場でもあった。
4限目終了後。待ちに待った昼休みに教室が一気に騒がしくなる。特にある一画が盛り上がっている。どうやら体育祭に燃えているようだ。麗日だ。普段と違う“うららか”ではないギラついた闘争心を剥き出しに、麗日は「皆!!私!!頑張る!」と拳を突き上げた。
ノリの良い面子が麗日の安定しないキャラに戸惑いながらもしっかり拳を突き上げている。全員がライバルなはずなのに、仲の良いクラスメイトだと静は口許に弧を描いた。
いつもの如く緑谷たちと食堂へ向かうところでひとつ、麗日へ問うてみたい事がある。
「お茶子ちゃん、さっき…すごく張り切ってたね」
「え、う、うん!」
「やっぱり…夢に近づけるチャンスだから?」
小首を傾げながら問うてくる静に麗日はどこか歯切れ悪く受け答えをした。緑谷が反応を示したのを視界の端に捉えながら、麗日が口篭る姿を見据える。
そして食堂へ向かう階段を降りながら麗日は静の問いに目を泳がせながら「お金が欲しいから」と究極的に答えた。意外な答えに静のみならず緑谷や飯田も驚いた様子で復唱する。
てっきり麗日のように慈悲深い少女ならもっと人々の為になど、利己的ではなく利他的な行動をしそうだと勝手にイメージしていた。
麗日は羞恥から赤らんだ両頬に両手を当てて眉根を下げる。
「なんかごめんね不純で・・・!!飯田くんとか立派な動機なのに私恥ずかしい」
「何故!?生活の為に目標を掲げることの何が立派じゃないんだ?」
「うん…でも意外だね…」
「お茶子ちゃんはどちらかと言うと利他的行動をする子かと…」
飯田の独特な手の動きを避けながら緑谷と静は続けて言葉を紡ぐ。確かに飯田の言い分も最もだ。生きていくためにはお金は必要だ。
お金がなければ今日を生き抜くご飯にもありつけない。麗日は落ち着かない様子でボブカットの髪の毛を弄りながら、家庭の事情を口にした。
麗日の両親は建設会社を営んでいるが仕事がなく素寒貧という。麗日の“個性”無重力なら許可さえとれればコストが掛からないと言う緑谷に麗日は自分も言ったと同調した。
親を想う娘の優しい心は嬉しい筈。しかし両親は断ったそうだ。
親としては自分の夢を叶えてくれたほうがそれ以上に嬉しいのだろう。
故に麗日の両親は娘の背中を押し、送り出したに違いない。
「私は絶対ヒーローになってお金稼いで、父ちゃん母ちゃんに楽させたげるんだ」
麗日の決意に満ちた表情がラピスラズリに深く焼き付いた。飯田が感銘を受けたかの如くブラボーと拍手喝采を送っている。
先ほどとは違う恥ずかしさを感じている麗日が、話を逸らそうと静に問う。なぜヒーローを目指しているのか。
麗日が正直に話した手前、話さないわけにはいかない空気になっていた。
「私は…えっと…、昔助けてくれたヒーローみたいに、なりたくて…」
「え!?なにがあったん!?教えて教えて!」
「う、麗日さんっ!」
静に起きた誘拐事件を知っている幼馴染の緑谷は、彼女の傷に触ると、思わず止めにかかろうとした。
しかし、静にとっては辛い過去ではなく寧ろ良い出会いであったと思っている。
「子供の時、誘拐されたことがあって…でも直ぐにヒーローが助けにきてくれたの……それで、自分もあのヒーローみたいにかっこよく人を助けたいなって…」
いつもは言葉少ない静が、普段よりキラキラしたような瞳で話した。
それと同時に、お茶子もようやく緑谷の考えが分かったのか少し気まずそうに応える。
「あ、なななんかゴメン!もしかして、聞いちゃいけなかったんじゃ…」
「ううん、大丈夫。…小っちゃい頃で殆ど覚えてないし、正直怖かった思い出とかじゃないから…」
「そっか……でも、静ちゃんもやっぱ飯田くんと同じで凄いね!」
「しかしその話を聞く限り、照己くんはもう少し危機感を持った方がいいのでは…」
「静ちゃん、昔からよく変な人に声かけられたり連れてかれそうになったり……日常茶飯事みたいなものだったから……」
飯田の疑問に対して緑谷は苦笑いで答えた。
緑谷の言う通り、静の美貌は昔から健在だ。さらりと肩から流れ落ちた黒髪に思わず緑谷は頬をほんのり赤らめた。
それから飯田の動機を問えば、彼は誇らしげに語り始めた。「ターボヒーローインゲニウム」という東京に事務所を構え、65人ものサイドキックを雇っている大人気ヒーロー。飯田はその次男だという。代々ヒーロー一家で中でも兄に憧れているそうだ。誠実かつ憧れを目の前に真っ直ぐ夢を追う飯田の横顔に、静は微笑みを浮かべる。あっという間に静のペースに流された挙げ句自然と話を逸らされた中、突然角からオールマイトが現れた。
緑谷を探して走り回っていたようだが、あまりにも突然の登場だった為ビクッと肩が跳ね、心臓が口から出そうになった。何事かとその場に固まっていれば、オールマイトは弁当を持参してきたのか、自身のデフォルメされた顔があしらわれてあるランチクロスを顔の位置に掲げながら緑谷へ言う。
「ご飯・・・一緒に食べよ?」
「乙女や!!!」
そのガタイの良さとは裏腹の可愛らしい一面がツボに入ったのか、麗日がツッコミついでに豪快に噴き出した。静もそのギャップに思わずきゅんとしてしまい、口許に手を添えて顔が緩むのを堪える。
憧れのオールマイト直々に声を掛けられ、ましてやご飯を一緒にだなんて彼が喜ばない筈がないと緑谷を見遣るが、そこに居たのは浮かない表情の彼。
落ち着いた声で返事をして静達に一言断りを入れて、オールマイトと行ってしまった。
静はその後ろ姿を暫し見遣っていたが、仕方が無いので3人で行こうと飯田に促され、後ろ髪を引かれる思いを携えたまま食堂へ急いだ。
全学科が押し寄せる食堂は大変な混雑を見せていた。目配りしていれば、緑谷の事が気になっている様子の麗日がふと口を開いた。
「デクくん何だろね」
「オールマイトが襲われた際一人飛び出したと聞いたぞ。本当かい照己くん?」
「うん」
「じゃあ、その関係じゃないか?蛙吹くんが言っていたように超絶パワーも似ているし、オールマイトに気に入られてるのかもな。さすがだ」
それならもっと慌てふためくなり喜ぶなりしてもいいような気がすると静は思う。緑谷がどれだけオールマイトに憧れていたかは幼き頃の記憶のみだが、知っている。
だからこそ違和感が拭えない。色々な憶測が思いつくが、どれもいまいちピンとこない。一先ずお弁当でも食べて、腹拵えをしよう。人の詮索はよくない。何気なく視線を向けた先には轟がいた。彼はそばを食べるようだ。そばもいいなと静は今度は食堂のメニューを利用しようかと考えた。
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