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フィールドに13組の騎馬が出揃い、かくして321の合図で残虐バトルロイヤルの火蓋は切られたのだ。
《 START!》
開始の一言が会場いっぱいに響き渡った瞬間、自分達の騎馬の周りに待機していた他の騎馬たちが一斉に動き出す。
勿論、こちらに向かって一直線に突進してくる形で、だ。
「実質それ(1000万)の争奪戦だ!!」
「はっはっは!!緑谷くんいっただくよ―――!!」
以前廊下で爆豪くんの爆弾発言に反応したB組の少年――鉄哲のチームの騎馬と次郎ちゃん、砂藤くん、口田くんの騎馬の上で浮くハチマキ…恐らく葉隠透だ。
彼らの言う通り、実質騎馬戦と言いつつ多くはこの緑谷のポイントを争奪する事を目的に動く事が主になるだろうとは思っていたが、まさか開始早々こうなるとは。
「いきなりの襲来とはな…追われしものの宿命…選択しろ緑谷!」
「もちろん!逃げの一手!」
バッと出久が腕を横に切りながら指示を出すと、お茶子たちがアイコンタクトを取り小さく頷くと迫る他の騎馬たちから逃げようと一気に走り出す…否、走り出そうとした。
「なにこれ!?」
ズブズブと踏み出した足が地面の中へと沈んでいく。まるで沼に嵌まったかのようにあれよあれよという間にドンドン自分の足が埋まって行く感覚。
「沈んでる!あの人の"個性"か!」
個性OKの騎馬戦。どうやらこの足元が沼のようにぬかるんだのはB組の人の個性らしい。
確かにこの能力なら他の騎馬の足止めが出来るし優位だ。
こんな事を思っている内にも他の騎馬たちが今だとばかりに緑谷の鉢巻を狙って迫ってくる。嵌まった足の自由が徐々に利かなくなる。このままじゃ本当に逃げ遅れる。
「静ちゃん!」
「うん、皆そのまま…っ」
お茶子のお陰で騎馬が軽くなっているお陰で静は個性を思いっきり扱える。
既に開始前から張っておいたオーラによって騎馬を宙に浮かせていき、沈みかけていた体を空中に逃がす事が出来た。
「よしっ!」
「テレキネシスによる浮遊とはな」
「さすが静ちゃん!」
お茶子たちに褒められ静は思わず口元が緩んでしまいそうになる。
「耳郎ちゃん!」
「わってる」
下で葉隠の声と共に耳郎の耳から伸びるプラグが真っ直ぐに此方を捉えて更に伸びてくる。捕まる、と一瞬思ったのもつかの間。
シュンッと自分の真横を黒い大きな影が横切る。その大きな影はバシッと耳郎のプラグを跳ね除けた。
「いいぞ黒影(ダークシャドウ)。常に俺達の死角を見張れ」
「アイヨ!」
徐々に高度が落ちる中、その大きな黒い影と会話を交わす常闇。
「すごいよカッコいい!常闇くん!静ちゃん!」
「選んだのはお前だ」
「うん、出久くんだって凄いよ」
「着地するよ!」
常闇の言う通り、それぞれの個性を見越して誘ってくれたのは緑谷自身だというのに。そして遂に高度が地面に近くなり始めるとお茶子が個性を発動する。
これにより静の個性を使わずとも何の衝撃も無くフワリと着地出来た。
そう、本当に凄いのは常闇やお茶子は勿論、彼らのメリットを補えるような人たちを選んだ緑谷の方なのだ。
《さ〜〜〜まだ2分も経ってねぇが早くも混戦混戦!各所でハチマキ奪い合い!1000万を狙わず2位〜4位狙いってのも悪くねぇ!》
あちこちでハチマキの奪い合いが繰り返されている。
実況の通り自分達の1000万Pで一気に1位を狙う者も居れば、コツコツと別のチームのPを稼ぐ者も居る。
将に混戦。その中でいかに生き残るか…このまま上手く逃げ切れればいいのだが。
「アハハハ!奪い合い…?違うぜこれは…一方的な略奪よお!」
不意に後方から声が聞こえて振り返る。と、そこに居たのは物凄い勢いで此方に突進してくる障子、ただ一人。
「障子くん!?あれ!?1人!?騎馬戦だよ!?」
「一旦距離を取れ!とにかく複数相手に立ち止まってはいかん!」
突進してくる障子。かなり違和感があると思えばなんと障子のみが此方に向かって突進してくるのだ。ルールにも2〜4人と言っていた気がするが。否、今はそんな事を考えている暇じゃない。障子だけじゃなく、緑谷のPを狙う他の騎馬もこちらに向かってくるのが見えた。常闇の言う通り一旦距離を取らなければ―…。そう思ったのだが、
「なっ、何これ!?ちょ、取れへん!」
「それ峰田くんの!!一体何処から…」
ブニ、と何か柔らかいものを踏んだ感覚。粘着力の凄いそれは靴底にくっ付いて地面から取れそうにない。つまり動けない。何だこれはと一緒に踏んでしまったお茶子とえいっえいっと、もがく。出久が峰田の個性だと言っていたが、見た目峰田くんの姿は見えない。何処から狙ってきて――。
「ここからだよ緑谷ぁ…」
「なァァ!?それアリィ!?」
「アリよ」
なんと単独で突っ込んできたと思われていた障子の背中…彼の個性である複製腕に包まれるようにして隠れていた峰田がその隙間からこっそりと顔を覗かせているのが見える。
そんなのアリかよ!と誰もが思うも、ミッドナイトからすんなりとOKが出た。本当に何でもアリな騎馬戦のようだ。
と思っていた矢先、不意に峰田くんの横から目にも留まらぬ速さで何かが此方に飛んでくるのが見えて慌てて緑谷も危険を察知したのかその反射神経で飛んできたソレを避ける。
…と、避けた先に居たB組のチームに飛んできたそれがぶつかりそうになりB組も驚いた声を上げていた。
「さすがね 緑谷ちゃん…!」
「蛙吹さんもか!すごいな障子くん!」
「梅雨ちゃんと呼んで」
峰田の横に並び、障子の複製腕の隙間から顔を覗かせたのは蛙吹梅雨。どうやら飛んできたのは蛙吹の舌らしい。
ということは障子1人で騎馬やって2人を背負っていることになる。
《峰田チーム圧倒的体格差を利用しまるで戦車だぜ!》
この状況をどう打破しようかと皆が考えていた中、静は一人意識を集中させ、負荷がかかった状態での浮遊を試みる。
静の個性であるテレキネシスは確かに万能だ。自分が視認しているもの、触れているものに直接エネルギーを与え、自由に操ることができる。
しかしそれは重量が大きいもの、つまり負荷がかかっていないものでないと、今の静には扱えないのだ。
(けど…今はそんなこと、言ってられない…っ)
先ほどの障害物競走で緑谷は驚くような成績を見せてくれた。昔の彼からは考えられないような。
――今度は自分の番だ。
「皆、飛びます…!!」
「っ…はいっ!」
「ああ!」
「うわっ」
オーラにできるだけ力を籠め一気に飛びあがる。
(できた…!私でも、やれば…できた…っ)
本日2度目の飛び上がり。あんなに負荷のかかった状態での浮遊は初めての挑戦だったが、無事成功することができ思わず顔が綻びそうになったのも束の間、不意に日が翳った。
え、と思う暇もなくそちらに皆が視線を向け驚いた。
何で、此処に―――否…非常に、マズイ。
「調子乗ってんじゃねえぞクソが!!」
「常闇くん!」
「きゃあぁあ…っ!!」
「静ちゃん!?」
物凄い顔つきで迫る爆豪が大きく腕を振りかぶっている。
これは本当にマズい。空中では避ける術がない。即座に緑谷の指示が飛び、常闇のダークシャドウが動いたお陰で爆撃の後にやってきた爆風を防ぐことが出来た。
「こ、こ、怖かった……」
「た、助かったよ静ちゃん」
再びお茶子の能力で無事に着地するや否や、呼吸を整えに入る静。幼馴染とはいえ、あの鬼のような形相には如何せん慣れないのだ。
本気でビックリした事を悟ったのであろう緑谷が困り気味に声を掛けてくる。その後ろでは単独で飛び上がった爆豪を瀬呂が個性のテープを飛ばし、回収していた。
《おおおおおお!?騎馬から離れたぞ!?いいのかアレ!?》
「テクニカルなのでオッケー!地面に足ついてたらダメだったけど!」
これで空中も危険な事が立証された。否、本当に彼は何をするか分からない。目的の為なら手段は選ばないだろう。
《やはり狙われまくる1位と猛追をしかけるA組の面々共に実力者揃い!現在の保持Pはどうなっているのか…7分経過した現在のランクを見てみよう!》
実況中継の声も遠くに聞きながら、兎に角立ち止まらないように駆け足で動き出す。と、不意に実況の言葉通り、会場にばかり目を向けていたであろう観客たちが一斉にモニター画面に視線を移し…息を飲むような音が聞こえた気がした。
声援で湧いていた会場がシン…と少しだけ静まり返る。その空気に自然と視線がモニター画面に向いた瞬間、緑谷たちも一瞬ポカンとしてしまった。
《……あら!?ちょっと待てよコレ…!A組 緑谷以外パッとしてねえ…てか爆豪あれ…!?》
今さっき、此方に奇襲を仕掛けてきた爆豪チームからPが消え、峰田や葉隠のチームからもPが消えている。
代わりに緑谷達の後を追うのはB組ばかり。どうやらB組は予選で第2種目に昇れるギリギリラインを走り後方から此方の個性を観察…予選を捨てた長期スパンの策だったのだ。
確かに後半戦に入り、コツコツ他のチームからとにかくPを稼ぐチームが徐々に増えているようだ。ならばこの流れに乗って逃げられればいける。
「皆、逃げ切りがやりやす…」
が、その笑顔もすぐに消える。緑谷の言葉を遮るように立ちはだかる壁。その巨大な壁に実況の声が遠い。
残り時間はあと半分、あと半分なのにどうしてこうも簡単に逃げ切れないのだろうか。
「そろそろ 奪るぞ」
八百万百、上鳴電気、飯田天哉が騎馬のチーム。そしてその3人が支える上に騎手として凄い剣幕でいる轟焦凍。
今までに見た事が無い彼の言葉が自棄に冷たく響いた。
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