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《今回の体育祭、両者トップクラスの成績!まさしく両雄並び立ち、今――緑谷VS轟、STERT!!》

開始早々、轟の氷結が緑谷に襲いかかる。地面から次々と氷山のように突き出してくる無数の氷結が、まるで見えないレールの上を伝うように、真っ直ぐ緑谷に向かっていく。しかし緑谷は轟の攻撃を読んでいたのか、まだ制御のできていない“個性”を用いて氷結攻撃を防いだ。あまりの超絶パワーに耳を劈くような破壊音と、会場全体に舞い上がる冷気に身体を震わせた。一発目から痛みに顔を歪ませる緑谷の中指は、紫色に変色してしまっている。もうあの指は使えないだろう。やはり、自損覚悟の打ち消し。そうしなければ轟の氷結を防ぐ方法はない。もう一度轟の氷結が緑谷を襲う。それも超絶パワーで防げば、彼の考えていることがわかった。時間を稼いで轟の欠点を探っているのだ。瀬呂の時も一瞬で勝敗が決まり情報が少ない中、リスキーな“個性”で突進しても早々に自滅してしまう。だから指を1本ずつ犠牲にして攻撃を防ぎながら、轟の“隙”を見出す算段だろう。“個性”には必ず限度がある。どんなに強力で隙を感じない“個性”でも、身体機能のひとつである以上完璧な“個性”は存在しない。轟の容赦ない攻撃が繰り出されるが、その度に緑谷は自損の“個性”で打ち消していく。右手が全滅した。両者一歩も引かぬ攻防戦に先に動きを出したのは轟。地を蹴り、緑谷の“個性”に臆することなく距離を縮めていく。足元からパキパキと氷結が現れる。緑谷は“個性”で氷を砕くが、間髪で飛んだ轟は着地と同時に津波のような氷結で緑谷を襲った。距離が近い。その間に轟は次の手を仕掛けようと準備している。次の瞬間、今までよりも強力なパワーで氷結を防いだ。緑谷の左腕が力無く揺れている。あの距離とその先を見据えれば、やむを得ず指ではなく腕を用いたのは賢明だろう。緑谷のパワーではなく、轟の目を見張る程の戦闘能力に会場がざわつき始めた。判断力も“個性”の扱い方も、戦闘に於いて必要不可欠な能力が誰よりも抜きん出ている。轟は、白い息を吐く。連続して氷結を使用したことによりフィールドは観客席以上に温度が下がり、轟自身にも右側だけ霜が降りている。見るからに寒そうだ。轟は慣れているのだろうか、それとも――右手中指から繰り出された超絶パワー。両腕が使い物にならなくなった緑谷にとどめを刺そうとした轟の氷結が、壊れたはずの指で防がれたのだ。最初の一発目よりも力の込められた攻撃に轟は後退し、自身の作った氷壁で場外を防ぐ。「てめェ」と口調を荒らげた。そんな彼に“震えている”と緑谷は指摘した。

「“個性”だって身体機能のひとつだ。君自身、冷気に耐えられる限度があるんだろう・・・?!でも、それって、左側の熱を使えば解決できるもんなんじゃないのか!?」

傷だらけの彼の姿に静は口許を指先で覆う。正直、見ていられない。許されるなら今すぐにでも飛び出して、彼を救いたい。対人戦闘訓練の時のように、顔を逸らしたくなる。けれど今の彼はどこか悔しげで、それでいて怒りを蓄積させていた。満身創痍の緑谷は壊れた右手を無理矢理動かそうとしている。

「皆・・・本気でやっている。勝って・・・目標に近付く為に・・・っ1番になる為に・・・!半分の力で勝つ?!まだ僕は君に、傷一つ付けられちゃいないぞ!」

――“全力”でかかって来い!!

壊れた右手で作った力強い拳を轟に向けた。半分の力だけでなく、右側も含めた彼自身の“個性”を全力でぶつけてこいと言いたいのか。皆本気だ。轟も複雑な家庭環境の中で起きた境遇や、千辛万苦を晴らす心算であることもわかる。しかし目標の為に本気で勝負を挑み、悔しい思いをして涙を呑む姿を見てきたからこそ、私情を挟み半分の力で勝とうとする轟の姿勢が目に余り、血に囚われて自分自身と向き合えていない姿が放っておけないのだろう。轟の表情から苛立ちが窺える。接近戦なら緑谷は敬遠すると地を蹴り距離を縮めていく。ところが最初に比べてスピードは落ちている。身体が冷えきった為に筋肉が固まり動きが鈍くなったようだ。轟が右脚を出した瞬間に緑谷から距離を縮め、自ら近接攻撃を持ちかけてきた。轟の右手が緑谷の左腕を凍らすが、臆しない緑谷の壊れた右拳が、轟の腹部に直撃。あの轟に一発いれやがったと観客が驚愕と興奮に塗れる。轟の威力もスピードも弱まっている中、互いに一歩も引かぬ戦いが繰り広げられている。

「何でそこまで・・・」
「期待に応えたいんだ・・・!笑って応えられるような・・・かっこいいヒーローに――なりたいんだ!」

だから皆全力なんだ。轟のなりたいヒーロー像とは何なのだろうか。自身に敷かれたレールの上をただただ歩くだけのヒーローか、そのレールを敷いた当人へ腹癒せするだけのヒーローか、定められた運命を毀ち新たなレールを作り突き進むヒーローか。きっと今は父親への完全否定の為だけにこの場に立っている。けれど全力を出さないで1番になり完全否定するなんてふざけるなと緑谷は言う。氷結を発動しようにも身体が限界か、氷結のスピードも落ち、轟自身も震えが増していた。その隙をみて緑谷は接近すれば「だから・・・僕が勝つ!君を超えてっ!」――もう一度、轟の胴体に拳を叩き込んだ。地面に叩きつけられた轟はダメージを全身に感じながら、ゆっくりと上体を起こす。轟の中に幼き頃の記憶か浮かぶ。5つの轟は外も遊ぶことも出来ず、父親に血反吐を吐かされる特訓を繰り返す日々。母親が止めに入るが、自身の妻にも関わらず暴力で抑圧。心の支えだった母親が電話先の相手に『あの子の左側が醜い』と口にし、怨嗟を向ける双眼と共に左目に浴びせられた、煮え湯。翌日病院に入れられた、母親。父親へ対する憎悪。

「親父を――」
「君の!力じゃないか!!」

緑谷の言葉に何かが崩れるような音がした。オールマイトのように、私が来た、と血に囚われ“ならなければならない自分”ではなく、“なりたい自分”になっていいんだよと母親に言ってもらえたあの日の記憶。轟の中に忘れていた筈の記憶が蘇る。――ぶわっ、と全身に触れていく熱。戦闘に於いては絶対に使わないと宣言した炎熱。それが今、解放されたのだ。轟々と燃える炎は圧巻である。目を奪われていれば会場に響き渡るエンデヴァーの激励に口をぽかんと開けた。自身の野望の為につくりあげた息子が己を受け入れた瞬間を喜んでいるようだ。しんと静まり返る会場に『エンデヴァーさん急に“激励”・・・か?親バカなのね』という若干引き気味のプレゼント・マイクの声が沈黙を破った。けれどまだ、勝負は決まっていない。轟が右足から氷結を発動。左側の熱で弱点を解決したことによりスピードが戻っている。緑谷も超絶パワーを左足に込めて地を蹴りあげた。なるべく近くで、全力をぶつける。轟が炎を纏う左手を前に突き出し、緑谷もありったけの力を右腕に込めた。危険だと判断したミッドナイトとセメントスも動き出す。セメントスがコンクリートの壁をふたりの間に何重にも隔てた。しかしそれは氷で冷やされた空気が熱で瞬間的に膨張したことにより大爆発を起こしたのだ。爆風で目が開けるのも困難な中、片目だけでもと刮目した。爆煙で視界が妨げられているが、次第に晴れていけば、ラピスラズリに映ったのは場外の壁に凭れるように立つ緑谷。しかし彼はそのまま気を失ったように地面に倒れてしまった。それじゃあ、この戦いは――

「緑谷くん・・・場外。轟くん――・・・三回戦進出!」

フィールドに確りと立つ姿を見せている轟の勝利。ハンソーロボに搬送される緑谷を見届ければ、麗日が心配だから見に行ってくる立ち上がる。それに続くように飯田、後ろから峰田と蛙吹が続いた。途中「照己ちゃんはいいの?」と立ち止まり振り返った蛙吹が小首を傾げる。自分は次が試合だから後で様子を見に行くね、とフィールドが補修されていく様子を眺めながら呟いた。

そう、次の試合は静の二戦目の試合なのだ。
舞台が修繕され再開した照己VS塩崎。
相手はB組の女子、上鳴との試合で自分の髪でもある“ツル”を操る個性だ。
スタートの合図と共にやはり静に向かってツルが勢いよく迫ってきた。静も素早く浮遊したいが、ツルはいくらでも伸び地上のみならず空中まで追ってくるだろう。
なので下手に逃げ回るよりは攻撃に入ったほうがいい。
そこで、塩崎の個性である“ツル”を逆に利用させてもらうことにした。

「っ!?私のツルが…!」

テレキネシスでツルの動きを操り、塩崎の方へと向かわせる。
勿論、塩崎の方も負けじと抵抗するので負荷はかかっているが、一気に畳みかければ問題ない。
ツルを鞭のように使い相手を場外へと飛ばす。

《塩崎さん場外!照己さんの勝利!》

そして無事に二回戦も通過することができた。
塩崎との挨拶を終え、選手退場口の方を歩いていると途中にいたのは意外な人物だった。

「や!頑張ってるね!照己少女!」
「オールマイト…!」

筋骨隆々なスーツ姿のオールマイトだ。
いつものように明るい笑顔で賞賛を述べてくれた。
しかし、いつもはどちらかというと緑谷に目をかけているオールマイトが何故自分などに声をかけてくれたのがふと疑問に思う。

「出久くんじゃなくていいんですか…?」
「え!?み、緑谷少年には先ほど声をかけたよ!しかし、私は雄英の先生だからね!生徒達皆が大事さ!ハハハ!!」
「…?」

何故か冷や汗をかいているオールマイトに首を傾げつつも、あの憧れのヒーローが激励を述べてくれたのだ素直に喜んでおくことにした。

「次は轟少年とだね!…あまり無理せず頑張りたまえ!」
「は…はい…っ!」

そう言って静の頭をひと撫ですると背を向けて廊下を歩いていった。
以前ヒーロー基礎学でも頭を撫でられたことがあったが、オールマイトの大きな手は全てを包み込んでくれるかのように安心する、そんな魔法がかけられてるような気がするのだ。

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