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無事にヒーロー科に合格した静は今日から雄英高校ヒーロー科A組に通うこととなる。だが、その前にある苦難が。満員電車辛い。
乗り換えの人が多く乗る駅。通勤通学、社会人も学生もが大移動するこの時間帯は人であふれかえっていた。
目的の降りる駅ではないが、人の流れに逆らわずに一度降りて再び乗車するタイミングを待つ。するとポケットが震えた。確認するとそこには新しい学校どう?と中学からの友人からのメッセージが。時間的にまだついてないでしょう?と笑いながら返事をしていると電車の発射音がなった。
足を進めつつスマホ画面から視線を満員電車のドアに向ける、と、見覚えのある色素の薄いクリーム色の髪の毛と吊り上がった目と目が合った。
「…爆豪、くん」
「あ”?」
「あ、おはよう」
鳴り響く発射を知らせるベルの音。満員電車のドア付近、無理に入れば私ぐらい乗れるだろう隙間は見受けられる。けどあそこに入ったら確実に彼との距離はゼロに近い。静がこの電車見送ろうかな、と思っていたときだ。
「あ…っ」
ドア付近に突っ立て居たのが悪かった。後ろから乗ろうとしたちびっこに体当たりされ電車内に一歩踏み行ってしまった。「発射しまーす!お荷物を引いてください!!」と言う駅員さんの言葉に爆豪に背を向け電車に乗る。
閉まるドア、ドアが閉まったら隙間なんてなかったことに思い知らされる。動き出すとさらに。
「…〜〜っ」
近い。その言葉に尽きる。静の後に乗ってきたちびっこによりピッタリとくっついた静と爆豪。あと4駅はこちらのドアは開かない。つまり暫くこのままなのだ。
そんなことを考えているとトンっ、と私の横に現れた誰かの手。静の後ろからでこの位置に手が来るなんて後ろにいる爆豪以外考えられないのだが。
緩やかなブレーキで重力が体にかかる。やっと一駅目の駅に停車する電車。変に緊張して硬くなった体を少し動かそうとしたとき、静は髪の毛に何かが引っ掛かったような気がした。
誰かの服とかカバンに引っ掛かってるようだった。
確認しようときゅうきゅうに詰められている中手を動かし引っ張られている髪に手を伸ばす。
「おい」
「は、はい…」
「動くな」
「え?」
「…」
「!!」
髪に伸ばし肩のあたりで止まっている静の手と爆豪の手が重なる。そして彼女の横についていた手が視界から消えた。その瞬間感じる少しの重圧と髪を触られている感触。動き出す電車。その数秒後、放れる手が終わったことを知らせた。
「あんまり近よんじゃねぇよ」
「ご、ごめん、なさい…満員電車だから許して、欲しい…です」
「…」
「…えっと、ありがとう…?」
そして再び私の横に現れる手。それと同時に軽くなる圧力。手を見ると少し力を入れてるみたいで。もしかしたら、
(潰されないようにしてくれてる…?)
満員電車のわりに快適な気がするのは、後ろにいる彼のおかげなのかもしれない。
右に左に揺さぶられ、爆豪に寄りかかったり舌打ちされながら目的の駅に到着した。巴は心臓がいつ破裂するやもしれん状況からやっと脱却できることに安堵する。
「わ…っ」
店員オーバーしていた電車から前のめりに押し出され、転ぶ、そう思ったがバランスを崩した体を誰かにグイッと引っ張られた。
反射的に引っ張られた方向に振り返る、ありがとうの言葉が喉まで出かかったが、そこにいたのは先ほども背後にいた彼で、一瞬言葉に詰まってしまう。
「ぁ…」
「…」
「あ、ありがとう、爆豪くん」
「…ちっ」
爆豪は腕を放すと何も言わず改札の方に歩いて行ってしまった。人の波に消えていく彼をぼんやり見送りながら電車内でのことを脳内で再生する。
あの時扉についた手は静を満員電車の窮屈から守ってくれてて、髪の毛だって見えない状態で変に触るとぐちゃぐちゃになるからで、都合がいいかもしれないけど、そんな気がする。それに今だって、転びそうな自分を助けてくれた。
昔からそうだ。怖いと思ったら優しくて、でも言動は大声で荒々しくて、顔だって凶悪だし。でも小学校のとき、優しさに気がついてしまった。気のせいかもしれないし気まぐれだったのかもしれない。でも少し嬉しいと思ってしまったのはどうしてなんだろう。
▽▲▽
憧れのヒーローになる為に、ヒーローを志す者ならば一度は目標に掲げる登竜門――名誉ある学生証を身につけ、厳重なセキュリティ対策が施された名誉ある門を潜り、“1−A”と大きく記された大きな扉にたどり着くまでの道のりの中、どれだけの生徒が少女の姿を目で追っただろうか。制服の上からでも見受けられる凸凹のあるスタイルをした少女は、艶のある黒髪を靡かせながら颯爽と歩む。男女問わず飛び交うのは麗人を形容する言葉や感嘆の息。
あの後、爆豪を追いかけるように駅を出た静は道に迷うことなく雄英高校に到着した。
長い廊下を進めば、1−Aと大きく書かれた扉。カラカラと静かに教室のドアを開けると、もう殆どの席が埋まっている中でいくつかの頭が静に振り向いた。
男子生徒14名、女子生徒6名の少年少女だが、中には”異形型”の姿も見える。
一方で、振り向いた生徒達の殆どが突然現れた美少女に目を奪われていた。特に男子生徒達の多くは目を皿にして視線を一変も逸らさないように。
そんな視線をひしひしと感じながらも、静は静かにドアを閉め窓際の席に向かう。しかしその途中、誰かに突然腕を掴まれる。振り向けば、髪の毛が赤と白にわかれた男の子にじっと見つめられていた。
「お前……」
「え、あの…」
入試で一緒の会場になった人だろうか。こんなに目立つ人ならすぐに気づきそうなものだが、静の記憶にはない。
「すまない、人違いだ」
そう言った少年は席に戻っていく。少しだけ、あの特徴的な髪の毛に憶えがあるような、無いような。違和感を感じながら、自身も席に着いた。
「机に足をかけるな!雄栄の先輩方や机の製作者方に申し訳ないと思わないのか!?」
「思わねーよ!テメーどこ中だよ端役が!」
静より先に学校に着いていた爆豪が眼鏡をかけた男子生徒に私的を受けていた。あの爆豪に注意をするなど、今までの学校生活ではあり得ない光景だ。しかしそれにより、少ながらず自分に向いていたいくつかの視線はその方に逸れていた。
男子生徒二名の騒がしいやり取りと、新たに恐る恐る教室へ入ってきた別の生徒、出久。それに続いて駆けこんできた女子生徒。その騒ぎを面白がっている生徒、傍観する生徒、我関せずと目もくれない生徒。それぞれに強い個性を携えた21名のA組生徒たちだったが「お友達ごっこしたいなら他所へ行け」という特に響きもしない一声にシンと静まった。教室前の廊下でミノムシの様に寝袋に収まって転がっていた男がのそりと起き上がり教室に入ってくる。
「担任の相澤消太だ、よろしくね」
肩下まで伸びた長い髪、合間から見える覇気のない目と無精ひげ。真っ黒い服装と首元の白い布。屈指のヒーロー養成所である雄英の強みは、教壇に立つ教師が皆現役のプロヒーローというところにある。しかし、華やかな稼業であるヒーローにしてはあまりにくたびれた様相の男を生徒は誰も見覚えがない。
「早速だがコレを着てグラウンドに出ろ」
入学初日。てっきりこれから入学式やガイダンスなどが行われ、いよいと雄英生としての現実味が増してくるんだろう…と期待していた生徒たちだったが、相澤から渡されたのは人数分の体操服。生徒達は言われるがまま服装を着替えグラウンドに出た。
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