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「はい、終わったよ」
「有難うございます」
「あの出久って子もかなり無茶する子だけど、アンタも随分無理する子だねェ」
「す、すみません…」
頬に貼られたガーゼ。地面に転がった時に擦ってしまったらしく、擦り傷になってしまっていた。他にも腕や足にも擦り傷が出来ていたがリカバリーガールの治療のお陰で歩けるまで回復してくれた時に一緒に消えた。まだ完全ではないが。
「もし気分が悪くなったりしたら、またおいで」
「はい、分かりました」
素直にリカバリーガールの言葉に頷き、腰かけていたベッドから立ち上がるとスンナリと体が持ち上がる。嗚呼、なんて体が軽いのだろう。運び込まれた時は起き上がれないぐらいだったのに。流石リカバリーガールである。ありがとうございましたと頭を下げながらリカバリーガール出張所を後にする。
一方で、静が通路に出て扉を閉めたのを確認したところでリカバリーガールが、静が処置されていたベッドとは反対側のカーテンに顔を向ける。
「行ったみたいだよ」
そう呟くと、カーテンから顔を出したのはトゥルーフォーム姿のオールマイトだった。
静が処置を終えて出張所を出るまで隠れていたらしい。
「全く、アンタも大変だね」
「すいません…」
オールマイトの秘密は緑谷を除いて生徒達に知られるわけにはいかないのだ。
たとえそれが…、
「………身内であっても…知られるわけにはいかないのです」
彼の小さな呟きに、リカバリーガールも困ったように溜息を零した。
▽▲▽
(…一応、連絡しておこうかな)
静は出張所を出て通路を歩いている途中、不意に思った。治療中に医療ロボが控室から持って来てくれた私物の携帯をポケットから取り出し、電源を入れる。朝、電話をしたときも、今日は仕事を休んでまでテレビを見てくれていると言っていたのでもしかしたらと。
ピッピ、とアドレス帳から選択し通話ボタンを押す。
携帯を耳に当てれば、呼び出し音が鳴り始める。数回呼び出し音が鳴り、
『静ちゃん!?心配したのよ!?大丈夫なの?今は動けるの!?ママ、心配で心配で…っ』
「…うん、大丈夫だよ。そんなに慌てないで」
静の母親が出た。実家を離れての生活の中、定期的に連絡は取っていたがこんなに慌てた様子で出る母は初めてだ。余程心配させてしまったのだろう。
「あのね…負けちゃった……」
『いいのよっ…そんなに気にしないの…、静ちゃんだけよ?女の子で一人準決勝まで行ったなんて!凄いわぁ!
パパもね一緒に見てたのよ。でもね、静ちゃんが倒れちゃったの見たらショックのあまり気失ったみたいで……今ベッドの上なのよ?もう、だらしないったらありゃしないんだから!』
静ではなく何故父が横になっているのか突っ込もうかと思ったが、母親のぷりぷりに苦笑交じりに応えておいただけにしておく。
「ママ…私、もっと…もっと頑張るね」
『……うん、分かってる。こんなに一生懸命な静ちゃんだもの、きっと素敵なヒーローになれるわ。応援してるから」
「うん…」
『ただし!あんまり無茶はしないこと!……身体は労わってね』
最後は母の懇願のようにも聞こえた。
雄英に上がる前、ヒーローになりたいと両親に伝えたとき、二人は一瞬だけ悲痛そうな顔をしていた。
その後、静の夢を応援すると快く了承してくれたが、あのときの両親の顔は今も忘れない。
言葉にしないだけで本当はたくさん不安にさせているんだろう。
「分かってる…ありがとう…、じゃあまた連絡するね」
初めての体育祭、静はここで敗退となった。
けれど立ち止まってはいられない。自分のためだけではなく、育ててくれた二人のためにも。
それから携帯をしまうと、不意にこちらに向かってくる足音がしてそちらに顔を上げる。
「あ、…」
通路を曲がって現れたのは爆豪だった。
もしかするとこれから試合なのか、それとも試合が終わったのか…どちらにせよ彼と二人っきりになるのは、静が初戦に行く前のあの時以来だ。
「お疲れ……?それとも、これから…」
「あ"?今、準決勝終わったんだよボケ!次が決勝だわ!」
「ご、ごめんなさい…!そうなんだ…、凄いね…決勝なんて」
「ったりめーだわ」
怒りつつもご丁寧に準決勝が終わったこと、これから決勝に進むこと全て教えてくれた。
そして、ふと静は爆豪に言われた言葉を思い出す。
「あ、の…ごめんなさい……負けちゃって…、負けたらぶっ飛ばすって、爆豪くん言ってたのに……」
初戦の前、『さっさと負けたらぶっ飛ばす』と彼は言っていた。
静にとってそれは『負けたら許さねぇ』という頭の中で謎の変換が起こっていたのだ。
しかし爆豪はポカンとした顔で彼女を見ている。
「え、…あれ…?ぶっ飛ばさない…の?」
「てっめぇは………何勘違いしてんだクソが!!」
「ひっ…!!ご、ご、ごめんなさいっ」
やはり彼は静と話していると怒ってしまうらしい。デジャヴのような話の流れ。
そして静がビクビクと怯えていると、爆豪はふと何かに気づいたようで。
「おい」
「はい…」
「ソレ、さっきのか」
爆豪がソレと指差すものは、静の頬に貼られているガーゼだった。
真っ白くて汚れのないような彼女の頬には不釣り合いのもの。
「あ、これは…さっきの試合で落ちたときに擦りむいて……」
「……」
「そんなに酷くなくて…っ、えっと…リカバリーガールが歩ける体力を残したほうがいいからと、ここは治癒できなくて…」
普通ならリカバリーガール出張所で傷も綺麗に治るものだが、静は今日一日歩ける体力を残すためにも治癒には限りがあったのだ。それだけ壮絶な試合だったことを物語る。
納得のいく説明をしようと静が喋っている途中、爆豪は怒りの形相から一変、とても静かな真剣な面持ちになり、何も言うことなく背を向ける。
結局伝わったのかどうか謎だったが、静も観客席へ戻ろうと背を向けようとした。
すると、
「少しでも見落としたら承知しねぇぞ」
「…?」
「テメェを負かしたヤツをオレが負かして、一番になってやる」
そう言って、爆豪は背を向けたまま前に進んでいった。
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