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「あの2人が・・・どうなるんだろ」
「彼、意外と頭脳派だから単調な攻撃は通らないだろうし、轟くんはまだまだ未知数な炎熱を使えば手数も増えるし有利になると思う」
「しっかり見てリベンジだな!」

静は観客席へと戻り、緑谷たちと次の試合の準備に取り掛かる様子を眺めていた。すると突然、飯田が激しく震えだした。何事だと3人は目を白黒させながら飯田を見れば、彼は事も無げな顔で電話だと口にし、胸をなで下ろす。
そのまま席を外した飯田を見送り、決勝戦が始まる前に飯田が戻ってくるのを待つ事にしよう。

『兄さんが敵にやられた』戻ってきた飯田の口から出てきた事態に思わず目を見張った。家族のそんな知らせを聞けば気が動転してしまうだろうに、彼は気丈に振舞っていた。言葉を失う3人にそれじゃとあの奇妙な手の動きを交えて、飯田は階段を駆け上がって行ってしまう。飯田にとってインゲニウムの兄は憧れでもあり、目標でもあり、家族。無事でいてくれと願う事しか静達には出来ないのだ。

『さァいよいよラスト!雄英1年の頂点がここで決まる!決勝戦、轟VS爆豪、今――START!!』

ついに始まった決勝戦。開始早々やはり氷結で攻め込んできた轟。瀬呂戦ほどの規模ではないが、一撃を狙いつつ次を警戒しているようだ。まるでモグラのように掘り進んできた爆豪にはこの手の技は通用しない。次いで轟は氷結攻撃を繰り出すも、爆豪は爆発を利用し轟の上に飛ぶついでに左側の髪の毛と肩を掴み思い切り投げ飛ばした。氷壁を作り、場外アウトを防ぐ。ギャリギャリと嫌な音を立てながら氷壁を滑るも、投げられた勢いが止む前に爆豪が次を仕掛ける。距離を縮め右手を大きく振りかぶった。しかしそれは避けられ、轟は咄嗟に爆豪の右腕を左手で掴んだ。使うのか――バッと掴んだ腕を放り投げた。炎を使うのを躊躇しているようだ。爆豪の表情に苛立ちが募っている様子がわかる。

「てめェ虚仮にすんのも大概にしろよ!ブッ殺すぞ!!」
「!」
「俺が取るのは完膚なきまでの1位なんだよ!舐めプのクソカスに勝ったって取れねんだよ!デクより上に行かねえと意味ねえんだよ!!勝つつもりもねえなら俺の前に立つな!!――何のためにここに立っとんだクソが!!」

爆豪の怒号が轟く。掌を激しく爆発させながら怒りを露わにする彼は、左側を緑谷には使い自分には使わない事が、とどのつまり左側を使うまでもない相手と認識されているようで腸が煮えくり返る思いなのだ。爆豪は両手を大きく振り下ろし、爆発を利用して上空へのぼる。爆発を交互に繰り返し、勢いと回転を利用して轟目掛けて突っ込んでいく。轟は迷っているようだ。使っていいのか否か。

「負けるな頑張れ!!!」

緑谷が突然立ち上がり、大声で轟に声援を送った。ここに立つ以上、境遇も何も関係ない。
勝つ事だけを考えろ。その声援に応えるようにボッと轟の左側から炎が現れる。
しかし――麗日戦で見せた特大火力も相まって、地響きと耳を劈く爆発音が会場全体に駆け巡った。
氷結が爆発の熱で音を立てながら溶け、地面には水溜りや塊が落ちる。視界がクリアになった瞬間、地面にへばりついている爆豪は自身の目を疑った。場外まで飛ばされた氷壁の残骸に横たわる、轟の姿。
一瞬見せた炎は結局使わず終いで、爆豪は怒りに震えながら立ち上がり、1歩ずつ轟に近づいた。
ふざけんなと気絶している轟の胸倉を掴み、不服を唱えようとしたが、突然爆豪はその場に倒れた。目を見張ればミッドナイトの“個性”眠り香により眠らされたようだ。
ミッドナイトが2人へ近寄り見比べれば、轟は場外の為、爆豪の勝利となった。

「以上で全ての競技が終了!今年度の雄英体育祭1年優勝は――爆豪勝己!!」

約12万人収容した観客による歓声が沸く。すごい迫力だが、爆豪が起きれば大変なことになるのではと危惧した。不名誉な勝利だと。けれど轟の中にある蟠りが無くなってきている事は確かだと、通路で出会した際に感じた。
静は隣で神妙な面持ちでいる緑谷を盗み見する。彼との戦いから轟の調子に変化が起きた。良い意味でも悪い意味でも。ハンソーロボに搬送されていく2人へ顔を向けて見下ろしながら、静はひとつ息をついた。

号砲が鳴り止み、多くのメディアが観客先前方に押し寄せ、ベストショットを狙っている中行われる表彰式。
しかし今はそれどころでは無いと言いたげに、1位の表彰台に縛り上げられている猛獣に愕然としていた。
起きてから暴れたらしい爆豪は、あらゆる拘束具に身動きを封じられるも鎮まることはなく、止むを得ず拘束されたまま表彰台に立たされたのだ。
彼が2位の表彰台に立つ轟に向かって暴れ狂う姿は「もはや悪鬼羅刹」と3位の表彰台に立つ常闇が呟く。そして同じく三位の静はできるだけ隣の常闇の影に隠れ、爆豪と目が合わないように努めた。暴れ狂う爆豪と、見向きもせず伏し目がちに佇む轟、両者の温度差に静は苦笑いを浮かべるしかない。爆豪の納得いかない勝利もわかるが、轟もはいそうですかと長年抱えてきた闇をあっさり無かったことはできない筈。爆豪が暴れる度にガチャガチャと鎖がぶつかり合う音を鼓膜が拾う。そしてメダル授与に移った。今年メダルを贈呈するはもちろんこの人――

「私が――メダルを持って来「我らがヒーロー、オールマイトォ!」・・・・・・」

被った。気を取り直しメダルを手にしたオールマイトが常闇から轟へと叱咤激励と共にメダルを贈呈していく。

「照己少女!最後の試合、私は感動したよ。本当によく頑張ったね」

オールマイトからの言葉に静は嬉しそうに頬を緩ませ、年相応の笑顔を見せた。

「あとはその個性、自分の限度を考えつつ自在に扱えるようになったら…キミはさらに強くなるだろう、大丈夫、君ならできるさ」

最後にハグを交わすときにオールマイトが言った。
No.1ヒーローからの助言などそう聞けるものではない。有難いその言葉に静は力強く頷いた。
2位の轟の首にもメダルをかけてまた何か言葉を交わしながら抱擁している。少しばかり、彼の表情が穏やかに見えた。

そして問題の爆豪だが、これはあんまりだと口枷を取ってあげれば、鬼の形相をした爆豪が怒りに震えた声でこんな1番に価値はないと言う。オールマイトは爆豪の不変の絶対評価を持ち続けられる点を賞賛しつつ、メダルを拒む爆豪の頭から無理矢理掛けようとすれば、頭から紐がずり落ちた。
奇跡的にそのまま口の中に紐が引っ掛かり、紐を咥えるような形になったが、オールマイトはこれでよしと言わんばかりにメダルから手を離した。

「さァ!!今回は彼らだった!!しかし皆さん!この場の誰にも"ここ"に立つ可能性はあった!!ご覧いただいた通りだ!競い!高め合い!さらに先へと登っていくその姿!!次世代のヒーローは確実にその芽を伸ばしている!!」

メダル授与が終り、クルリと会場を振り返ったオールマイトが高らかに声を上げる。そう、誰しもその表彰台に立てるチャンスはあった。たった少しの差、本当に少しの差だったと思う。その差を糧にこれからも自身の力を高めることで更に先を目指すことが出来る。
その小さな差を悔しがるだけではない、そこから学ばなければ。会場の誰もがオールマイトの声に目を輝かせて耳を傾けている。これが、本当のヒーローの言葉の重み。

「てな感じで最後に一言!!」

再び高らかにオールマイトが声を上げ、空に向かって指を差す。
誰もがオールマイトがいつも愛用しているあの言葉を脳裏に過ぎらせながら息を飲む。

「「「プルス「お疲れ様でした!」トラ・・・?」」」

そこは校訓じゃないのかと満場一致で突っ込まれたオールマイトは、疲れただろうと気遣った故の“お疲れ様”だったらしい。最後まで締まらないが、高校最初の体育祭は無事に幕を下ろした。体育祭の余韻を残しながら制服に着替え教室に戻れば、軽いホームルームが行われた。明日明後日は休みで、休み明けはプロからの指名等を纏めて、発表するとの事。ドキドキしながら待ってろと言い残しホームルームを終えれば相澤は教室を後にした。

▽▲▽

帰り際、静がひとり下駄箱で靴を履き替えているときに意外な人物が声がかかった。

「照己」
「…轟くん?」

そこにいたのは間違いなく轟であった。
今まで彼と真正面で会話することはなかったが、一体どうしたというのだろうか。

「悪かった」
「?」
「顔に傷つけちまったんだってな、オレとの試合で」

本日二回目の頬のガーゼについての指摘。
もしかすると轟的には責任を感じているのかもしれない。

「ううん、大丈夫だよ。傷は残らないし、直ぐに治るって…リカバリーガールが言ってたから」
「そうか……実は決勝が始まる前、爆豪が言ってきたんだ」
「…え?」

決勝戦の前、爆豪が轟のいる控室に間違えて入った際一言二言交わしたが、その中で爆豪はこうも言っていたらしい。

“アイツにつけた傷、お前にもつけてやんよ”

「爆豪くんが…?」
「アイツとお前、幼馴染なんだろ?…大切にされてんな」

曰く、静を傷つけた轟を爆豪は許さなかったとのこと。
しかしそれを聞いた静は信じられない、という言葉しか浮かばなかった。
昔から怒りっぽくて、でも時々優しくて、本当に何を考えているか分からない。

「けど傷残んなくてよかった、オレも責任とる覚悟はしてたけど。…じゃあまた学校で」
「…せ、せきにん……?」

さらっととんでも発言を言い残して轟はスタスタ玄関を出て行った。
静はただただ呆然とするしかなかったのだった。

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