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「さて、全員のヒーロー名が決まったところで話を職場体験に戻す。期間は一週間。肝心の職場だが、指名のあった者は個別にリストを渡すから、その中から自分で選択しろ」
指名のなかった者はあらかじめ雄英がオファーした全国の受け入れ可能な事務所からの選択となる。それぞれ活動地域や得意なジャンルが異なり、今の自分、これからの自分に必要だと思う事務所を選ぶ目、判断力も必要となってくる。
「俺は都市部での対凶悪犯罪!」
「私は水難に関わるところがいいわ、あるかしら」
それぞれに配られたプリントを見て期待を膨らませる。
雄英での授業も斬新だけど、こうして生の現場に触れられる機会などそうあるわけではない。
「今週末までに提出しろよ」
「あと二日しかねぇの!?」
「効率的に判断しろ、以上だ」
相澤が締めくくると同時にチャイムが鳴り、ヒーロー情報学の授業は終わった。いくつもある事務所の中から、どこがどんな活動をしているのか調べなくてはならないのに、あと二日。相変わらず急かしてくるなと生徒たちは頭を抱えてプリントを見つめた。
職場体験。生徒たちが一週間、プロのヒーロー事務所で日々の仕事を体験する今度の課題は、本物の現場を体感できること、各々が目指すヒーロー像を確立するための足がかりとなることを目的とした実習である。
体育祭でその存在を公のものとし、成績を修めた者、個性を認められた者はプロヒーロー事務所から直々のオファーを受け、指名のなかった生徒は受け入れを任された事務所の中から選択し訪問する。
「ねぇねぇー、みんなどのプロ事務所に行くか決めたー?」
「オイラはマウントレディー!」
「峰田ちゃん、やらしいこと考えてるわね」
「違うし!」
昼休み。朝は体育祭での世間からの反応の話題で持ちきりだったA組は、職場体験が発表されてからはその話題一色となっていた。自分の将来に沿った体験先を決めた者、ジャンルに捉われず糧となるよう決めた者、憧れのヒーローの元への派遣を決めた者、それぞれだ。
慎重に選んでいかねばならないが、希望体験先の提出期限は2日の猶予しかない。
50枚以上にわたるオファー事務所のリストを見て、静は悩んでいた。
準決勝まで進んでいった静の存在はプロヒーローたちに大きく知れ渡ることができたが、こうもたくさんあっては逆に迷ってしまう。
さてどうしようかと思案しているとき、ふと斜め前の爆豪と目が合う。別段気にする必要はないのだが、タイミングがタイミングなだけについ口が開いてしまった。
「あ、…爆豪くんは職場体験、どこに行くか決めた…?」
「舐めんな。もう決めたわ」
少し驚き、何処にしたのか尋ねると、彼は「NO.4ヒーローんとこ」と簡潔に答えた。
「…じゃあ、ベストジーニストのところなんだ。何か思い入れがあるの…?」
「ハッ決まってんだろ。指名来た中で一番ランクが高かったからだ」
ヒーローとして名が売れているということは、経験値の高さを意味する。オールマイトやエンデヴァーがその良い例だ。
様々な死線を乗り越えてきたヒーローの傍で勉強することこそが最善なのだと爆豪は判断したのだ。
静は自分のオファーリストを思い出す。
爆豪と同じ選び方をするならば、自分の行く先は―――
▽▲▽
「照己」
昼食後の授業も終え、帰路に着く途中。
何時ぞやの時のように後方から呼び止められた。
「轟くん」
同じ時間割を過ごし、同じ駅に向かうのだから会うのも当然かと頭の中で納得する。
「途中まで一緒、いいか?」
「……う、ん」
まさか一緒に帰るとは思ってもおらず、内心ではかなり驚きつつもできるだけ悟られないように落ち着いて返事をした。そして轟が隣に来ることを確認すると、2人はゆっくりと歩みを進めた。
「照己はもうどこにするのか決めたのか?」
今日何度目かの問いを轟にされ、静は苦笑いを浮かべる。
「…迷ってはいるんだ…自分の得意分野に行くか、それとも視野を広げに行くか」
「照己の個性でいくと、人名救助とか向いてそうだな。推薦きてんのか」
「うん。それとあと…」
立ち止まり、轟の顔をじっと見つめる静。
轟は首を傾げ、続きを促した。
「エンデヴァー事務所からも…来てたの」
「は?」
嘘だろ? 嘘じゃないよ。
何でアイツが...。私に言われても…。
そんな問答を幾らか繰り返したところで、轟ははあと息を吐き、止まっていた足を動かす。
「俺は親父んとこに行くつもりだ。以前のままの俺だったら、職場体験で親父の事務所を選ぶなんてことは絶対なかったがな」
だからと言って赦した訳じゃないし、赦す気もない。
ただ、奴がNo.2と言われている事実をこの眼と身体で体験し、受け入れようと思ったのだ。
「アイツはアレでも、No.2と言われるだけの判断力と勘の良さは認めざるを得ないヒーローだ。正直勧めたくねぇが、照己にとっても良い経験にはなる筈だ」
エンデヴァーのアレな部分は敢えて突っ込まず、静は轟の言葉にゆっくり頷いた。
ありがとう轟くんと静が言うと、彼は短くああとだけ答え、穏やかに微笑んだ。
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