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緑谷がヒーロー殺しへと近付き、標的となる。
轟は彼に向かって振り下ろされる刀から、氷と炎両方の個性を用いて守る。
そして静は轟が防ぎきれなかった攻撃のカバーに回ったり、身動きがとれない状態である2人をステインから遠ざけ、応急処置を行う。
地面に伏せったまま為す術もない飯田はそんな3人が傷付いていく様を見て、堪えようのない感情が湧き上がってきた。

規律を重んじ人を導く愛すべきヒーロー、インゲニウム。飯田はそんな兄に憧れ、ヒーローを志した。

「止めてくれ……もう、僕は」

だが、友に守られ、血を流させ、自分のことだけしか見れていない自分のどこがヒーローと言えるのだろう。
苦しくて、悔しくて、悲しくて、飯田の目からは涙が溢れてくる。
どうしてだ。君たちには関係ないじゃないか。
これは僕の問題で……お願いだから、もう傷付かないでくれ。

「やめて欲しけりゃ立て!!」

そんな飯田の言葉を聞き、轟が叫ぶ。

「なりてえもんちゃんと見ろ!!」

―――天哉が憧れるっつーことは俺、すげえヒーローなのかもな。

そう言って笑った兄。
僕は未熟者だ。彼らの足元にも及ばない。
それでも……。

「飯田くん…っ、学級委員決めた時、貴方は出久くんに入れたみたいだけど、票が入ってたでしょう…!
あれ私が入れましたっ、 飯田くんなら、受けた期待に全力で応えようと努力してくれると思ったから…!!」

私は、そんな人がヒーローであってほしい。

静の言葉に目を見開く飯田。
自身の名前の横に書かれた正の字の一画目の存在を忘れていた訳ではない。
が、そのように信頼されていた事実を聞いて、飯田の手は震えた。

そう、僕は未熟者。
それでも……今ここで立たなければもう二度と彼らに、兄に追いつけなくなってしまう。信頼を裏切ってしまう。

「氷に炎。言われたことはないか?個性にかまけ、挙動が大雑把だと」

何時ぞや時のように意識が朦朧としてくる静。
体育祭の時ほどではないが、如何せん血を流し過ぎた。
静のフォローが遅れたことによりステインが轟へと刀を向ける。
それを見て静が慌てて個性を発動させようと腕を振りかざす。

「レシプロバースト!!」

が、その瞬間ステインの個性が解けた飯田が刀をへし折り、轟の危機を救った。

「3人にこれ以上血を流させる訳にはいかない」
「感化され取り繕おうとも無駄だ。人間の本質はそう易々と変わらない。お前は私欲を優先させる贋物にしかならない!」

ヒーロー殺しの台詞に轟が否定の言葉をかける。
しかし飯田は奴の言う通りだと拳を強く握った。

「僕にヒーローを名乗る資格など、ない。それでも……折れる訳にはいかない。俺が折れればインゲニウムは死んでしまう」

確固たる信念が覗くその表情に、静は息を呑んだ。

「轟くん、俺の脚を凍らせてくれ! 排気筒は塞がずにな!」

そして飯田の突然の頼み。
理由はよく分からなかったし、考える暇もない。言われた通り轟は個性を発動させた。
その間にも攻撃の手を決して緩めることのないステイン。
轟の防御から外れたナイフが飛んできたのを静は右腕で受ける。

「照己!」
「大丈夫。左腕は使えます」

安心させる要素など一つもないのだが、そう言って静は笑う。
彼女の身を案じた轟が、ステインへの威嚇を続けながら此方へと駆け寄ってくる。

が、その前にヒーロー殺しが静との距離を詰め、飯田を封じると同時に右腕からナイフ抜き取った。
そして跳躍し、その刀身に付着した血液へと舌を伸ばす。

「なめないで…」
「……は?」

驚愕の表情を浮かべたのはステインだ。
先ほどまで手元にあったはずのナイフは綺麗さっぱり消えていたのだ。

視線の先には血に濡れた手を此方に向ける静。
そしてその傍にはナイフがあり、カキンッという音を出して真っ二つに折れた。
あの少女、物を操るだけではなかったのか。

フィジカルの低さは気になるが、それを補って余りある程の個性のコントロール力。
さらに周りのカバーを行いながら怪我人の応急手当を真っ先に考えた、ヒーロー性。

面白い。ステインが舌舐めずりをし、再び静達に向かったその時。

「お前を倒そう!今度は、ヒーローとして!!」

飯田の蹴りと緑谷の拳が炸裂した。
放たれた一蹴りがヒーロー殺しにクリーンヒットし、ヒーロー殺しの動きが止まり、苦しそうに息を吐いた。
轟が氷結で飯田と緑谷の落下を防ぎ、まるで滑り台のようにこちらへ滑らせば、氷結に引っ掛かるように横たわるヒーロー殺しを見上げる。
滑り落ちてきたふたりに轟がまだ終わってないと、立ち上がるよう促すが、横たわるヒーロー殺しはピクリとも動かない。暫く様子を窺うが、どうやら気を失っているようだ。
静も一連の流れに目を見張っていたが、ふっと緊張の糸を解けば息をついた。

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