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ゴミ置き場には何でもあるようだ。お目当ての縄が見付かり、気を失っているヒーロー殺しを拘束すれば、傷口の応急処置を施そうと傷の深い飯田に声を掛ける。しかし飯田は大丈夫の一点張りで、それよりヒーロー殺しを引き渡すのが先だときかない。
轟も緑谷も頭を振り、頑固者たちにやれやれと息をつけば、通りに出ようと皆で歩き出した。縄を探している最中、動けずにいたプロヒーローもといネイティヴも復活し、脚を負傷している緑谷を背に抱えた。ヒーロー殺しを引く轟に飯田が変わろうと言うが、腕がぐちゃぐちゃだろと一蹴される。
路地裏を後にすれば、小柄な年配ヒーローがひょいっと姿を現した。どうやら緑谷が世話になっている職場体験先のヒーローのようで、“グラントリノ”と言うようだ。グラントリノは不機嫌そうに声を荒らげれば「座ってろっつったろ!」と緑谷の顔面に一蹴り繰り出した。そうこうしているうちに続々と他のプロヒーローがこの場に集まりだした。エンデヴァーに応援を頼んでいたおかげで、集まったヒーローは子供達の姿は勿論負っている怪我を見て救急車の手配を始めた。轟の持つ縄の先を辿り、拘束されている人物を目にすれば驚愕した声をあげた。
「あいつ・・・エンデヴァーがいないのは、まだ向こうは交戦中ということですか?」
「あぁそうだ脳無の兄弟が・・・!」
「ああ!あの敵に有効でない“個性”らがこっちの応援に来たんだ」
ふと気に病む表情を浮かべている飯田に気付き、大丈夫かと顔を覗き込めば自責の念に駆られている瞳を向けられた。小さな声で謝罪の言葉を告げられ、ふるふると首を左右に振るが、飯田の表情は変わらない。そもそも奮闘したのは彼らであり、自分は特に何もしてないのだが。飯田は静、そして緑谷と轟の背を見据えれば、三人とも、と切り出し頭を下げた。
「僕の所為で傷を負わせた。本当に済まなかった・・・。何も・・・見えなく・・・なってしまっていた・・・!」
「・・僕もごめんね。君があそこまで思いつめてたのに全然見えてなかったんだ・・・友達なのに・・・」
「――・・・!」
「しっかりしてくれよ。委員長だろ」
静はそっと、まだ頭を下げた彼に右手を伸ばした。
「私…上手な言葉があまり言えないんですが…」
形の良い彼の頭を静かに撫でながら、いろいろ考える。いろいろ伝えたいことがある。でも今は、これだけを伝えることにした。
「飯田くんは、かっこいいヒーローになれるよ」
涙声で紡がれる言葉と共にぽたぽたと零れ落ちる涙。今日まで飯田にもどうすることもできない思いが積もっていただろう。改めて自身の起こした行動を省みれば、ふたりに掛けられた言葉を胸に涙を拭いながら頷いた飯田の姿を静はただただ見据えた。
事態が収束に向かう中、一先ずヒーロー殺しはプロヒーローに任せ、負傷している彼らは救急車の到着を待つことで話が進む。静も左手の他に脳無との戦闘で全身を叩きつけられた為、念の為検査を受けることとなった。すると、どこからか聞こえてくる羽音が鼓膜を劈く。ハッとした時、グラントリノが「伏せろ!」と声をあげた。突然の指示に緑谷が小首を傾げて反応が遅れる。羽音がした方角へ顔を向ければ、片目を潰された飛行型の脳無がこちらへ向かってきている。女性のヒーローが「敵!? エンデヴァーさんは何を・・・」と口をついた辺り、エンデヴァーが相手をしていたのだと察する。バッ、と伏せて脳無を避ければ、頭上を掠めていくのを感じた。しかし――
「ちょ、…!!」
「やっ…!」
「緑谷くん!!」
「照己!!」
一瞬の隙をついて脳無が緑谷とその傍にいた静を足で掴み攫ってゆく。片目を負傷し、ダメージを受けているにも関わらずスピードは衰えていない。あっという間に小さくなっていく二人の姿に誰もが目を見張る中、突然脳無の動きが止まり落下。
その背後に、"ヒーロー殺し"がいた。
「贋物が蔓延るこの社会も、徒に“力”を振りまく犯罪者も、粛清対象だ――全ては正しき社会の為に」
拘束していた筈のヒーロー殺しが脳無に襲いかかる。全て外した筈の武器も見つけられない場所に隠し持っていたのか、サバイバルナイフを人間の脳のような形をした頭部に突き刺した。
静は咄嗟にオーラで緑谷を覆い、自分の方へ引き寄せ落下に衝撃のないようにした。そしてヒーロー殺しは静たちを掴むとそのまま地面に着地し、突き刺したナイフは脳を裂くように引き抜かれた。一瞬の出来事に静の心拍数が上昇する。先程からゾッとするような感覚がまとわりつき、緑谷をヒーロー殺しの手から救出する為に近付きたくても近付けない。
すると小道の方から轟々と燃えたぎる炎を身に纏うNo.2ヒーロー、エンデヴァーが現れた。ひとりそっちに逃げたはずだがとエンデヴァーが指しているのは、恐らく今し方ヒーロー殺しにより頭部を裂かれた脳無のことだろう。
エンデヴァーがひとり異常なオーラを放つ人物に気付き、その人物がヒーロー殺しだと察すれば戦闘体勢をとった。すぐさまグラントリノが待てと制止するが、ぴくりと反応を示したヒーロー殺しからまたゾッとするような感覚が強まり、静はハッとした。ゾッとするような感覚の正体は――ヒーロー殺しの強い思想、強迫観念。
「贋物・・・正さねば――・・・誰かが・・・血に染まらねば・・・!“英雄”を取り戻さねば!!」
おどろおどろしい形相で紡がれる思想が、威圧感と相まってこの場にいる誰もが体を硬直させ目を見張った。1歩、また1歩と着実に近付いてくるヒーロー殺しに気圧され、じり、とエンデヴァーの足がたじろぐ。
「来い、来てみろ贋物ども――俺を殺していいのは“本物の英雄”だけだ!!」
“本物の英雄”――オールマイト。ゾア、と覆い尽くすような威圧感に女性のプロヒーローが尻餅をついた。誰もが目を見張り、上昇する心拍数に合わせて息が乱れる。正面でないにしても緑谷たちも酷く気圧されているようで、無意識に静の腕を強く握った。
しかし、ヒーロー殺しはピクリとも動かなくなった。
凄みを利かせた強い思想も強迫観念も弱まっている。
どうやら気を失ったようだ。
この時、ヒーロー殺しは折れた肋骨が肺に刺さっていたそうだ。誰も血なんか舐められていなかったのに、あの場で一瞬、ヒーロー殺しだけが相手に立ち向かっていた。
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