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「ハァァ機動系はうちだめだあ」
「私もだ……ただ走ることしか叶わぬ……」

授業終了後の更衣室にてぐったりと項垂れているのは耳郎と麗日で、二人ともその個性ゆえなかなか芳しい成績は残せなかったのだ。

「おつかれさま二人とも」
「ドンマイドンマーイ!私も体動かすのは好きなんだけど、一番速くって言われるとやっぱ滞空性能ある奴には負けるよねえ」
「梅雨ちゃん三奈ちゃんなんかいい方じゃないかい!羨ましいよー!」

蛙吹や芦戸に対してプンスコと跳ねているのは葉隠だ。機動力の高い二人に比べると、他の女子の面々はそれぞれの個性の特性もあってどうしても結果が劣ってしまう。各自職場体験で得た経験は多いとはいえ、様々な場面で生かすには場数が足りぬと力不足を実感するのであった。

「でもやっぱ一番は静ちゃんね、浮いて移動すればいいんだから」
「入学して直ぐの身体テストでも、静ちゃん速かったけど、なんか前より…こう、」
「うん、前より少し長く浮遊できるようになったよ」

職場体験でのトレーニングのお陰で、静は以前より浮遊時間も増え物体操作のコントロール力も上がって来た。

「すごいな〜!…うう*私もまだまだやわ……」
「麗日さんは超必殺がなんとかなればぐっと選択肢が増えそうですものね」
「それねえ」

自身を浮かす超必殺の加減を誤りグロッキーから抜けきれない麗日は青い顔で八百万に頷いてみせる。

「百ちゃんは状況に応じた道具が作れていいなあ!」
「いえそんな、私なんて……創れるけど、創れるだけですわ……フフフ……」
「いやいや創れるてすごいよ!?どうしたの!?」
「ヤオモモ最近そんな感じだよねえ、自信持ちなって!!」

己の話になるとどんよりとし始めた八百万の背を苦笑しながら芦戸がさすった。それこそナンバーワンヒーローのようにオールマイティに活躍できるヒーローを目指すなら、できることは多く、できないことは少ない方がいい。それぞれに課題を抱えながら、乙女たちのヒーロー道はまだまだ、まだまだまだ先は長そうであった。

「待って……何か聞こえん?」
「え?」

そんな時にふとなにやら騒がしい声が聞こえてきたような気がしてみな一旦着替えの手を止め周囲を仰ぎ見た。
耳をすませば声の出どころはそう、先ほど共に授業を終えた男子たちが着替える隣の男子更衣室であるはずだが。

「オイラのリトルミネタはもう立派なバンザイ行為なんだよォォ!!」

聞こえてきたそんな覗きを示唆する発言の数々に乙女たちは反射でさっとその体を隠した。主犯は十中八九峰田であろう半ば自分でも名乗っている。リトルミネタってどんな言い回しだよと思う一同は一気に真顔であった。しかしまさかそんな透視の個性でもあるまいしと恐る恐る辺りを見回していると壁の一点に目がとまった。まあこんなところに小さな穴があるではないか。これか。

「カーッサイアク、うちいくわ……」

友人たちの声援を背にささやかに胸をガードしつつ穴に近づいた耳郎はそこに容赦なく己の個性「イヤホンジャック」を差し込んだ。穴の向こうからは眼球にドックンと彼女の心音を爆音ボリュームで流し込まれた峰田の断末魔が聞こえてくる。なかなかえぐいことになっているのだろうが残念ながら誰も同情はしなかった。ヒーロー科の女は強いのである。

「ありがと響香ちゃん」
「なんて卑劣……!!すぐにふさいでしまいましょう!!」
「……ちっちゃい峰田くん万歳って、どういうこと?」

ほっと一安心しつつも何の気なしににそう言う静にサッと女子たちの視線が集まった。本人はえ?え?という顔をしてパチパチと瞬きをしている。本気で分かっていないらしい。部屋の隅でピョンと下着だけが跳ねた。葉隠だ。

「も*っ静ちゃんてばそのうち絶対爆豪くん苦労するよ*!」
「すでにけっこう苦労していると思うわ、ケロ」」
「え、ど、どうして爆豪くんが出てくるの…?」
「まあまあ、そのままの静ちゃんでいてや〜」
「つまりどういうことですの?」
「ヤオモモもそのまんまでいてー!」

下ネタを察した者と察せない者、キャイキャイと盛り上がる一同の中で耳郎だけは一人峰田の「照己の透き通るような魅惑の雪肌、八百万のヤオヨロッパイ、芦戸の腰つき、葉隠の浮かぶ下着、麗日のうららかボディに蛙吹の意外おっぱ(以下断末魔)」発言に自分だけ何も言われていなかったことに地味にショックを受けていたのだった。

一方隣の男子更衣室である。耳郎の個性によって倒れた峰田を介抱しつつ男子勢が駄弁っていた。

「自業自得だ言わんこっちゃない!」
「女ってマジこえーよな」
「俺は峰田の執念のがこえーよ」

ギャアギャアと騒ぐ面々に、まるでくだらねぇと言わんばかりに鼻を鳴らした轟を上鳴は見逃さなかった。

「でもさ、轟だって照己の着替えは見てぇだろ。俺ら雄英生の憧れのマドンナだぜ?」
「か、上鳴くんあけすけ……!」

オブラートにすら包まない物言いに緑谷が震えている。こういう話題彼は大丈夫なんだろうか、彼の口からデリケートな男女のあれこれの話をしているイメージが全くない。それに本人が分かってなさそうとはいえ絶対好きなのだからさすがの轟だってその言い方は怒るんじゃないだろうかと恐る恐る視線を送ると轟はふと考え込むように顎に手をあてていた。果たして鬼が出るか蛇が出るかと戦々恐々としていると、おもむろに顔をあげて上鳴を見やった。

「そうだな、照己のは見てぇ」

清々しく見事な真顔でバシッと言ってのけた。轟焦凍15歳、いっそ男らしささえ感じるその姿。

「よしきた轟、分かるじゃねぇか」
「もうお前そういう感じでいこうぜ轟」
「お前も男だな轟」
「やっとお前に親近感湧いたわ。長かったなここまで二ヶ月か、轟」

クラスメイトから絶賛を受け本人は頭にハテナを浮かべたままネクタイを締めている。飯田など「なんの話をしているんだ君たちは」と口をあんぐり開けて驚愕しているが、入学してからというもの個性はチートな上に顔はいいし性格も熱いんだか冷えてるんだか掴みにくい一見すると近寄りがたい孤高の一匹狼的な雰囲気をもつ轟ですら、いまいち自覚がないとはいえ好きな女の子の着替えが見たいとなれば健康的な単細胞男子高校生にとっては親しみやすさMAXなのであった。

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