そんな風に電線にぶら下がったまま後悔していると、視界の端に八百万がこちらに向かって走って来ているのが目に入った。

 「すみません、私……」

 言い淀む八百万。その後ろからは相澤が迫ってきている。

 「八百万!何か、あるんだよな?」
 「ごめんなさいっ、聞いておくべきだったよね…八百万さんの意見も」
 「でもお二人の策が通用しなかったのに、私の考えなんて……」
 「良いから早くしろ!そういうのはお前の方が適任だったって言ってるんだ!」

 単純な連携ならば轟と静だけの方がとりやすい。だが、それでは駄目なのだ。それでは相澤に勝てない。

 「学級委員決めた時、お前二票だっただろ!一票はオレが入れた!そういうことに長けた奴だと思ったからだ!」

 轟の思いがけない言葉に八百万は思わず涙ぐむ。そうだ、自分にはあるのだ。

 「轟さん照己さん目を閉じて!」

 ベルトに押し込んでいたマトリョーシカを投げる。相澤が訝しみながらもそれを払いのけると、中が開き、閃光弾が発動する。

 「あります!私、ありますの!」

 予想していなかった攻撃に相澤が目をやられているその間に、八百万は二人の拘束を解き、高らかな声で言う。

 「相澤先生に勝利する、とっておきのオペレーションが!!」
 「とっておきのオペレーション?」

 住宅街を駆けながら静達は八百万の話に耳を傾ける。

 「隠れるんです! 三人で!!」

 時間さえあれば私達の勝ちだと彼女は言う。そのためには相澤の視界から外れる必要があった。

 USJの怪我の後遺症で相澤は、個性の発動時間の短縮とインターバルの増加が生じている。その隙を突き、体育祭で轟が見せた大氷壁を生み出すことで、その問題をクリアする。

 「すごい…さすが、轟くん」
 「適材適所、ですわ」

 相澤の視界を遮ったことにより心おきなく個性の使用ができるようになった八百万が何やら創造を始める。

 相澤の武器に似たそれはニチノール合金という加熱によって瞬時に元の形状を復元する計上記憶合金を織り込んで創られたものだ。

 「さて、準備はよろしいですか?」
 「ああ」
 「はい」

 脱出ゲートは相澤の背後。ならば下手に追撃するより出方をじっくり伺おうと家の屋根から観察していると、現れた三つの影。

 それは布を被っており、相澤の個性の対象とならないようにしていた。だが、それではデメリットのが大きいと指摘しながら相澤は三つの影の胴体あたりを捕らえる。

 それにより見えた布の中。なんとそこには三人の姿はなく、あるのは氷の塊のみだった。

 「びっくりしましたか?」

 何処からか飛び出してきた静が八百万の創造によってつくられた短剣を持ち切り込んでくる。
 
 そう、あの布は静の個性により動かしていたもの。フィジカルの低さが目立つ彼女が自ら突っ込んで来たことに驚きつつも剣を避けるため相澤は後ろに退く。

 その瞬間、隠れていた八百万がカタパルトを発射し、例の武器を飛ばす。

 「轟さん!地を這う炎熱を!!」

 当てにこないとは一体何をするつもりなのか。考える暇もなく、ギチギチと捕縛器具が動き出す。
 そうして三人は相澤を捕らえることに成功した。

 「――大したもんじゃないか」

 生徒達の成長を感じ、相澤は口元を緩めた。

 「本当時間さえありゃ……だな」
 「ありがとう、八百万さん」

 ハンドカフスを相澤に付け、戦闘を振り返ってみるがまさかこんなにも上手くいくとは思わなかった。

 照己と轟が感謝の言葉を述べると、八百万は今度こそ泣きそうになり、口を覆う。

 「どうした?気持ち悪いか。吐き気には足の甲にあるツボが……」
 「八百万さん、これ使ってください」

 その様子に見当違いの心配を始めた轟。八百万は背中を向けながら何でもないと告げることが精一杯だった。
 一方で静はその様子を微笑ましそうに見守りながら、八百万にハンカチを差し出す。

 『報告だよ。条件達成最初のチームは、轟・八百万・照己チーム!』

 「照己、悪い」
 「…?」

 試験を終え、リカバリーガールのいる「出張保健所」に向かう途中、唐突に轟が口を開く。

 「照己の台詞パクっちまった」

 ――学級委員決めた時、貴方は出久くんに入れたみたいだけど、票が入ってたでしょう…!あれ私が入れましたっ、 飯田くんなら、受けた期待に全力で応えようと努力してくれると思ったから…!!

 ステインとの戦闘の時に静が飯田にかけた言葉だ。

 「別に気にしないで。…それに、私に言われるより轟くんに言われる方が八百万さんも嬉しかった筈だから」

 八百万と轟は同じ推薦入学者。きっと色々と思うところがあるのだろう。だが、当の本人はそうか?と首を傾けた。

 「個性の扱いが上手いお前に褒められた方が嬉しくねぇか」
 「…そ、そう…でしょうか?」
 「照己は?」
 「え、」

 「照己は、俺と爆豪どっちに褒められてぇんだ」

 風が吹き、二人の髪の毛を揺らす。暫くの沈黙の後、静は首を傾げながら答えた。

 「褒めてもらえるのなら……どちらでも嬉しいよ…?」

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