その後も個性を最大限発揮しての体力テストは続いた。
 出席番号11番、障子目蔵。タコの擬態型個性。握力測定で540キロを記録。クラス最高。
 出席番号19番、峰田実。頭から生えるクッション性の高い実を使い反復横とびを高速度で跳躍する。

 「あの…お名前聞いてもいいですか…っ!?」

 男子の記録を何となく観察していた静の横から飛んできた声に振り返ると、茶髪ボブの女の子が顔を赤くして立っていた。確か出久と教室で話していた子だ、と記憶を手探りに思い出す。

 「……照己、静です。あの、貴方は…」
 「麗日お茶子です!静ちゃんって読んでもいい!?私のことはお茶子でいいよ!」
 「うん、よろしくお願いします。お茶子、ちゃん」
 「うわぁ…!」

 人見知りな静だったが、折角話しかけてくれた彼女に不快な思いをさせたくないと極力笑顔を心がけた。そしてお茶子の方も静のその笑顔に、大きな目を更に大きく目を見開かせて頬を紅頬させる。

 「お人形さんみたい!睫毛長いし顔小っちゃいし、目もくりっくり!肌も白くて…ほんま綺麗やねぇ!!」
 「え、…ありがとう」
 「こんな可愛い人、うち、初めて見たよ!」

 最初の控えめさから一転、お茶子は意外にもグイグイと迫ってくる子だった。素直に賞賛の言葉を述べられて、静も恥ずかしさから顔を赤らめてしまいそれを必死に隠そうとする。

 「最初に静ちゃん見た時から絶対話しかけよーって思ってたんよ!50m走では身体浮いてたし、さっきの握力測定もなんか直接触らんくても測定器勝手に動かしとったし、静ちゃん個性もなんかすごいんね!」
 「そんな…ありがとう…、あ、お茶子ちゃんの個性って…」
 「私の個性は"無重力"だよ!」
 「そうなんだ、すごい…かっこいいね」
 「いやいやいや!全然だよ!そういう静ちゃんは?」
 「"テレキネシス"…」
 「え、なにそれかっこいい!!」
 「さっきみたいに自分を浮かせたり、物にも干渉して自在に操ったり…そんな感じ、かな」

 自分の個性について簡単に説明すると、お茶子はへぇ〜!と大きなリアクションをしながら聞き入ってくれた。
 その後もお茶子と色々と会話を交わしながら測定は滞りなく進んでいき、5種目ソフトボール投げとなった。
そして出久にソフトボール投げの順番が回ってくる。

 「緑谷くんは、このままだとマズいぞ…?」
 「ったりめーだ。無個性のザコだぞ!」
 「無個性!?彼が入試時に何を成したか知らんのか!?」

 飯田と爆豪の掛け合いに耳を傾ける。飯田の言う『入試時に何を成したか』とは一体何だろうか。
 爆豪の“無個性”というワードにそんなわけあるかと言いたげに驚愕しながら、腕を奇妙に動かす。
 幼馴染である静にも想像は出来ないが、焦燥しきった出久をみてそれは『偶然によるもの』ではないかと懸念がうまれてくる。
 意を決し、大きく振りかぶろうとする彼を、固唾を飲んで見守った。

 ――46m

 「“個性”を消した。つくづくあの入試は合理性に欠くよ。おまえのような奴も入学できてしまう」

 絶望した顔になぜだどうしてだと狼狽える緑谷に、相澤が答えた。長い前髪が逆立ち、首に巻いていた布が解かれ、隠れていたゴーグルが露わになる。
 それを見た緑谷が即座に反応し、相澤が抹消ヒーロー『イレイザーヘッド』であると口にした。
 メディアに露出することがないからか、名前だけなら見たことがある所謂アングラ系ヒーロー。しかし、なぜ相澤は“個性”を消したのか。

 「見たとこ"個性"を制御できないんだろ?また行動不能になって、誰かに助けてもらうつもりだったか?」
 「そっ、そんなつもりじゃ!」

 制御できずに行動不能になるほど危険な“個性”なのだろうか。緑谷は否定するが、相澤の布が緑谷を拘束しぐっと距離をつめ、充血気味の三白眼が圧をかける。
 どういうつもりでも周りがそうせざるを得ない。相澤の叱責に口を噤み、言い訳のしようもない様子だ。次いで相澤が何か告げているが、静らには何を話しているのか聞き取ることが出来ない。
 胸がざわつく中、不安そうな面持ちで見据えていたが、ふと、飯田の元へ近寄った。

 「あの、緑谷くんは試験の時になにをしていたの?」
 「ん?きみはさきほどの!」

 眼鏡を掛け直した飯田の口から出た内容は、皆が逃げに徹するくらい巨大な仮想敵を一発の物凄いパワーでぶっ飛ばした、と要約したものであった。
 幼き頃は貧弱だった故に今も細身のイメージであったが、握力もあり、身体もがっしり鍛えていたから驚いた。だがそれでも、飯田がそんなわけあるかと言いたげになる威力は想像出来ない。

 どういうこと?と、小首を傾げたくなる。静は緑谷出久が“無個性”だと知っている。齢4歳までに“個性”が出なかったのだから。
 ひとまず彼が入試時に何をしたかはわかった。疑問が解消した訳ではないが、静は飯田にお礼の言葉を述べた。

 「緑谷くんが気になるのか?さっきから心配そうにみている」
 「あ、うん……幼馴染、だから」

 相澤に指導を受けているのか、悔しげに唇を噛み締める緑谷に今すぐ駆け寄りたい衝動を抑える。
 生半可な気持ちでヒーローにはなれないのは承知の上。恐らくこれまで“個性”を使える種目があったのだろう。しかし相澤の言うことが正しいならば、行動不能を避けるため使いたくても使えなかったということだ。
“個性”を消したのはそれを防ぐ為だったのか。暫くして、フッ、と相澤の前髪が顔にかかった。
 緑谷の“個性”を戻したらしい。2回目を投げろと促し、身を翻し離れていった。ブツブツと独りごちながら何か思考を巡らす緑谷から目が離せない。
 すると、ぐっ、と緑谷が振りかぶる。しかしそれは相澤に“個性”を消された時と同じフォーム。

 ――だが、

 「SMASH!!!」

 ボールが離れる一瞬、右手人差し指に込めた“個性”。初めて見たそれは想像を超越した威力で飛んでいった。
 高くたかく、飛距離をぐんぐん伸ばしていく。“個性”は確かにある。緑谷出久は“無個性”ではなかったのだ。
 ドクンドクンと波打つ心臓の音を感じながら、静は思わず掌で口を覆い「出久君!」と、くぐもった声で緑谷を呼んだ。ずっと平和の象徴オールマイトのようなヒーローになりたいと言っていた。
 “無個性”だと診断されてから、ずっと悲しそうにしていた彼が1歩オールマイトへ近づいた。
 今は同じヒーローを目指すライバルにはなるが、今くらいは忘れて、喜んでもいいだろう。奇跡だ、と。

 涙目になりながら握り拳をつくり、相澤へ「まだ動けます!」と伝えた緑谷に、相澤は驚きながらも笑みが浮かべていた。

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