合宿二日目、早朝5時30分。早々に叩き起こされたA組は体操服に着替え外に集合していた。まだ眠気が抜けずアクビが絶えない者、準備の間もなく寝ぐせのままの者、その顔つきは様々だが、毎日朝練を怠らない常闇はこの時間でもしっかりと冴えた顔。
 
 「おはよう諸君。本日から本格的に強化合宿を始める。今回の合宿の目的は全員の強化、及びそれによる”仮免”の取得」

 プロヒーローになるには必須の、緊急時における「個性」行使の限定許可証、ヒーロー活動認可資格。その仮免許は通常二年の前期で取得するカリキュラムとなっている雄英だが、昨今の敵活性化を危惧し今年は一年生の段階で九月に行われる仮免許試験を受験することとなった。

 「というわけで爆豪、こいつを投げてみろ」
 「これ……体力テストの」

 相澤からポンと投げ渡されたのは、入学早々行われた個性を使用しての体力テスト時にソフトボール投げで使用したメーター付きのボール。

 「前回の……入学直後の記録は705.2メートル。どれだけ伸びてるかな」
 「おお、成長具合か!」
 「この三ヶ月色々濃かったからな!1キロとかいくんじゃねぇの!?」
 「いったれバクゴー!」

 皆の声援を受けながら爆豪はブンブンと肩を振り慣らす。
 振りかぶり、くたばれ!!と爆豪は指先に爆破の威力を込めながら森に向かって思い切り投げる。ボールは見えなくなるほど遠くへ飛んでいき消えていった。
しかし相澤が持つ機械に表示された数値は709.6メートル。あれ?思ったより……。生徒たちにざわめきが広がる。

「約三ヵ月間、様々な経験を経て確かに君らは成長している。だがそれはあくまでも精神面や技術面、あとは多少の体力的な成長がメインで、個性そのものは今見た通りでそこまで成長していない。だから……、今日から君らの個性を伸ばす」

死ぬほどキツイがくれぐれも死なないように。と、歯を見せる相澤。
生徒たちは知っていた。相澤のこんな笑みの時はとんでもない試練が待っていること。

▽▲▽

爆豪のボールが遠く森の中へ飛んでいった早朝より数時間、合宿所裏手の広場からは何層にも重なる叫び声が上がり続けた。

自分を浮かせつつ、重く大きい岩を右・左両方で浮遊させ操り、長時間の浮遊と重量に関わらず物体操作ができるように鍛え上げる静。
高台の上で放電し続けている上鳴、吐き気を堪え自身を浮かし続ける麗日、熱湯で両手の汗腺を広げ爆破し続ける爆豪、ビームを発射し続ける青山、糖分を摂取しパワー増強を図る砂藤、創造と摂取を繰り返す八百万。
それぞれが「個性を伸ばす」に特化した血の滲む訓練に没頭する姿はまさに地獄絵図だった。
筋繊維は酷使することにより壊れ強く太くなる。それは個性も同じ、使い続ければ強くなり、でなければ衰える。
すなわち生徒たちに与えられた訓練は限界値の突破。
許容上限のある発動型は上限の底上げ。
異形型、その他複合型は個性に由来する器官・部位の更なる鍛錬。
通常であれば肉体の成長に伴い行う訓練だが、通年より前倒しの仮免取得とあって、具体的になりつつある敵意に立ち向かうため急を要した。

そんな阿鼻叫喚が続いた日没。

「さァ昨日言ったね、世話焼くのは今日だけって!」
「己で食うメシくらい己でつくれ! カレー!!」
「イエッサ……」
「アハハハ、全員全身ブッチブチ!」

一日の訓練を終えた午後4時。ぐったりと疲労困憊した生徒たちは野外炊事場へ集められた。テーブルにはジャガイモ、ニンジン、タマネギ、と山盛りの野菜。包丁、まな板、鍋に飯ごうと揃えられた道具。

「だからって雑なネコマンマは作っちゃダメね!」
「ハッ…確かに、災害時など避難先で消耗した人々の腹と心を満たすのも救助の一環……。
さすが雄英無駄がない!世界一旨いカレーを作ろう皆!」
「オ……オオー……」

飯田、便利。覇気のない生徒たちを盛り立てる飯田に相澤は思った。
汗だくの頭から水を流し、土にまみれた手足を洗って着替えた生徒たちは米炊き班、調理班、火起こし班と分かれ作業に取り掛かる。

静は黙々とじゃがいもの皮を剥いていく。けっこうこういう単純作業は嫌いじゃなかったり。淡々と作業していれば、気づいたら最後の一つに取りかかっていた。

「わ、照己速ぇな……しかもキレイだ!」

ひょこっと横から切島の声が聞こえて、視界の隅に彼の姿も入る。

「そ、そうかな…」
「あぁ!これなら良い嫁さんになれるな!」
「おっ…お嫁、さん…!?」

切島の裏のない笑顔に、静はボッと顔を赤らめ戸惑いを見せる。そんなことないとか、お嫁さん、などとブツブツ言葉を発しながらも作業の手は休めず。それどろか。

「うお!包丁さばきもすげぇ!」

トントントンッと驚きの速さで、剥き終わったじゃがいもを切っていった。

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