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 拘束具に覆われた不気味な敵の攻撃は、個性である刃の帯だ。しかもそれは途中で分岐して、無数の雨となって爆豪達を襲った。

 個性の扱い方、制限された野外空間での戦闘技術、どこを取っても分が悪い。
 遠距離戦を得意とする轟の氷結では速度が足りず、近接戦を得意とする爆豪などは近づいた瞬間に刃に貫かれるのがオチだ。結局はなす術なく、轟がなんとか大きな氷で迫る帯を食い止める防戦一方を強いられていた。
 爆豪にはストレスの溜まりまくる状況である。

 「近づけねえ!クソ、最大火力でブッ飛ばすしか……!!」
 「だめだ!」

 頭に血が上ると短絡的になる。元からの部分も大きいが、赤い目で敵を睨む爆豪は今にも飛び出していきそうだった。
 轟はそれを言葉で引き止め続けているが、すでに氷結の連続使用で右半身には霜が降りて動きも鈍くなってきた。

 対して依然猛攻を仕掛けてくる敵。こちらの防衛が崩れるのが時間の問題だということは、轟にもわかってはいた。だからこそ爆豪も動こうとしているのだろう。

 「木ィ燃えてもソッコー氷で覆え!!」
 「爆発はこっちの視界も塞がれる!仕留め切れなかったらどうする!?手数も距離も、向こうに分があんだぞ!」

 かといって、このままでいてもどうにもならない。何か、対抗する策が何かないのか――

 「氷が見える、交戦中だ!」

 そこに飛び込んできた声と地鳴りと、影。

 「爆豪、轟!!どちらか頼む――光を!!」

 森の中から姿を現した彼らに攻撃を仕掛けた敵を、その影が上から押しつぶした。

 「かっちゃん!!」
 「障子、緑谷、照己……と、常闇……!?」

 影に呑まれそうになっているが、確かにその中心にはクラスメイトがいる。しかしそいつは、光をと声を上げる障子に向けて腕を振り下ろした。

 「見境なしか!っし、炎を……」
 「待てアホ」
 「まだ待って…!」

 敵味方の分別がつかないのならと構えた轟を、爆豪が止めた。同じことを訴えたのは、障子達と共に現れて、さっと爆豪達の元に降り立った静だった。

 「あの個性なら、対抗できるかも」

 爆豪はちらと彼女に視線をやって、すぐにもう一度常闇の暴走に見入った。圧倒的に強えじゃねえか、なんだよあいつ。再度攻撃を仕掛けた敵を大きな手で掴み上げ、低い声で唸る。

 『強請ルナ、三下!!』

 わけもないように、数十メートルも木々をなぎ倒す勢いで敵を吹っ飛ばしてみせた。爆豪と轟の二人に一方的に苦戦を強いていたあの敵が、遠くでぼとりと地に落ちたのを見た。

 『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛暴レ足リンゾォア゛ア゛ア゛!!!』

 敵は倒した。ぐるりと振り返ってなおこちらに向かおうとした影に、もう用はない。
 飛び出した轟と爆豪は、それぞれ炎と爆発の光で黒影を抑えつけた。ひゃんっと最後に可愛い悲鳴を一声鳴いて、あの獰猛だった黒い巨体は一瞬で常闇の中に戻っていった。

 「てめェと俺の相性が残念だぜ……」
 「…すまん助かった……」

 とにもかくにも敵の脅威は一旦去ったし、常闇の暴走も収まった。なんとか状況は落ち着いたわけだ。
 轟が途中で拾った――さっき乱雑に地面に放り出された――B組の男子生徒に肩を貸した静も、常闇の周りに集まる彼らのところへ駆けてきた。

 「照己、案内してくれて助かった」
 「私は別に、そんなに…」

 障子が静かに告げた礼に軽く首を傾げて、それより、と静は続ける。

 「これからどうしよう…爆豪くんのこともあるし」
 「爆豪……?」
 「そうだ!敵の目的の一つがかっちゃんだって判明したんだ」
 「命を狙われているのか?何故……」
 「わからない……とにかく、ブラドキング・相澤先生、プロの二人がいる施設が最も安全だと思うんだ」
 「なる程。これより我々の任は、爆豪を送り届けること……か!」

 はあ?
 当の爆豪を置いて、彼らの話がとんとん拍子に進んでいく。この場から敵との遭遇を避けて直線距離で施設に向かう、幸い静によるとこの近くにはもう敵はいないらしい、障子の索敵能力があれば不意打ちにも対応できる、円場はゴローちゃんに運んでもらって、轟は戦闘に専念できるし、光を備えた常闇の戦闘力は無敵にも等しい――っつーかこれ。

 「このメンツなら正直……オールマイトだって怖くないんじゃないかな……!」
 「……何だこいつら!!」
 「お前中央歩けよ」

 爆豪を真ん中に置いて、前方を轟と障子、後方に常闇と静を置く布陣である。なんだこの状況、爆豪はキレた。

 「俺を守るんじゃねえクソども!!」
 「いくぞ!」
 「聞けや!!」

 そんな爆豪のプライドなど知ったことか、今は時間がないのだ――というように無視して行こうとするのが、更にムカつく!!
 
 「爆豪くん」
 「アァ!?」

 後ろからかかった声に、即座に振り返って睨みつけた。その視線の先で、静は不愉快そうにするでも怯えるでもなく、珍しく嬉しそうに笑っていた。いや、それでいて少し泣き出しそうに眉を下げて。

 「――無事でよかった」
 
 心の底から本気の安心しきった声色に、爆豪は怒りも忘れてぽかんと彼女を見つめた。
 はあ?なんだそれ。笑う目元がほんのり色づいていて、黒髪に木々の葉が一枚引っかかっているのを見つけた。

 無事で、って、俺のこと舐めてたんかこいつ。ムカつく。ムカつく発言のはずだが、水の含んだ瞳がきらきらこちらを見上げた瞬間、ぐうっと言葉が出なくなった。
心臓のあたりがぎゅうっと引き攣るような、妙な感覚がした。

 「う……うっぜえ、舐めんなアホが」
 「あ、うるさかった?ごめんね…」
 「うぜえつったんだよ!髪にゴミついてんぞブス!」

 怒鳴りながらばしっと払ってやると、静はぱちりと瞬いてからありがとう、とにっこり笑った。
 目の潤みは無くなっていたが、今度は手の甲を撫でた黒髪の感覚に、また妙な感覚。

 なんか負けた気がする!――爆豪はかあっと顔を赤くして、フンと静に背を向けた。障子と轟についてのしのし歩き出した爆豪は、すでにさっきまで護衛の形を取られるのにブチ切れていたことなどすっかり忘れてしまっているらしい。

 ――ああ気色わりィ!なんだ、これ。

 いよいよ爆豪は認めざるを得ないような気がした。ざわつく感情の名前に、心当たりがないとはもう言えないような。

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