13


 油断していたのだろうか。安堵しきってしまっていたのだろうか。まだ敵がいる可能性も、それが爆豪を狙っていることも、もちろんよくわかっていたはずだったのに。

 気がつくと真っ先に自分の靴、そして埃っぽい板張りの床が見えた。
 意識が回復すると同時に矢継ぎ早に流れてきた記憶達に既視感を感じる。少し落ち着かせてほしい、一体何が起きたのだか、静自身の記憶が曖昧だ。

 「あっ、静ちゃん起きたぁ?」

 場に似合わない明るい声に名前を呼ばれ、ハッとして身をよじる。
 後ろ手に回った手首も、足首も雑に縄で拘束されているのに気づいた。ついでに口元も布で覆われているので、疑問形で言葉をかけられたところで返事はできない。
 何より、静は今誰かに後ろから首元を掴まれていた。正直、体力の激しい消耗から上手く立っていられず、後ろにいる静を掴んでいる敵によってやっと立てている状態だ。視線だけを声の方に向けたが、視界に入ったのはその主だけではなく。

 「ごめんね!静ちゃんとっても美人さんだけど、逃がしてあげちゃダメなんだって!」
 「黙ってろトガ」
 「はあーい」

 トガと呼ばれた少女は、まだ静達と同年代に見えた。
 しかし面倒くさそうに呟かれた言葉に対し素直に返事をすることからして、堅気ではない。

 そしてそんなトガを適当に諌めた男――灰色の手のひらを顔にくっつけた不気味な男、見覚えがあるなんてものではない。数ヶ月前の事件は、入学したての静達に一生残るような衝撃を与えたのだ。
 死柄木弔――どうやら、爆豪を狙った襲撃は敵連合の犯行だったらしい。



 何故このような状態になったのか、静がやっと思い出したのは、緑谷達と共に爆豪を護衛して行く道中で、突然周りの全てが遮断された感覚だった。あの時の感覚は敵の個性によるものだったのだろう。

 そう、それから爆豪たちは―――森の一点、開けた場所に三人、人がいた。
 そして彼らの、すぐ後ろに、何かが落ちた。そこには、仮面の敵を押さえつけた焦凍と緑谷、障子がいた。
 
 「知ってるぜこのガキ共!誰だ!?」
 「Mr.、避けろ」

 直後広範囲の炎がとぶ。

 「死柄木の殺せリストにあった顔だ!そこの地味ボロ君とおまえら!なかったけどな!」
 「三人とも、逃げるぞ!」

 聞こえたのは、障子くんの声だった。

 「今の行為…でハッキリした…!"個性"はわからんがさっきおまえが散々見せびらかした――…」

 視線を彼に向ければ、その手は"何か"を持っている。

 「右ポケットに入っていたこれ…が常闇・照己・爆豪だな、エンターテイナー」

 それは、仮面の男が持っていた、小さな見えた三つの玉。

 「――ホホウ!あの短時間でよく…!さすが六本腕!まさぐり上手め!」
 「っしでかした!」

 とっさに轟たちが駆け出した。
 しかし視界に闇が広がる。見覚えがあるそれは、

 「ワープの…」

 USJの時に見た、敵の移動手段ワープゲートだ。

 「合図から五分経ちました、行きますよ荼毘」

 聞き覚えのある、静かな―冷酷な―声が響く。

 「まて、まだ目標が…」

 背後から聞こえる荼毘と呼ばれた敵の声を遮るように、次に仮面の敵の声が続いた。

 「ああ…アレはどうやら走り出す程嬉しかったみたいなんでプレゼントしよう。悪い癖だよ、マジックの基本でね。モノを見せびらかす時ってのは…………」

 残酷に、楽しげに、敵は正解を話す。

 「見せたくないモノトリックがある時だぜ?」

 仮面を外し、出された男の舌の上に、三つの小さな玉が乗っかっていた。

 「氷結攻撃の際に『ダミー』を用意…し、右ポケットに入れておいた。右手に持ってたモンが右ポケットに入ってんの発見したらそりゃー嬉しくて走り出すさ」

 さらりと男はネタをばらす。悠々と仮面をつけ直せば、その身をワープゲートの中へと沈めていく。
 ――けれどその最中、一つの光が仮面の敵を襲った。

 青山のネビルレーザーだ。そして理解と同時に、動けと体に命令する。飛び出した三人の姿を捉えた。障子の手が、轟の手が、小さなそれに伸びる。

 障子の手が、一つ、掴んだ。
 けれど――

 「哀しいなあ、轟焦凍」

 冷たい、荼毘と呼ばれた敵の声が聞こえた。
 そしてその手は、二つ、小さな玉を掴んでいた。

 「確認だ、"解除"しろ」
 「っだよ今のレーザー…俺のショウが台無しだ!」

 パチンッと一つ、仮面の男が指を鳴らした。

 「かっちゃん!」
 「照己!!」

 敵に首を掴まれている爆豪と、腹に腕を回されぐったりと気を失っている静。現れたその姿は闇に沈んでいった。

 ――絶望がまた、彼らに笑いかける。

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