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 「ゴホッゴホッ……、ッ」
 「ゲッホ!!くっせぇぇ、んっじゃこりゃあ!!!」
 「悪いね、爆豪君」
 「あ!!?」

 黒い液体の不快感からもどしそうになるのを必死に抑え、声のする方へ目を向ければマスクをつけた男がひとり立っていた。表情は見えないはずなのに、目の前の男は静を見てマスク越しに笑った気がした。

 「やあ……、君が照己静さんだね。会いたかったよ……なるほど、彼女に瓜二つだ。瞳の色が残念なのが非常に惜しいよ」

 この男は何を言っているのだろう。静が誰に似ていて、瞳が何だというのだ。得体の知れない男の言葉は理解できないが、何故だろうか。静はこの男の声をどこかで聞いたことのあるような、気味の悪い感覚がした。
 後ろでバシャバシャと音をたて、黒い液体から敵連合の人間たちが姿を現わす。マスクの男は数歩歩いて死柄木弔に近づき、言葉を与えた、「全ては、君の為にある」と。マスクの男が、自分の横を通り過ぎていく時の威圧感、その男が発した言葉の計り知れない脅威。たった数分がとんでも長く感じる、静はその男、その光景から目が離せなかった。

 「やはり……、来てるな……」

 男がそう呟いて空を見上げたかと思えば、そこにはオールマイトの姿があった。

 「全てを返してもらうぞ、オールフォーワン!!」
 「また僕を殺すか、オールマイト」

 男とオールフォーワンが激突した瞬間、ものすごい衝撃波が起き、その場にいたほとんどのものがそれに飛ばされた。

「クソッ!!」
「爆豪く、…!」

爆豪が静を庇おうと、グッと彼女を抱きかかえる。
意識を取り戻した静もなんとか自分と爆豪にオーラを張り、出来るだけ衝撃から身を護った。

あのオールマイトの攻撃を素手ではじいたスーツの男が、死柄木の言っていた"先生"であり、敵のボスなのだろう。
だがオールマイトは街の方に飛ばされ、複数の建造物をなぎ倒していく。

「オールマイトォ!!!」
「心配しなくてもあの程度じゃ死なないよ、だから……ここは逃げろ弔。その子たちを連れて」

男の手は変形し、それは黒霧の元へ伸びていく。
やがて黒霧の個性を強制発動させ、ゲートを開かせた。

「さあ行け」

オールフォーワンが敵連合を逃がそうとしていると、この場にオールマイトが戻り、目の前では再び戦闘が始まった。

「6年前と同じ過ちは起こさん!爆豪少年、照己少女を取り返す!そして、貴様を今度こそ刑務所にぶち込む!貴様の操る敵連合もろとも!!」

オールマイトの叫びと共に始まった死闘は凄まじいものだった。

「行こう死柄木!あのパイプ仮面がオールマイトをくい止めてくれてる間に!コマ持ってよ……」

仮面の男の言葉で残りの敵連合たちはゆらりとこちらに視線を集めた。

「めんっ……ドクセー」
「…後ろは任せてください」
「ハッ、誰がテメェの世話になるかよ!」

爆豪はそう言うが、二人は背中あわせになって臨戦態勢をとり、敵連合は一斉にふたりめがけて動き出した。
静は爆豪の負担にならないようにと自分の身体に鞭を打ち、二人で背を預けながら敵の捕縛から避けて戦う。
自分を浮かせられるのはほんの数秒、爆豪を連れて一緒に飛ぶ力はもう残っていなかったのだ。それは爆豪も分かっていた。
そしてオールマイトは二人を助けようにもボスが邪魔をしてきて、静たちの元へ行けない、さらにそれにより静たちを気にしてオールマイトは戦いづらい状況にあった。
どちらにも分が悪い最悪の状態だ。

「ッ……!」
「うふふ……、その血……。いいですねぇ……、私がもっと刺してあげます!
静ちゃん今も十分綺麗だけど、血を流したらもっと素敵になれるよ!」
「名前を呼ばないで…っ!」
「そっか!私の自己紹介してなかったね!あっはは、私はトガです、トガヒミコ!」
「敵はトガちゃんだけじゃないぞ!そうだけどな!!」

それからどれだけの時間が経っただろうか、静と爆豪はお互いのフォローをしつつ迫りくる敵の攻撃を必死に凌いだ。
六対二、なかなか厳しい。ふたりで凌ぐのにも限界がある。さらにいえば敵とは圧倒的な経験の差があるのだ。でも、そんなこと言ってられない、早く脱出しなければ、自分たちがここにいる限り、オールマイトの邪魔になってしまう。考えろ、考えろ……、何か打開策を!!

「もう、大人しく捕まってちょうだい!スピナー、そっちまわって!」
「了解!」

敵たちは静を囲み、取り押さえようとした。しかしその時、静の視界の端ではものすごい音とともに壁が破壊されるのをとらえる。そして、そこから天に登りそうな氷壁が現れ、あまりにも突然のことにその場にいたものは戦闘を忘れ、そちらに意識を向けた。

「こお、り……?」

やがてその氷壁のてっぺんから、複数の人影が姿を現わし、頭上を横断しようとしている。そしてひとりの人間が手を差し出しながら、こちらに向かって叫んだ。

「来いッ!!!」

空を横断する人物達の正体が緑谷、切島、飯田と分かった瞬間、近くにいた爆豪は大きな声を出した。

「静っ!!」
「はい!」

爆豪が大声で静を呼び、彼の意図を瞬時に理解した静も、テレキネシスで自分を一瞬で飛ばし爆豪の腕にしがみついた。

―――BOOOOM!!

荒地に大きな爆発音が響く。
最大火力ともいえるような爆豪の爆発によって上空を大きく跳んだ二人は、そのまま三人のもとまで飛んでいき、
「バカかよ」と、すこし笑いながらその手を取った。

静と爆豪が戦線から脱出すると、すぐさま敵連合が追って来ようとしたが、それはMt.レディやグラントリノによって防がれ、この場の形勢は一気に逆転した。
静が空から自分が今までいた場所の様子を確認すると、死柄木弔やその仲間が黒霧のワープゲートに入っていくのが見えた。

「オールマイト……」

自分と爆豪がこの場からいなくなったことで、きっと闘いやすくなったに違いない。
必ず勝ってくれる……、だってNo. 1ヒーローなんだから。
そう信じて、静はだんだん遠ざかり小さくなっていくオールマイトの姿から目を離した。

「爆豪君、俺の合図に合わせ爆風で……」
「てめェが俺に合わせろや!」
「張り合うなこんな時にィ!!あと照己!振り落とされねぇよう、しっかり爆豪に捕まってろよ!」
「は、はい…っ」
「ッ…!」
「!?おい爆豪!手ぇ緩めんな!いくら照己がひっついてるからって」
「んなわけねーだろ黙れ!あとテメェも押し付けてくんなクソが!」
「え、な、何を、…?」

意外と爆豪も普通の男子高校生な部分があるんだと、この場に似合わないことを緑谷たちは思ってしまったのであった。

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