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七夕大会の時、山本が公民館の壁を壊したせいで修理費を払うことになったツナは、チョコバナナを五百本売らなければいけなくなっていた。
こうなった原因の半分は山本にあるが、もう半分は獄寺にもある。友達である二人に科せられたノルマは己のノルマでもある。
それに絶対、一方的に獄寺が山本につっかかって店番どころの話ではなくなるだろうと簡単に推測出来るから、ツナはいざという時に仲裁する為にも二人を手伝うことにしたのだった。
そんなことをふと思っていると、突然周囲がざわつき始め、「関わらない方がいい」などと口々に噂している。何だろうと思っていると、近くに店を出していたおじさんがツナに教えてくれた。
「お前らもショバ代用意しとけよ」
「ショバ代!?(何だそれ!?)」
「ここらを取り締まってる連中に金を払うのが並盛の伝統らしいっス。ここはスジを通して払うつもりっス」
「(もしかして裏社会覗いちゃってる…?)」
平然と告げる獄寺や当たり前のような顔をしている山本、周りの人達の反応を見るからして、知らなかったのは自分だけというのがわかる。
ひやりとツナの頬に冷や汗が伝う。まさかここ並盛にもそんな物騒な人達がいるなんて思ってもみなかったが、どんな連中なんだろう。
ヤクザかそれとも…そう考えているとザッと砂利を踏む音が背後から聞こえる。
来た!と怯えつつ振り返ると、黒髪に黒い瞳、学ランを肩に羽織って風紀の腕章をつけている人物が当然のように告げた。
「五万」
「ヒバリさんー!?」
ツナの絶叫にうろたえることなく、ドンと構える雲雀の登場にツナ達は騒然となった。
喧嘩っ早い獄寺は「てめー何しに来やがった!」と早速ダイナマイトを取り出す始末だし、普段は朗らかな山本ですら額にうっすらと冷や汗を浮かべている。
「ショバ代って風紀委員に!?」
「活動費だよ」
「(どんな活動!?)」
風紀委員の活動はそんなに金がかかるものだっただろうかと思い出そうとするのだが、これといって思い当たるものはない。
しかし並盛中最強最悪の人物である雲雀にツナが口出し出来るわけもなく、雲雀から逃れたいという気持ちが表れているのか、彼は青ざめながら屋台にもたれかかった。
「払えないなら、屋台を潰す」
こんな大事な時に限って、彼を止めてくれるはずの蛍もいない。
いつもなら雲雀と共にいるはずなのに、どこに行ってしまったのか。今こそ彼女が必要な時だというのに。
――早く来て姉ちゃん…!
ツナが必死に姉の登場を祈っていると、どこからか「待って下さい!」という悲痛な叫び声が聞こえてきた。
店主の悲鳴にハッと顔を上げると、風紀委員の二人が泣いて縋る店主にも気に止めず、ドカドカと屋台を踏み潰している真っ最中であった。容赦なく解体されていく屋台は無残に半壊し、出店に出るはずだった食材は地面に叩き落とされている。
「やっぱり払います!払いますから!!」
「たしかに」
店主から金を取る雲雀を見て、鬼だ…!とツナは冷や汗をかいた。
地元にいるどんなヤクザだって、彼が率いる風紀には敵うまい。
すると今度は、浴衣姿の少女がどこからともなく駆け付けてきた。
その少女はツナが一番よく知る風紀委員であり、自身の姉でもあり、今彼が最も待ち焦がれていた人物だった。
「姉ちゃん…!」
「ツッ君」
どうしてここに?と首を傾げる蛍にパァッと顔を輝かせたツナは姉の後ろに後光が指して見えた。雲雀の暴走を止められる可能性があるとすればそれは蛍だけで、もしかしたら蛍ならこの場から雲雀と風紀委員を連れて行ってくれるかもしれない。
そんなツナの願いが天に通じたのか、必死の形相のツナを見た蛍が何かを悟ったのか、彼女は「雲雀先輩、次はあちらです」と雲雀の腕を掴んだ。すると五万円を受け取った雲雀は渋々それに従い次の出店へと歩いていく。
なんて勇気ある行動だろう。雲雀に見えないようにこっそりと手を振って去っていく蛍に、ありがとう姉ちゃん!と感涙の涙を流したツナは小さくなっていく蛍達の背中を見送りながらホッと胸を撫で下ろしたのだった。