20
その頃、雲雀は黒曜センターの一角にある建物の中に佇んでいた。
窓ガラスは見るも無残に砕け散り、壁は壊れ、今にも崩れ落ちそうになっているその廃墟は、かつて黒曜ヘルシーランドとして活気に満ち溢れていた欠片も残っていない。室内だって瓦礫だらけだ。
チラリと視線を床に向けると、所狭しと数え切れないほどの黒曜生が山積みになって倒れていた。
カツン、と革靴の音を響かせた雲雀の後には立ち上がっている者さえいない。その数に比例するかのように、雲雀が手にしているトンファーは床に滴り落ちるほど血に塗れていた。
雲雀は頬についた血を拭うかのように唇をペロリと舐める。
…ああ、もっと強い敵はいないのか。血が舞う喧嘩は興奮して我を忘れさせてくれるほどに爽快だ。
襲撃犯がこれくらいじゃ拍子抜けどころか興が冷めるだろう。早く出てこい。僕をもっと楽しませてくれなきゃ、わざわざここまで来た甲斐がないじゃないか。
蛍が入手したこの建物の設計図は頭の中に入っている。まだこの奥に部屋があったはすだと思い出して、割れたガラスの扉を潜り抜けた。
…誰かいる、と人の気配を感じて眉を僅かに吊り上げた雲雀は、それに構わず足を進めていく。襲いかかりたければ襲えばいい。
逃げも隠れもしないと近付いていくと、柄の長い斧を持った黒曜生が雄叫びを上げて襲いかかってきた。
大きな武器はそれだけ重くて動作も鈍い。
男が斧を振り回してくるのを易々と避けた雲雀は、一瞬で相手の懐に潜り込んで鳩尾にトンファーをめり込ませた。
そしてそのまま腕を振り抜いて男を放り飛ばすと、男は窓ガラスを割りながら奥の部屋へと倒れ込む。既に意識を失っているのだろう、そのままピクリとも動かなくなった。
奥にある部屋は薄暗く、割った窓ガラスから僅かに光が入り込むくらいのもの。それでも雲雀はその奥にあるソファーに誰か座っているのを確認して、静かに足を踏み入れた。
「やあ」
天井は崩れ、ガラスは割れ、カーテンはボロボロに引き千切られ、ソファーは破れて綿が飛び出し、床には壊れかけた色んな物が散乱して瓦礫に紛れ込んでいる。お世辞にも綺麗とは言い難いその部屋で、襲撃犯の一人は優雅にソファーに腰掛けていた。
「よく来ましたね」
「随分探したよ。君がイタズラの首謀者?」
「クフフ、そんなところですかね」
犯人は薄く笑ったその後に、笑みを浮かべたままで雲雀を挑発するように言い放つ。
「そして君の街の新しい秩序」
その言葉に雲雀はピクリと反応した。
薄暗い部屋の中でも、雲雀の目には犯人の姿がしっかりと映っている。
黒曜中の制服に身を包んでいる襲撃犯の少年は後ろから入ってくる光のせいで顔が陰ってよく見えない。
けれど頬杖をついたその口元が歪んだ笑みを浮かべているのはわかっていた。今はその笑みが何よりも腹立たしい。
「寝呆けてるの?並盛に二つ秩序はいらない」
秩序は唯一無二のものであるからこそ意味がある。並盛に自分以外の秩序は必要ないのだ。
だから消えろ、と暗に告げた雲雀を嘲笑うかのように目の前に座っている少年はますます笑みを深くした。
「まったく同感です。僕がなるから君はいらない」
こいつ――…。
すっと目を細めた雲雀は「それは叶わないよ」と即座にそれを否定して、手にしていたトンファーを次々に変形させた。表面に鋭い棘が現れ、鈍い光を放っている。
この無礼な侵略者に手加減はいらないだろう。誰を敵に回したのかも自覚せず、自分が並盛の秩序になったと勘違いしているこいつの脳に、思いっきり鉄槌を下してやらねば気が済まない。余裕の笑みを浮かべていられるのも今日この場限りだ。
「君はここで咬み殺す」
トンファーを構え直した雲雀は、内に秘めた怒りもそのままに鋭い視線で敵を射抜いた。