23

目を開ければコンクリートの天井、頭が痛くていまいち自分の置かれている状況が理解できない。
蛍はどうして自分が意識を失っていたのか、ここが何処なのかゆっくりと記憶を辿っていく。
そうだ。病院の前で黒曜の学生に―――

「…ッ、」

ハッと全てを理解したと同時に身体を起こそうとする。が、身体に縛り付けられている鎖が重く、グラリと傾き再び身体は横に倒れる。

「あ、骸さーん。コイツ起きたぴょん」

聞き覚えのある声が響く。確か草壁を襲い、恐らく蛍自身をここまで連れてきたあの黒曜生だろう。
ということはやはりここは彼等のアジト。
蛍は何とか視界だけで見ようと頭を動かした。そしてそこから見えたのは、さっき草壁を襲いに来たあの少年と――。

「なん…で…?」

もう片方の犯人の姿を見た蛍は思わず目を瞠った。
小さく呟いた声は息を吐くほど小さなものだったから敵に聞かれる心配はない。
けれど今の蛍にそんなことを考える余裕は一切なく、足の力が抜けてずるずると扉にもたれかかるようにして床に腰をつけた。
蛍が目にしたのは、真ん中で黒髪を分け、左右非対称の美しい瞳を持った、黒曜生の少年。

『ああそういえば六道くんは見ませんでしたが、噂によると、旧国道の一角にある建物に彼が住んでいるらしいですよ』

そう蛍に教えてくれた、黒曜生の優しい少年だった。

「…嘘…」

――信じたくない、と思った。この状況ではまるで彼が六道骸ということになるじゃないか。
善意で六道骸の居場所を教えてくれた優しい人ではなく、自分が六道骸だということがバレないように笑顔で嘘をついた襲撃犯ということになるじゃないか。
信じたくなかった。信じたくなかったけれど、草壁を襲撃した少年と親しく会話をしている彼はどう見ても襲撃犯の一員だ。その時初めて蛍は彼に欺かれたことを知った。

「どうして…」

やっとのことで蛍が声を絞り出すと、少年は「君に会いたいとずっと思っていましたよ、蛍」と震える彼女の手を取った。

「僕はこの前初めて君に会った時、六道骸について教えましたよね?
『六道骸の居場所は旧国道の一角にある建物だ』と。
実際来てくれるとは思いもしませんでしたが…」

クフフと優雅な笑みを漏らす彼に、蛍は何も言うことが出来なかった。
目の前で笑う冷酷なこの少年は…誰なのだ。
少なくとも転んだ蛍を助けてくれたあの優しい彼はどこにもいない。ここにいるのは、並盛生を襲撃している犯人の一人。雲雀を傷つけた当の本人だけだ。
蛍の手を握り締めたその少年は、蛍を映し出している双眸を細めて笑い、ぐっと腕を引く。
必然的に彼に倒れ込む形になった彼女の耳元に、彼はそっと言葉を紡いだ。
言い聞かせるように、聞き間違えなど許さないというように。

「この僕が六道骸です」

さあ、もっと傷ついて悲しんで嘆いて下さい、と告げる言葉の刃は蛍の胸に深く深く突き刺さった。

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