結婚記念日


それはカカシがまだ火影に就任しており、ツララもまだ産まれていなかった頃のこと。
多忙な火影の仕事の中、一年に一度彼が恐ろしく仕事に励む日があったのだった。

「いいかい?オレは今日、絶対に仕事を定時で終わらせる!何が何でもだ!そのためには皆の協力も勿論必要になってくる……頼むよ、皆で必ず終わらせよう…!!」
「「「はい!!」」」
「(ハァ……めんどくせー…)」

カカシが皆の志気を高めようと鼓舞する。シカマルだけは面倒くさそうにしていたが。

「(結婚記念日だからって…何もここまでしなくてもいいような気もするがなぁ…)」

そう。今日ははたけ夫婦の結婚記念日なのだ。
里一と言われるおしどり夫婦、そして里一の愛妻家の六代目火影様はこの日だけは定時で家に直帰し、愛する妻とウフフな時間を過ごしたいらしい。完全に職権乱用である。
そのため毎年この日は里の忍たちでさえ緊張感が走るほどに仕事に打ち込むものが多い。
カカシを見ると既に集中モードに入っており、うぉおおおおと熱くたぎりながら書類整理に打ち込んでいた。
その姿は某木の葉の青き野獣を思い出させる。

一方その頃、妻であるホタルはというと―――

「あら、ホタルじゃない」
「サクラ。これからお仕事ですか?」
「うん、まあね」
「お疲れ様です」

木の葉病院に勤めるサクラはこれから出勤なようだ。
ホタルはというと、専業主婦なので仕事はないのだが。今日は珍しく朝から出掛けている様子。
珍しいわね、とサクラが言うと途端にホタルはよくぞ聞いてくれたというようにぱあっと目を輝かせた。

「え?」
「ふふ、実は今日…主人との記念日で…」
「あ、あー…そういやそうだったわね」
「はい。それでですね、ちょっと、自分磨きに…エステへ行こうかと」
「!?」

頬を赤らめながら顔に手を当てて恥じらうホタル。
同い年であるサクラさえ不思議に思うほど、彼女は六人もの子供を産んだ母とは思えないほどの若々しさと少女らしさがある。

「い、いや…ホタルにはそんな必要ないんじゃ…」
「いえ、せっかくの記念日ですもの。できるだけ綺麗な姿で主人を迎えたいではありませんか」

六代目火影は里一の愛妻家で有名だが、妻である彼女も相当なものだとサクラは思う。

「でもいいな、二人は…いつも一緒にいられるんだもんね」
「サクラ…」
「…サスケくんって、よくわかんない」
「……」
「夫婦になった意味あるのかな、なんて思う時もあるの」

乾いたように笑うサクラの話を、ホタルはただ静かに聞いていた。
それは彼女の優しさであることをサクラは知っていて、だからこそ素直に話してしまう。
ホタルは雪箆家として幼少時からサスケの傍にいたのだ。そしてサクラの気持ちにも初めから気づいてくれていて、七班のときから常に支えてくれていた頼れる存在でもある。
その関係性は、昔から変わらない。

「今度いつ会えるのかな、って思いながらあの家にいるのが……最近、少し辛いの。
そういう人だってわかって、ずっと好きだったんだけどね」

馬鹿よね、私。こんな今更なこと……、と自嘲するサクラにホタルはただ静かに耳を傾ける。
サクラにとってはそれが安心する。

「…サクラは、昔からずっとサスケばかりの子でしたね」
「え?」
「私はこう思っています。“サクラほど一途な人間はいない”と」

ホタルが顔を上げ、目を細めて微笑む。

「サスケにとってサクラは……この木ノ葉での、“居場所”なんだと思います」
「……居場所?」
「子供の時であれば私もサスケも…それぞれ依存し合ってお互いの居場所を無理やり作っていました。
でも今は私にも家族ができて、そこが私の新しい居場所…。
そして…今の彼にはあなたが、サクラだけが自分を待っていてくれる居場所なんです。
だから、何ヶ月経っても何年経っても、必ずあなたのところに帰ってくる。
ひとりサクラを里に残して何年もいなくなるなんてこと、自分が愛されてるっていうかなり自信と自覚がないと出来ませんね、普通なら。

―――男の独占欲の現れ、まあ単直にいえば“マーキング”よ。
サスケも格好つけているだけで、結局はただの男なんだから」

そう言って妖艶に微笑むホタルに、サクラは笑った。
どうやら取り立てて、難しい問題ではなかったみたいだ。

「…やっぱり、ホタルって…女としてはこわいわ。いつからそんな魔性の女になっちゃったのよ、もう」
「ふふ、…さぁいつからでしょうか。私もそれなりに年上のお相手を捕まえましたからね」
「………確かに、元を辿れば"教師と教え子"……」

▽▲▽

夕焼けで空が紅く燃えだした頃、はたけ家では豪勢な料理の数々が食卓に並び出した。

「うお…毎年思うけどさ」
「母さんって本気出すとホント止まらなくなるよね」
「まぁオレ等としては、うまいもん食えていいんだけど」
「チキンだー!」
「まだだよ、父さん帰ってきてからだから」
「ツララ…お箸…並べる」

この日ばかりは子供たちも全員揃っていた。父親の命令で、記念日は家族全員で祝福することが決まっているのだ。
しかし結婚記念日なのだから夫婦水入らず、二人きりでどこかに出かければいいものを、と三つ子は毎年頭を悩ませられていた。
そして、これまた毎年時間ぴったりに帰ってくる父親に呆れてしまうのも通例だ。

「ホタルちゃ〜ん!!はい、コレ!!」
「まぁ、今年も綺麗な花束、…素敵…ッ…」

家に帰ってくるや否や、赤やピンクや白といった美しい薔薇の花束を妻へ差し出す。
毎年、カカシが結婚記念日にホタルへ必ず贈っているものだ。

「あの、今日は私…ちょっと頑張ってエステへ行ってみたの…。どうでしょうか」

頬を赤らめて上目遣いで問う彼女に、カカシはずきゅんと胸を打たれたようだった。
真っ白い肌はまるで赤子のように滑らかで柔らかい。まさか自分のために、と思うとさらに嬉しくなってしまう。

「き、綺麗だよ…っ!でも、ホタルちゃんは何もしなくても…いつも十分綺麗だからね!」
「やだ…あなたったら…」
「本当さ、こんなに美人で綺麗な奥さん…世界中探したって見つからない」
「あなただって…こんなに素敵で愛してくれる旦那様は他にいないわ」
「ホタルちゃん…」
「カカシさん……」

手を繋ぎじっと見つめ合う夫婦は完全に二人だけの世界に行ってしまっている。
一体どこの付き合いたてのカップルだ、と突っ込みたくなるほどの熱々っぷりだ。

「なぁ…これ絶対時間かかるよな」
「ご飯冷めちゃうんだけど」
「もう毎年のことだから放っておこう、そうしよう」
「オレ、お腹空いちゃったー」
「僕も…」
「…ツララ、もう食べていい?」

残された子供たちは、結局こうなるんだから…と毎年恒例の惨事に肩を落とすのであった。

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