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ソフィア・サーバ―――小人族(パルゥム)の女性冒険者。
まさに“小妖精”といわれるに値する美しい少女である、と彼女を見たものは口々に言う。
光に反射する度に輝く白銀の艶やかな髪に、その瞳は紫色の宝石でもはめこまれているのかと思うぐらい輝き、雪を思わせる肌に、瞳に影を差すほど長い睫毛まで白く、
そして、造り出された人形のように整った顔立ちをしている。
冒険者としての実力も申し分なく、小規模の元イザナミ・ファミリアのなかで唯一Lv.6にまで到達したほどの実力者。
「――また、彼女はどのパーティとも組まずに、たった一人で第一級冒険者まで上り詰めたんだ。しかもあの若さで。これはとんでもない戦力が入ってきたもんだね。次の遠征が楽しみだよ」
「………フィン、お前は何故そんなに冷静でいられるのだ」
「お前さん本当はすっごいアホなんじゃないのか?」
「ギャハハハ!ソフィアたんに拒否られるなんておもろすぎやろぉおお」
ソフィアについて淡々と説明を終えたフィンに対し、副団長二人が突っ込みを入れる。
先ほど件の彼女がフィンの挨拶の直後に逃走を図ってしまい、今は残された幹部とロキで事の内容を確認しているところだ。
「失敬な。これでも驚いてはいたさ、またも逃げられてしまったしね」
「また…?フィン、あの子とは初対面ではないのか?」
「いや、前に一度。街の方で偶然見かけてね、見初めたから求婚したんだが…彼女は恥ずかしがり屋なのかな、何も言わず去って行ってしまったんだ」
「……お前さんやっぱり阿呆だろう」
***
―――やってしまった…。
ロキたちと居た部屋から逃げるように飛び出てきた当人は、本部内をとぼとぼと顔を下に向けて歩いていた。
来たばかりの本部内の勝手を知っているわけがないため、自分が何処に向かっているのかも分からずに。
「はぁ…」
やがて草木が茂る庭園のような場所に辿り着き、壁際に腰かけ溜息をこぼした。
入団初日に幹部たちの前から逃走してしまうなど考えてもいなかった。
しかしあの場の状況では自分の冷静な判断などどこかへいってしまい、いつの間にか身体が動いていたのだ。
まさかロキ・ファミリアの団長が彼だったとは。
小規模ファミリアにいて、他人と関わったこともなく自分以外の冒険者には殆ど興味がなかった。
そのためこれから自分が世話になるファミリアについて全くの無知であるが故に、以前街中で遭遇した彼にこのような形で再会するなど思ってもみなかったのだ。
ソフィアにとってフィン・ディムナは―――理解ができないひとである。
街中で柄の悪い冒険者たちに囲まれているところを助けてもらい、そのときまでは確かに恩義を感じていたのだが、
そのあと彼が言った言葉にソフィアは固まってしまったのだ。伴侶になってほしいと。
一瞬何を言われているのか分からず茫然としていたソフィアだったが、自分の人生において異性とそういう関係になることなど考えてもいなかったため、脳内が軽くパニックを起こし、今回同様何も言わずその場から逃げ出してしまったのである。
あとから考えて大変失礼な態度をとってしまったと反省はしたが、この広い迷宮都市で、尚且つソフィアも人のいるところに自分からいく性格ではないので、二度と会うことはないだろうと高を括ってしまっていた。
―――きっと罰が当たったんだ。
謝るべきだろうか。これから確実に世話になる団長だ。
いや、でも流石に今自分から彼に会う勇気はない。ああどうしたら…
「大丈夫か?」
頭上から声をかけられはっと顔を上げた。
そこにいたのは副団長のリヴェリアだった。
「副団長、」
「リヴェリアで構わない。走っていったと思えば、こんなところにいたとはな」
「すいません。私、さっきは失礼なことを…」
「あの大馬鹿者は気にしなくてよい…フィンから概ね聞いている。だから謝るな、よいな?」
「……はい」
「…ソフィア、お前の実力を私たちも買っている。これからはこのロキ・ファミリアのためにその力使ってほしい。私たちもお前のために力を使う、仲間として」
「……なか、ま」
リヴェリアの言葉を復唱するようにつぶやいた。
仲間――今まで独りで戦ってきたソフィアにとっては、それが何だかこそばゆく、そして温かいものに感じられた。
宝石のような紫の瞳を輝かせる彼女にリヴェリアの手が添えれられた。
頭を優しく撫でるその姿が、以前の主神の姿と重なった。