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「そこまでだ、二人とも」
フィンによって刀を抑えられたソフィアは驚きのせいか目を見開いたまま動かない。
今まで自分より下の冒険者ばかり見てきたソフィアにとって、こうも簡単に自分の動きを封じられるとは思わなかったのだ。
「何があったのかは後で詳しく聞かせてもらう。まずは…ソフィア、落ち着くんだ。君の剣は仲間に向けるものではないのは分かっているね?」
今はフィンがソフィアの刀を抑えている状態だが、ソフィア自身がティオネへの怒りを鎮めなければ彼女は再び刃を向けるだろう。それを見越してソフィアへと問いかけるフィン。
「…たとえ仲間であっても、私の大切なものを侮辱する奴は許さない」
「君の言い分は理解しよう。…しかしお互いに誤解を招いている可能性がある。これ以上の揉め事は君にとって何のメリットもないと思うよ」
「……あんたはあの人(ティオネ)の味方をするの」
「どちらについているわけでもない。僕は団長として、キミたち団員を統率する義務があるからだ」
フィンの言葉を聞いて、腑に落ちないといった雰囲気ながらも、やがてソフィアは刀を持つ手を緩め臨戦態勢を解いた。
その姿を確認するとフィンも自身の槍を収めた。そして野次馬状態だった団員たちに向かって、
「全員持ち場に戻れ!あとのことは僕が任された」
団長である彼の言葉に耳を傾けた団員たちはその場から散り散りになっていき、広場にはティオネとフィン、ソフィアの三人が残されたのであった。
「さて、まずは二人ともついてくるんだ」
***
ロキ・ファミリア本拠、『黄昏の館』。
長邸とも呼ばれている高層の塔の集合体、その尖塔の一基に首領の執務室はあった。
花冠を彷彿させる絨毯に白い石造りの暖炉、縦長の大型時計。品の良い調度品が置かれた室内は相応に広く、壁には絵画風織物――槍と鎧を纏ったとある女神の肖像がかけられている。
窓際に設置されている大きな机の前に立たされながらも、ソフィアはその女神の肖像に視線をやっていた。
その女神が何を示しているのか知っていたからだ。
「…なるほど。話の筋は分かった」
首領の声にソフィアは再び正面の方へと視線を戻す。
椅子に座るフィンが机に両肘を置いて、思慮深く言葉を選んだ。
「まずはティオネ」
名指しを受けたティオネはビクッと肩を揺らし緊張した面持ちでいた。
「彼女がどうしてあんな行動に出てしまったか、当事者であるキミが一番よく分かっているはずだ」
「…はい」
「たとえキミにその気がなくとも、どう解釈されるかは相手次第。それを踏まえて、今ソフィアに何を言うべきか分かるね?」
「はい……ごめんなさい、ソフィア…」
「………」
ティオネが謝罪を述べるも、ソフィアはそれを横目にすると再び肖像画の方へと顔を向けてしまった。
まるで謝罪の言葉を聞く気などないかのような彼女の態度に、ティオネの中で何かが切れる音がした。
「っっアンタねぇ!!何その態度!?こっちが謝ってんだから何か言うぐらいできないの!?調子ぶっこいてると――「ティオネ」
ブちぎれてしまったティオネはフィンの前であることをすっかり忘れたのか荒い口調に戻っていた。
しかし、すかさず首領が止めに入る。
「さっき言った僕の言葉をもう忘れたのかな?」
「だ、団長!でもコイツが…!」
「ソフィア、キミもいい加減にするんだ。子供ではないのだから。
それに君の方にも非はある。いくら癇に障ったからと言って、キミはLv.6。真剣でまともにLv.5と戦り合おうとするのは恥ずべきことだよ」
「…この人がこんなに弱いと思わなかった」
「あ”ぁ”!?」
ソフィアが再びティオネを挑発するかのように言うが、次に聞こえてきた言葉にティオネはおろかフィンまで驚いてしまっていた。
「アマゾネスの種族は強いと聞いていたから。都市最大派閥のロキ・ファミリアにいるアマゾネスだから、手を抜いたらこっちがやられると思った」
ティオネのことを馬鹿にしていたと思われていたが、寧ろ彼女のことを過大評価していたのだ。
本気で戦り合おうとしたのもアマゾネス相手に一筋縄でいかないと考えていたから。
それを聞いたティオネは、
「…フ、フン!まぁ多少は分かってるじゃない!」
存外まんざらでもないのか鼻高々にしている。
「でも、実際に戦ったら弱かった。もう少し鍛錬した方がいい」
「あんですって!?」
「それから…謝罪ならイザナミ様に向けてほしい。私じゃなくて」
ティオネにその気持ちさえあれば別に自分は構わない、とソフィアは言う。
それを聞いたティオネも言葉を詰まらせ、やがて分かったと頷き、お互いの火種はようやく鎮火されたようだ。
「まぁとにかく、事なきを得てなによりだよ。二人とも今後はこのようなことがないようにね」
「すいませんでした、団長。ホラッ、あんたも!」
「何が?」
「何がじゃないわよ!団長にご迷惑をかけてしまったんだから少しぐらい反省の色を見せなさいよっ」
「元を辿ればことの発端は貴女でしょう。貴女って忘れっぽいのね」
「ぐっ…こいつやっぱり好きになれない!」
「私も貴女は苦手」
「やれやれ…」
犬猿の仲になってしまったらしい二人を前に、フィンは重い溜息をついていた。