「なんじゃこりゃメチャクチャ下手糞じゃねーか!いくらなんでもお粗末すぎる…」

ただし碁に関してはブーイングの嵐だった。今も同中学の大将――加賀に後ろからボロカスに言われている。ちょっと離れたところでそれを見ている巴は苦笑い。
加賀とヒカルが対局して、そこで実力を見込まれたらしいが、今日は佐為が口出ししてないから、初心者に近いヒカルでしかない。
むちゃくちゃ強い助っ人だと思われたからこそヒカルは声をかけられたのに。肝心の大会でこれじゃあ加賀はさぞかしガッカリだろう。彼自身は大将にわずか10分で勝ち、副将も遅れて勝ったようだ。そして、ヒカルは…投了。

ヒカルの中押し負けを考慮しても、戦績は2勝1敗。葉瀬中は一回戦をなんとか突破した。
数メートル先でボロ負けしたヒカルが大将の加賀に小突かれている。
ヒカルの後ろにいる佐為は打ちたくて打ちたくてウズウズしていることだろう。

「あ、あのー」
「え?」

彼らの様子を遠くから傍観していた巴がぱっと正面を向けば見たことの無い男の子がいた。

「君、囲碁部の人じゃないみたいだけど…」

もしや関係者以外は立ち入り禁止だったのか。
流石に追い出されるのは嫌だった巴、瞬時に思考を巡らせて外面の顔をつくった。

「え、あの、ごめんなさい。囲碁の大会って一度見てみたくって……知り合いが出るっていうから、つい」

あからさまにシュン、としてみせれば、その男子生徒はワタワタ慌てた。

「あ、違うんだ!怒ろうとしたんじゃなくてっ」
「え?」
「その、一人で来てるんだったら…良かったら少し話さない?お昼は、どうするの?此処で食べてくのっ?」
「……」

ただのナンパだったことに気づいた巴は何も言わず、その場を離れたのであった。

▽▲▽

葉瀬中の第二回戦、後ろで見ていた巴はハラハラの連続だった。

「どうやら葉瀬中で強いのは大将だけみたいだな」

対戦校の副将がぼそぼそと言った。
確かに副将戦はちょっと分が悪い。すでに対局が終わった加賀も、厳しい表情で残りの対局を眺めている。

「コイツなんてもうてんで話にならねーぜ」

相手の三将がにやにや笑いながら言った。それを聞いて加賀が「どれどれ」とヒカルの対局を覗き込む。
途端、どっと落胆した顔つきになった…無理もない。

「うーん…石の筋はオモシロイんだが、あまりにも未熟というか稚拙というか」
《やーい言われた言われた》

佐為がやたらと嬉しそうにヒカルをからかった。

「なァおまえやる気あんのか?」

ヒカルの愚鈍にしびれを切らした加賀が言った。

「やる気?満々!」
「おまえの実力はこんなもんじゃないだろ?それとも遊んでんのか?」
「遊んでるよ」
「なっ」
「だって、ねェ、ホラ…碁盤には9つの星があるだろ?ここ、宇宙なんだ」

突然ヒカルが自由すぎる発言を始めた。本人は大真面目らしいけど、完全にこの場では浮いている。

「そこにさ、石をひとつひとつ置いていくんだ。星をひとつひとつ増やすようにさ。どんどん宇宙を創ってくんだ…まるで神様みたいだろ」
「………」
「俺は神様になるんだよ、この碁盤の上で――――」


碁盤の上では、神様になれるんですよ


巴はその時、何かに打たれたかのような衝撃が走った。
前にヒカルと同じ言葉を言う人がいたのだ

小さかった巴には意味が分からなかったが、その言葉の意味が、今分かったような気がする。

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