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プロ試験初日、やはり塔矢は来なかった。
本戦は受験者30名による総渡り戦。合格のノルマは無く、戦績上位3人がプロになれるというシンプルな仕組み。一勝でも多く勝たなければいけない、そんな状況下ですら塔矢は佐為を優先させた。
「初日から不戦勝か…」
どうせ塔矢は佐為とネット碁で来ないと知っていたため、相手の方は待ちぼうけをくらうだけと思っていたら、クジを引いてみれば塔矢の相手はなんと自分だった。初日を白星スタートできたのは嬉しいが、所詮は不戦敗だ。達成感も何もない。
ピーンポーン。部屋でごろごろ不貞腐れていたところで、インターホンの音。のそのそ起き上がって玄関を開ければ…やはりヒカルと佐為だった。ようこそ、というか、おかえり。頻繁に来られすぎてもう完全に同居している気分だ。最近では時々泊まったりもしてるし。そろそろ着替えとかシャンプーとか、ヒカルの生活用具をセットで揃えようかなとか考えている。
「対局、どうだった?」
《勝ちましたよ》
佐為はニコニコ笑顔。強い相手と打ててご機嫌のようだ。
二人を中へ通しながら、巴は冷たい麦茶を入れる。
「…はいヒカル、お茶」
「サンキュー。お、つめてえ」
「じゃあ早速並べてよ」
「来て早々かよ。もー」
文句を言いながらもヒカルは佐為 対 塔矢の打ち碁を並べてくれる。巴はそれを食い入るように見つめた。
「…で、ここで塔矢が投了」
「佐為は勿論だけど……塔矢も凄いね。本当に昔なんて比べ物にならない」
《本当に将来が楽しみな子です。このまま成長すれば龍に化けるか、獅子に化けるか》
「そうね……ヒカルも頑張りなさいよ」
「ハイハイ、精々頑張りますよって…それより巴、腹減ったぁ」
「だからすぐ食べたいんだったら連絡入れてから来てって、何回も言ってるじゃない」
「だって面倒なんだもん。すぐ食えるもん作ってよ」
「はいはい…」
ヒカルの駄々でしかたなく立ち上がる。これも恒例だからいいんだけど…冷蔵庫に何があっただろうか。
《巴、いつもヒカルがワガママ言ってすみません》
「佐為、なんか保護者みたいだね」
情けない顔をした幽霊がつつ、と巴の後を付いて来る。
「えーと冷凍ご飯が結構あるし…チャーハンでいっかな」
《ちゃーはん?》
「前にも何度か作ってるよ。ご飯と細かい具を炒めたもの」
《ああ、あれですか。それにしても巴は凄いですね。今あるもので直ぐ作れるのですから》
「まぁ慣れたものだから」
食べ終わった頃合いで巴が尋ねた。
「二人は明日もネット碁なの?」
「え?まぁそうだな…何で?」
「私も佐為の対局見たいから、一緒にネカフェ行こうかなって思って」
わざわざネットカフェに行かなくても家にパソコンはあるのだが、プロ試験の緊張感を緩和するためにも外出で気分転換したいところ。
「横で大人しくするからさ。ね?」
「それはいいけどさ…お前最近忙しいんじゃなかったのか?」
「明日は空きだからいいの」
「あっそーかよ。じゃあいーよ…えーと場所は…」