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「今年の新初段はオレが打つことになってね。高嶺巴、知り合いだろう?」
「えっ」
ふとした折りに、何の気なしにアキラに言ってみたころ、思っていた以上に動揺された。いつも大人びているこの子にしては珍しい反応だ。進藤ヒカルのこと以外でもこんなリアクションをするのか、なるほど。
「高嶺さんと緒方さんが対局するんですか?」
「ああ」
「……そうですか」
「君は前からあの子のことを知ってるようだが」
「ええ、小学校で同じクラスだったので」
「同じクラス?……あの子、アキラ君と同い年なのか?」
「はは、高嶺さん大人っぽいからよく間違われているみたいだけど、まだ13歳なんですよ」
それから少し経って―――いざ本人を目の前にして、思う。見えないぞ13歳に。
スーツに着られている様子もないし、垢抜けたような髪型や顔立ち、柔らかな笑顔なんかは、妙に大人の女を思わせる。アキラのやつも子どもらしくないと思うけれど、この少女に比べればずっとマシだった。
「すごい、ここが幽玄の間ですか?……すごい、なんだかテレビの中にいるみたい」
かと思えば、そんな子どもらしい発言もしている。高嶺のこのギャップに新人記者は早くもデレデレだ。
「高嶺さんここに入るのは初めて?あ、そっか、君は院生じゃなかったんだね」
「院生の皆さんはここへ出入りできるんですか?」
「一応ダメってことになってるんだけどねー、まあそういう規則ってあってないようなもんだから」
▽▲▽
「でもさー大健闘だったじゃん!」
パチン、ヒカルが碁石を打った。5分ほど考えて、巴もパチンと打つ。今日ヒカル達はもう泊まって行くらしく、比較的ゆっくりと打っている。もうちょっとしたらヒカルの母親から「いつもウチの子がすみません」の電話がかかってくる頃だろう。
「何言ってんの、途中で緒方さんめちゃくちゃ遊んでたよアレは。こっちは緊張しっ放しだったのに」
「フーン、巴でも緊張とかするんだ」
「私のことなんだと思ってんの?記録係とか時計係りとか記者とか…いろんな人がいるし、盤面は中継されてるし、幽玄の間は…なんだかピリピリしてたし…」
「オレも来年はあそこに行けるようにしなくちゃな」
「そうそう、頑張れ」
二人の意見が聞きたかったから、先ほどまでの緒方さんとの一局を4人で検討していた。逆5目半のハンデをもらっておきながらも自分は緒方に敗退。それを思うと王座に喰らいついて行った塔矢の実力は凄い。
「どーだ巴、投了か!?」
「いいえ。まだまだ。はい、」
「あ!…くっそー!」