藤原佐為―――かつては内裏で天皇の囲碁指南役として活躍していたが、指南役仲間だった菅原顕忠の勝負で謀略に嵌められ都を追放、その二日後に失意のうちに入水自殺してしまった。
その後、故合って成仏し切れなかった彼は碁盤を通して進藤ヒカルと巡り合ったのだという。
そして佐為の言う、妹の紫(むらさき)は大層美しい姫で京では有名だったが、佐為のこともあり、同じく家族と共に都を出たというが、元々貴族だった少女が生き抜くにはとても苦しい時代であったため、佐為は自分のせいで妹に苦労をかけたのではないかと気にしていたらしい。
そこで街中で偶然見かけた妹とそっくりの巴を見て、もしや何か繋がりがあるのではと追いかけてきたらしい。

「…とは言っても、ウチで藤原という親戚の人はいないし…」
《それでも貴女を見て驚きました。私は最初、あの子も成仏できなかったのかと思ってしまいましたから》

余程、妹が大切だったのだろう。
千年経った今でも、こんなに思っているなんて。

「あ、ヒカルくん。食べられないものとかないよね?アレルギーとか…」
「別にないよ、ていうかヒカルでいい。“くん”とか呼ばれ慣れてないし」
「でもキミ、私より下でしょ?同い年ならまだしも」
「はぁ!?オレ、小6!年下なわけねーだろ!お前もランドセル背負ってたんだから!」
「…同い年だったの。ごめん、言動が一々子供だったから」
「なんだとー!?」
《ヒカル!そういうところですよ!》

今できゃんきゃんと騒ぐ二人の声を聞き流し、巴はいつも通りに手際よく調理を済ませ、できた料理を盆に乗せていった。

「はい、オムライス」
「え、マジ?巴が作ったの?」
「今さっき目の前でやっていたでしょうが」
《巴は料理が上手なのですね、これはきっと良い縁談がくることでしょう》
「……じじくさい」
「しょーがねぇだろ、千年前の人間なんだから。それ言ったらめちゃめちゃじーさんになっちまう」
《二人ともひどいっ!!》

その後ヒカル達の話を少しだけ聞いたが、どうやらこの少年かなり苦労しているらしい。
碁をしたいという佐為に対し、碁なんて今までやったこともないヒカルは佐為に半ば振り回されるような形でやっているという。
そこであることを思った巴は彼らに一つ提案してみることにした。

「…今から打ってみる?」
「え?」
《打つって―――碁をですか!?》

真っ先に飛びついてきたのは佐為だった。ヒカルの方はきょとんとした表情でいる。

「巴、碁打てんのか?」
「まぁ…ちょっとはできるよ」
《やりましょう!やりましょう!》
「うち、碁盤はあるし。…千年前の人と打てるなんて、早々ないだろうしね」

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