それからというもの、ヒカルと佐為は頻繁にうちへ来るようになった。
佐為は棋譜を見たいがために。ヒカルは―――巴に宿題を手伝ってほしいがために。

「ヒカル、……これ解けないって本気?」
「うるせー!真顔で言うんじゃねえ!!」
「授業中なにしてるの?寝てるの?」
「ど、どうでもいーだろそんなん!」
《寝てます!今日もヒカルはぐっすりでした!》
「佐為、テメー、チクんな!」

絶望的なヒカルの学力を底上げするのを早々に諦めた巴は、ただ宿題の空欄を埋めるだけ。教科書も見ずにサラサラと回答していく彼女を、ヒカルは尊敬のまなざしで見ている。

「すげー、巴って頭いいんだ」
「誰に向かって物を言ってるの。ほら」

今朝送られて来たばかりの書類を見せてやれば、ヒカルはぎょっと眼を見開いた。

「海王中合格……え!?しかも一番!!!…えーと”始業式で代表の挨拶”ぅ?うわっそんなんやるのかよ」

巴は中学受験をし、進学校で有名な海王中学へと進むことにしたのだ。

「ところでヒカルはどこの中学に行くの?」
「俺は葉瀬。巴みたく受験もしねーし」
「ああ、葉瀬ね。あそこのセーラー服は可愛いから、ポイント高いよね」
「ポイント?なんだそれ?」

不思議に思いながらもヒカルはランドセルの中から次の教科のプリントを出していった。
するとヒカルががさごそと中をあさっていったため、ひらりと一枚の紙も一緒に出てきた。

「なにこれ…子供の囲碁大会?」
「あぁ、こないだ碁会所に行ったときに受付の人からもらったんだ」
「碁会所って、ヒカル、碁会所なんか行ったの?」
「え…まーな」

このヤンチャ少年もなんだかんだ佐為のために動いてるようだ。

「ふぅん。で、これ出るの?」
「出ねーよ。貰っただけだし」
『ヒカル、ヒカル、見に行きましょうよ、ねえ!』
「そーだな…気が向いたら」

いや絶対に行かないだろお前、といいたくなる投げやりな返事に、佐為は不服そうだった。

「そーいやさ、このチラシもらった碁会所に俺達と同い歳のやつがいてさあ」
「へぇ珍しい」

碁会所は基本、年配の方たちの集まりの場所というイメージがあったので、小学生の子供が行くことは珍しく感じた。しかしこの時はまさか、あの塔矢のことを言っていたとは巴には思い付きもしなかった。

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