ハンター学園 ゲーセン
ピコピコ、ガンガン、ドンドン、様々な機械音とネオンのような色が飛び交っているこの空間。
「ここが…ゲームセンター」
唖然とした様子で入り口付近に立ち止まっているのはソフィアだった。その横を通り過ぎるフィンクスが冗談気に問いかけた。
「なんだまさか来るのは初めてとか言うんじゃねーだろな」
「…初めてです」
「マジかよッ、今まで何して生きてきたんだ」
「アハハ、キミとソフィアを一緒にしない方がいいよ〜、フィンクス。あでっ!何すんだよ!」
「おい、フェイ。いつものカーチェイスやろーぜ」
「オーケー」
「ノブナガ!パワーマシーン空いてるぞ!」
「よせって、どうせお前壊しちまうだろうが」
「なんだお前負けるのが怖ぇのか」
「パワーマシーンはどこだ!?オレが最高得点出してやる!」
「おい!先にやるのは俺だぞ!」
「アイツら、単細胞過ぎでしょ」
フェイタンとフィンクスがカーチェイスに行き、ウヴォーギンとノブナガがパワーマシーンに走っていった。彼らはこういう遊び場に慣れているのだろう。残されたのはフィンクスとマチ、ソフィアだった。
「全くアイツらは…ソフィアは何かやりたいものある?」
「えっと…とりあえずグルッと回ってきたいです」
「ゆっくり見てきなよ。興味あるものがあればやり方教えてあげるから」
マチに押されて、ソフィアは早速ゲームセンター内を探検することにした。店内にはちらほら利用客がいるが、平日である今日は学生が先ずいない。こうやって昼間から堂々と利用できるのは、最恐最悪と呼ばれる彼らだけだろう。初めて訪れた場所に好奇心を抱かせるソフィア。やがてフェイタンたちを見つけると、彼らの元に向かった。
車に使われるような椅子に座り、これまた車で使われるハンドルを握って画面を見ている。画面にはまるで実際に運転しているかのような動画が流れており、どうやらこれを見てハンドルを操作してカーチェイスをするゲームのようだ。
「あ!テメっ、今オレに当てただろ!」
「ワタシの前にいるのが悪いね」
道具を使って相手に攻撃するのも有りらしい。現実と違ってとても過激なカーチェイスだ、とソフィアは思った。
「ちっくしょ!またオレの負けか」
「フィンクス、最近負け続いてるね」
「こっちのゲーセンのハンドルは握りづらいんだよ」
「フン、負け惜しみはいいよ」
「あ”?…ってソフィア、いたのか」
「これは車を運転するんですね」
「やったことねぇのかよ?」
「私、免許持ってなくて」
「んなもんいらねーって!お前もやってみろよ」
「え、ハンドルなんて握ったことないですし」
「ガキでもやれるゲームだって。フェイ変わってやれよ」
「何故ワタシ変わるか」
「お前が隣で教えてやりゃいーだろ」
「っ、フェイタンさんが…?…や、やります」
「だってよ」
「……チッ」
フェイタンは小さく舌打ちをして、まるで腑に落ちないといった様子だが、ソフィアは目をキラキラさせてあまり気にしていないようだ。
フェイタンが席を譲ると、ソフィアは小さくお礼をして席に座る。画面にはメニュー画面が写るが、何を選んでいいのか分からない。すると傍に立っていたフェイタンが手慣れた様子で画面をタッチしていく。その様子をソフィアはじっと見つめている。
「ワタシ見てないで画面見るよ」
「あ、す、すいません」
横目で睨まれてしまい、すかさず正面に視線を戻した。画面は既にスタートの合図が出ている。
「あの、これって…」
「いいからワタシに従えばいいね」
「…はい…っ」
“ワタシに従えばいい”、“従えばいい”、“従え”――ソフィアの脳内でどんどん変換されていきエコーしていく。好きな異性からそんな風に言われたら、思わず胸が高鳴ってしまうのが彼女であった。
最初はハンドルと画面の動きが分からなかったが、隣にいたフェイタンがソフィアの手の上に、自分の手を重ねて一緒に操作をしてくれたお陰で、自然と動かせるようになっていった。しかしソフィアの中では正直、まさかフェイタンに手を重ねてもらえるとは思わず、終始鼓動が早まっていくのが彼に伝わらないかとハラハラした。
「あー!!くっそー!!また負けた!」
「ククッ、フィンクスの癖はもう分かたね」
「フェイタンさんの…て…手、が…」
ゲームの勝敗を争い合っている彼らの傍ら、ソフィアは赤らんだ自分の頬を抑えるように手を当てていた。
その後、他に何かやってこいと勧められ、今度はマチたちがいる方へやってきた。彼らは何やらガラスケースの中を覗いて、複数のボタンを押しケース内の機械を操作してるようだった。ケース内には可愛らしいぬいぐるみがたくさん入っていて、ケース上部のキャッチャーで間接的に取ることができるらしく、普通なら千円以上はするだろうぬいぐるみは何と100円単位で手に入れることができるということだ。
「すごいですね、お店は赤字にならないんでしょうか」
「…ソフィア、気にするとこソコ?」
「気になるならやってみるといいよ」
「はい」
シャルナークに薦められて早速ワンコイン入れる。操作を簡単に教えてもらい、キャッチャーを動かした。目当ては薄桃色をしたうさぎのぬいぐるみだ。一目見たときから目を奪われてしまったらしい。
しかし思いのほか、自分の思うように操作できない。ここだと思った場所にキャッチャーを降ろしても、うさぎとは少し離れた場所に降りてしまった。どうしてこれがワンコインでできるゲームなのか、今分かった気がする。
「難しいです」
「まぁ初心者はこんなもんだよ。僕も今まで取れたことないんだよね」
それでもあのうさぎのぬいぐるみはやっぱり可愛い。一回挑戦すると、せめてもう一回やってみようと再びワンコイン入れようとした。するとそこにやってきたのは先ほどカーチェイスをしていたフェイタンたちだった。
「お、UFOキャッチャーやってんのか」
「ソフィアさんはあのぬいぐるみが欲しいみたいですよ」
「あんまのめり込むんじゃないよソフィア」
「でも…」
「そうだフェイタン、代わりに取ってやりなよ」
「は?」
「おおそりゃ名案。フェイ、これ得意だろ?いいとこ見せてやれよ」
「そこまでしてやる義理ないね」
一瞬ソフィアの顔が綻んだが、フェイタンの一言で一気にシュンとしてしまう。
「ったくしょうがねぇな。俺がやってやるよ」
ソフィアの悲しそうな顔にやられたフィンクスが前に出る。自分の財布からコインを取り出し入れて、ボタンを押そうとしたが、
「あ、おい!」
「……」
何故かフィンクスの身体に横からフェイタンがドンッと押しのけて、フィンクスの非難の言葉も無視し、ボタンを慣れた手つきで押していき、いとも簡単にウサギのぬいぐるみをゲットしてしまった。
落とし口にぬいぐるみを落とすと、取り出し口からそれを手にし、ソフィアの方へぽいと投げる。その無駄のない一連の動きに、皆ぽかんと口を開けてしまっていた。唯一、ソフィアだけは瞳をきらきらと輝かせ、頬を桃色に赤らめ、まさに恋する乙女といった表情をしていたが。そして役目を終えたとばかりにフェイタンはさっさと次のゲームへと行ってしまった。
「フェイタンも何だかんだ言って男だよね」
「あからさまですけどね」
「つーかあれ俺の金じゃねーか!?おいフェイ!!」
ソフィアはフェイタンが取ってくれたぬいぐるみを大事そうにぎゅっと抱きしめた。