二十五

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 朝の清々しい匂いが鼻につくなか、深く息を吐いた。ついに今日が来てしまったのだ。


 「いきなりだが、お前ら全員、中忍試験に推薦しちゃったから」


 なんて昨日カカシ先生に告げられた。その説明が書かれた紙ももらった。中忍試験はそれぞれの個性と忍としての実力をはかるもの。合格した者はもちろん中忍になれるということ。

 「おはようってばよ、トモエちゃん!」
 「おはようございます」
 「ん?なーんかいつものトモエちゃんとは違うような気がするってばよ」
 「そう…?」
 「うん。いつにも増して輝いてるっていうか……な、サクラちゃん?」
 「――え?あ、ああ…そうね」

 ぼーっとしていたかのような、普段のサクラらしかぬ反応につい疑問を感じたトモエ。何かあったのだろうか。サスケの足が試験会場のほうへ動きだしたのが合図のようにナルト、サクラの順でサスケを追っていく。そのサクラの後ろ姿にはいつもの元気はない。トモエはサクラを追いかけるとその手を握った。

 「サクラさん……もしかして、試験、受けたくないんですか?」
 「え、…」

 今まさに考えていたことをピタリと当てられ、サクラは一瞬動揺する。しかし、すぐに再び笑顔を見せて、サクラはトモエの背中を軽く叩いた。

 「なっ…何言ってんのよトモエ!そんなことあるわけないじゃない!」
 「そうですか、じゃあその寝不足気味の隈は偶然できたものなんですね」
 「あ…これは…」

 が、そのサクラの見せる空元気はすぐに見破られる。

 「嘘はいけませんよ、私で良ければ話してください。耳を傾けるぐらいはできますから」

 顔を覗きこむような体勢のトモエに、サクラはとうとう観念したらしい。肩の力を抜くと、彼女は気まずそうに小さく頷いた。

 「トモエは......トモエは、昨日、躊躇ったりしなかった?」
 「......?何にですか?」
 「試験を受けることに......不安とか」

 おずおずと言葉を差し出すサクラを見て、トモエはなんとなく察する。なんと言えば良いか迷ったが、とりあえず求められた答えを言う。

 「不安がない、なんてはっきりとは言えませんけど。でも私はそれより挑戦したいって気持ちが大きいですかね」

 何よりも夢のために、と微笑むトモエをサクラはじっと見つめる。「そっか」と呟く声は弱い。
 ちょうどその時集合場所が見えてきて、ナルトの声が二人の間を抜けていった。朝の挨拶や遅れたことへの謝罪をしている間も、サクラの浮かない顔は直らないようだった。

 その事態が好転したのは、二階にある、301号室の前。

 偽301号室の前には受験者による人だかりができていた。どうやらここを通るためには立ちはだかる青年二人をどうにかしなければならないらしい。無視すれば良い話だが、ご丁寧に結界も張ってあるらしく、どうしてもここを通過する必要があるようだ。

 ......などということを階段を上がったサスケは瞬時に見抜き、班員三人を引き連れて堂々と青年の前へと進んだ。四人の耳に届くのは青年たちの小馬鹿にしたような声。

 「酷いって言うヤツがいるようだが、これはオレ達の優しさだぜ?中忍試験は難関だ!」
 「この試験を受験したばっかりに、忍をやめていくもの、再起不能になったもの。オレ達は何度も目にしてきた」
 「それに中忍っていったら部隊の隊長レベルよ!任務の失敗、部下の死亡、それは全て隊長の責任なるんだ。それをこんなガキが」
 「どっちみち受からない者をここでふるいにかけて何が悪い?」

 あまりに理不尽な言い分に、ナルトが突っかかろうとしたのは言うまでもないが、それをトモエとサクラが二人掛かりで止めたのもまた然り。サスケはといえば、そんなことは気にもかけなかった。

 「正論だな。だが、オレは通してもらおう。そしてこの幻術でできた結界をとっとと解いてもらおうか。オレは三階に用があるんだ」

 「ほう。気付いたのか、貴様」と片方が眉を吊り上げる。サスケは青年から目を放さなかったが、不意に呼んだのはチームメイトだった。

 「サクラ、どうだ」
 「え?」
 「......お前なら一番に気付いてるはずだ」

 サクラはきょとんとサスケを見る。どこか不自然に目を逸らしているサスケ、その顔によると、柄にもなく居心地悪さを感じているようだ。思わず吹き出しそうになった幼なじみがいたが、手を口に当てて堪える。

 「......サスケくん?」
 「......お前の分析力と幻術力のノウハウは、オレたちの中で一番伸びてるからな......」

 いつもはぶっきらぼうなサスケなりの励まし方である。目を瞬いていたナルトも、サクラの表情の変化に気付いたのか、ニッと笑っている。肩を震わせているトモエに制裁を入れるサスケを見ながら、サクラはじわじわと自身の中に上ってくる温もりを感じた。
 自分が抱えていた悩みなど、班員たちにはお見通しだったのだ。

 「もっちろん!!とっくに気付いてるわよ。だって、ここは二階じゃない!」

 途端、301と書かれてあった標識が201へと変化した。他の受験者たちが呆気にとられた声が廊下に響く。その中で、術を破られた青年はというと、意地の悪い笑みを貼付けていた。

 「ふぅん、中々やるねぇ。だけど、見破っただけじゃ......」

 青年の目が鋭く光った。

 「ねェ?」

 刹那で青年の足は攻撃へと移っていた。それに対抗し、初めに動いたサスケ。青年と同じように足を振り上げたのだ。
 しかし、互いの足がぶつかることはなかった。

 突然の乱入者のせいで、またはおかげで、二人の足はそれぞれ軌跡を止められたのである。

 「ふぅ......」

 その乱入者とは、先ほどは青年に殴られていたはずの少年だった。
 安堵の息を漏らした彼は両者の足を放す。「なっ」と漏らしたサスケが、後方に下がりつつ驚愕の目を向けることも気にせず、少年は自分のチームメイトと話し始めていた。

 「お前、約束が違うじゃないか。下手に注目されて警戒されたくない、と言ったのはお前だぞ」
 「だって…」

 白い目が特徴的な少年に言われ、おかっぱ少年はチラリとサクラの方に目をやる。そのままサクラの方に近付くとい、おかっぱ少年は小さくはにかんだ。

 「あの…ボクの名前はロック・リー。サクラさんというんですね」
 
 そう言って、疑問視を浮かべているサクラにキラリと歯を光らせ、おかっぱ少年…もといリーは、ぐっと親指を立てた。

 「ボクとお付き合いしましょう!!死ぬまでアナタを守りますから!!」

 しかし、サクラはその言葉をバッサリと切り捨てる。

 「絶対、イヤ......」
 「えっ......」

 その途端冷たい風が吹いた気がする。

 「あんた、濃ゆい」

 たった数秒で惨敗してしまった少年、リーの頬にはだぁーっと涙が伝っていた。トモエは無論クスクスと笑っているだけで、隣のサスケはほんの少しだけリーが不憫に思えた。とはいえ止める気にもなれず、サスケは視線をトモエから外した。その時だった。

 「おい、そこのお前」

 サスケはすぐさま気づいて振り返る。

 「名乗れ」

 そこにいたのはリーのチームメイトらしき少年だった。その目はサスケを真っ直ぐ捉えている。トモエは変わらず微笑みを浮かべ、サスケは僅かに目を見開く。
 その様子を見ていたナルトは、「くっそーー!!またサスケばっかし!!」と悔しそうに拳を握っていた。

 「…人に名を聞く時は自分から名乗るもんだぜ」
 「あら、別に減るものでもないでしょうに」
 「お前は黙っとけ」
 「はいはい」

 その二人の様子を見て、少年は目を細めた。
 
 「お前らルーキーだな?年はいくつだ」

 そこでサスケが少年を睨み 「答える義務はねェ」などと言い出したもので、トモエが何故か代わりに「12ですよー」とだけ答えてから、厄介なことになる前にとさっさと退散した。
 もちろんその間もサスケは抵抗していたわけではあるが、トモエに対して辛く当たることができないのもサスケである。

 そうして第七班はそれからサクラを先頭に先へと進んだ。ずっとその動向を見ていたのは、ついさっきサクラにフられ、盛大に嘆いていたロック・リーだった。

 「リー、行くわよ。なにやってんの?」
 「......キミたちは先に行ってて下さい。ちょっと、確かめたいことがあるので」

 そう言ってリーはチームメイトの言葉にも気にかけず、第七班が進んで行った方向へと動き出す。



 リーが第七班を見つけたのは、見失ってからそれほど時間も経っていない頃。階下を歩く四人の姿を見、すぐさまリーは声をかけた。

 「目つきの悪いキミ!ちょっと待って下さい!」

 七班全員が見上げる。リアクションは様々、その中でもサクラは本気で嫌そうにげっと漏らすまでに至った。そしてサスケは、十分自分のことだと理解しているようで、不機嫌そうに「何だ」と返す。

 「今ここで僕と、勝負しませんか」

 リーが提示したのは真っ向からの挑戦状。「今ここで、勝負だと?」とサスケが返せば、リーは階下に飛び降り、はい、と笑った。
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