二十六

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 「僕の名前はロック・リー!キミと戦いたい。うちはサスケくん!」

 リーの口から出てきた自分の名前に、サスケはぴくりと眉を動かした。しかし、"うちはの名を知っているのに挑んでくるとは"云々がサスケの口から出ようとした時、リーは「それに」と視線をサクラに移し、自分で作ったこの緊張感を壊していた。

 「サクラさん......ラブ」

 ポッと染まったその頬である。

 「いやぁあああ!!あの下マツゲがいやぁああ!!髪型もいや、まゆげもゲジゲジ、濃すぎるのよ何もかも!!」

 対するサクラはどこまでもリーをゆるせないようだったが。
 サスケは呆れ返ったような目でリーを見、トモエは例によって小さく笑い出し......ただ一人ナルトだけ、リーの奇行をまるで気にしちゃいなかった。

 「(またまたサスケじゃん!!くっそ、くっそ!!)」

 要するに常にマークされっぱなしのサスケに腹が立っていたのである。ナルトの目は火に燃え、サクラがリーのウインク攻撃をブリッジによって回避し、結果頭を打ったことなど見えていない。トモエがサクラの頭を撫でてやっている。
 一方で、サスケは不敵に笑った。

 「フン。はっきり言って、無知な輩だな、お前。この名がどんなもんか、思い知るか?ゲジマユ」
 「是非!」

 サスケの凄みのある目にも、リーは笑顔で返した。それほどリーにとってサスケは魅力的な相手だったのだ。
 しかしサスケだけでなく、リーの瞳に映る姿はもう一人あった。"雪箆家の生き残り"、雪箆トモエ。先ほどの廊下でトモエという名を小耳に挟んだリーは、師がいつか噂していたことを思い出したのである。
 とはいえ今の専らの関心はうちはサスケにあった。だがそれは、不意にナルトの「待て!」という声に止められる。

 「ゲジマユは、オレがやるってばよ」
 「......僕が戦いたいのはキミじゃない。うちはです」
 「どいつもこいつもサスケサスケって、うるせェってばよ!!」

 ついに走り出したナルトは、真っ向から試験本番だとでもいうように殴りにかかっていた。しかし、それはあっさり片手だけで薙ぎ払われたのだ。

 「(速い)」

 トモエがそう思う頃には、ナルトはリーの「木ノ葉烈風!」という叫びと共に一蹴り入れられ、勢いのまま壁に激突し、あっけなく気を失っていた。
 ほとんど一瞬の出来事である。いくら一年先輩だからといって、同じ下忍とはトモエには思えなかった。

 「宣言します。キミたちは僕に、絶対敵いません。何故なら今、僕は木ノ葉の下忍の中では、一番強いですからね」

 たった今蹴り転がしたナルトに目もくれず、リーは再び構えを作る。ハッタリではなさそうな自信満々な笑みがある。
 リーの実力は明らかに本物だった。挑戦状を突き付けられたサスケにとっては、これほど興味をそそるものはない。サスケとて、波の国から帰ってきてから、ずっと強者を求め続けていたのだから。

 「面白い。やってやる」
 「えっ!?や、やめて、サスケくん!受付の三時までにあと三十分もないのよ!」
 「五分で終わる」

 サクラの制止の声にもにべもない。どうやら今のサスケの頭には戦いを望む気持ちしかないらしい、と傍目で見ていたトモエは思い、笑みを深めた。

 「怪我しても手当てしませんよー」
 「しねぇよ、んなもん」

 サスケは早速走り出し、先ほどのナルトと同じように拳を繰り出した。それを避けられる光景もデジャヴだが、 さすがに二の舞にはならない。「木ノ葉旋風!」とリーより繰り出された蹴りは避ける───しかし。流れるようなリーの次の攻撃。それを防御したはずだというのに、サスケはモロに喰らっていたのだ。

 「サスケくん!」というサクラの叫び声と、トモエの息を飲む音を聴きながら、サスケは素早く身を起こした。

 「(ガードをすり抜けやがった!?忍術、それとも幻術か!?)」

 対するリーはまた構えをとっている。息切れ一つしていない相手に、サスケのプライドが数センチ削り取られたが、まだサスケには奥の手があった。次の瞬間には、サクラとトモエは二人して瞠目していた。

 「写輪眼......!」

 サスケの目に赤と黒の紋様が宿っていたのである。
 歓喜の声をあげているサクラの隣で、トモエは数週間前の記憶を遡った。白との戦いのさなか、サスケはうちはの瞳力を開眼していたのだ。

 その瞳は多少不完全とはいえ、写輪眼の力を持っていることに変わりはない。これならリーの術を見破って勝つこともできるかもしれない───


 ───しかし、その希望は数秒後に完璧に裏切られていた。目にも見えないリーの早技は、サスケの顎をしっかり捉えていたのだ。

 「え......!?」

 サクラとトモエは呆然として呟いた。逆転の様子など、カケラもなかった。その理由は単純明快。写輪眼が破られたのではない、単純にサスケの体が反応しきれるスピードではなかったのだ。

 飛ばされているサスケが影舞葉をしているリーにそこまで聞かされた時、リーは自分の両手に巻いている包帯をほどいた。

 「知っていますか。強いヤツには天才型と努力型がいます。キミの写輪眼がうちはの血を引く天才型なら、僕はただひたすらに体術だけを極めた努力型......言ってみれば、キミの写輪眼と僕の究極の体術は、最悪の相性!」

 ぞくりとトモエの背筋に何かが這った。まるで、リーがこれから繰り出そうとしている技が、危険だと言わんばかりに。そう気付いてからのトモエの行動は早く、サクラが声をかける間もなく、トモエはサスケとリーの下へと走って行く。

 しかし、幸運にもサスケがその技を受けなかったのは、突然飛んできた風車が、リーの攻撃の要であった包帯を捕らえたからだった。

 「そこまでだ、リー!」
 「!! あ、あなたは!」

 それはサイズが大きいだけの亀に過ぎなかったのだが、その姿を見たリーは途端に萎縮し、亀の前へと着地していた。

 「亀さんのおかげで助かりましたね.....大丈夫ですか?」
 「......」

 トモエが声をかけるもサスケは動揺してばかりのようで、答えることもできない。
心配して駆け寄ってきたのはサクラだけでなく、いつの間にか起きてきたナルトも同様であった。しかし二人とも、目が思わず異様な光景に囚われてしまうのは致し方ない。

 「見てらしたんですか......す、すみません、つい」

 その途端、亀の視線が鋭く光り、リーはまたも怯えた。ように見える。まるで教師と生徒のようだと思ってしまったナルトの感想も頷けるというものだが、実際 それは不正解だった。

 「忍が己の技を明かすということはどういうことか、お前もよく知っているはずじゃ!」
 「オ、押忍......!」
 「ならば覚悟はできたであろうな?」
 「オッス......」
 「では、ガイ先生、お願いします!」

 そんな一匹と一人のやりとりの後に出てきた人物が、正しく正真正銘のリーの担当上忍だったからである。

 「全くぅ、青春してるなーーお前らァーっ!!!」

 「わぁー......」
 「うっげぇええええ!!もっと濃ゆいのが出てきたってばよーー!!!」

 そのガイというらしい暑苦しい男を見た途端、トモエにしては珍しく120%の落胆を込めたぼやきを漏らし、ナルトは迷うことなく自分の思いを口にした。
 
 全身緑タイツのリーをそのまま成長させ、更に脂っこさが加わったような男だった。「激オカッパ......」「激マユ......」云々と第七班が口々に感想を呟いていれば、怒ったのは本人ではなく、その弟子だった。

 「コラァー!キミたち、ガイ先生を馬鹿にするなァー!」
 「うっせェってばよぉ!!こちとら変なのばっか出てくっから、リアクションに困ってんだってーの!!」
 「何をー!?」

 二人の喧嘩はわけのわからない方向へ突入しようとしたが、それを食い止めたのは濃い顔して意外と冷静なガイだった。
 しかしこの男は何を思ったのか、突然「このバカヤロー!!」などと奇声をあげ、容赦のない一撃をリーにお見舞いしたのである。七班は既についていけない。

 「お前ってヤツは......お前ってヤツは......!」
 「せ、先生っ。先生、僕は、僕は!」
 「もういいリー!何も言うなぁ!」
 「せんせー!」

 この二人の抱擁を見ていれば、極寒の土地だろうと暑く感じるだろう。緑タイツの師弟はひたすら第七班を無視して好き勝手し、ようやくガイがリー以外に意識を向けたのは、既に受け付け時間まで数分をきったところだった。

 「キミたちは確か、カカシの教え子たちかな?」
 「......カカシを知ってんのか」

 やっと出てきたまともな話にサスケが応える。ガイは片手を顎にあて、「知ってるも何も」と言いつつ不敵な笑みを零した後、第七班の視界から刹那にして消えていた。それに七班が反応する間もなく、四人の後ろに立っていたのである。

 「人は僕らのことを"永遠のライバル"と呼ぶよ」
 「!?」
 「ちなみに戦績は50勝49敗......カカシより強いよ、オレは」

 その内容はと言えばほぼくだらないものだったりするが。四人が振り返れば、ガイは余裕顔でまたその白い歯をキランと光らせていた。

 「今回はリーが迷惑をかけたが、オレの顔に免じて許してくれ。この爽やかフェイスに免じてな」
 
 どこがだというツッコミも今ばかりは出てこない。それほど四人とも動揺していたのである。

 「リーもキミたちも、そろそろ教室に行ったほうがいいな」
 
 先ほどの青春シーンでは考えられないが、最低限の冷静な判断力はできるらしい。第七班全員に様々な衝撃をもたらしたガイは、それから「じゃあ頑張れよ、リー!」とだけ言い残してから、呆気なく消えていた。ついでに亀も。
ハイ!と返事したリーは、包帯を巻き直しつつ、サスケへと視線を流した。

 「最後に一言、言っておきます。実のところ、僕は自分の能力を確かめるためにここに出てきました」

 リーの両手に残る痛々しいまでの傷が包帯に隠されていく。

 「さっき僕は嘘を言いました。恐らく、木ノ葉の下忍で最も強い男は、僕のチーム内にいる。そいつを倒すために僕は出場するんです。サスケくん、キミのことも......そして、トモエさん」
 「......私?」
 「雪箆家について詳しいことを知ってるわけではありませんが、僕はあなたにも興味がある。トモエさん、あなたもターゲットの一人です」

 リーの熱っぽい視線に当てられ、トモエは一瞬固まった。だがいつしか強い視線でリーを見返し、了承したというように頷いた。するとリーは口元を上げ、「試験、覚悟しておいて下さい!」と宣言した後、師匠同じくあっさりとその場から姿を消した。ガイほどではないが、やはりリーも速いというのが十分にわかる。

 先ほどリーに敗北したも同然の結果に終わらされたサスケは歯を食いしばった。そこに口を出したのは、やはりナルトだった。

 「ふん、なんだよ。うちは一族も大したことねーんじゃねーの?」
 「ナルト!」
 
 すぐさまサクラがナルトを咎めたが、サクラはとんとん、と自身の肩にのる重みに気がついて振り返った。トモエは笑みを浮かべながら、まあまあ、と言っているようだった。トモエの性格を考えれば、その行動はサクラにとって奇怪なもので、サクラは訝し気にする。

 「うるせェ......次はあいつを伸してやる」
 「ボロ負けしたくせによ」

 相変わらず癪に触る言い方をするナルトをサスケは強く睨みつける。ナルトはその顔を一瞥したあと、リーを思い返した。リーの両手。あんな傷の上に更に傷をつけたような手は、努力に努力を重ねた結果だ。

 「お前も見ただろ、アイツの手......あのゲジマユは、すっげぇ特訓したんだろ。毎日毎日、お前よりも」

 ナルトの的を得ている言葉。サスケには反論する言葉がなかった。

 「そんだけの、ことだってばよ」
 「......でも、貴方が努力家だってことは、私たちが知っていますよ」

 今度はトモエが言葉にした。その声はどこまでも滑らかで、サスケはふとトモエの顔を見た。ふわりとしたトモエ独特の笑顔がそこにある。柔らかな雰囲気が辺りを包み込む。

 「波の国で、みんなで、一緒に修行したでしょう?二人はボロボロになるまでやっていましたよね」

 おかしそうにトモエが笑えば、ナルトが「......そんなことあったっけかなあ?」とトボケようとする。雰囲気の変化に気付いたサクラも、「一人でまともに歩けもしてなかったくせに、よく言うわよね」と挑発的にウィンクした。

 そう、共に強くなった四人。まだまだ伸びしろが残されている四人。今回はこういう結果に終わった、だが、今が終わりではないことは、誰もがもう知ったこと。

 「一緒に行きましょう」

 サスケの前には、共に強くなった仲間がいる。

 サスケは、ふいに口元に弧を描いた。「おもしれェ......」と言ったその声に、言葉に、一切の動揺は消え去っていた。

 「面白くなってきたじゃねェか。中忍試験、この先がよ」

 強い意志がサスケの瞳に再び宿る。ナルトはニッと笑み、「オォ!」と珍しく意見を合致させた。サクラとトモエは笑いあい、同じ強さの一歩を踏み出す。もう、誰にも迷いはない。ただ高みを目指して、共に、試験に臨めばいいだけだ。
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