第七班が目的の301号室に着くと、そこにはカカシが待っていた。
「そうか、サクラも来たか。中忍試験、これで正式に申し込みができるな」
その言葉に怪訝な顔をしたのは全員だ。
「正式?どういうことですか?」
「実のところ、この試験は三人一組、ウチは四人一組の、フォーマンセルでしか受験できないことになっていた」
「でも先生、受験するかしないかは個人の自由だって......じゃあ、嘘ついてたの?」
「もしそのことを言ったなら、トモエはともかくとしても、サスケやナルトが無理にでもサクラ、お前を誘うだろ?例え志願する意思がなくても、サスケに言われればお前はいい加減な気持ちで試験を受けようとする」
「サスケと......ま!トモエとナルトのためにってな」と言うカカシの言葉に、サクラは確かに頷けた。
カカシは続けた。万が一にでも誰か一人が欠けていたら、試験会場に行かせる気はなかったと。しかし、今この場に揃っているのは確かに第七班全員。全員がこの場に、自身の強い意志によってここにいる。カカシの微笑みは実に穏やかなものだった。
「サクラ、トモエ。ナルト、そしてサスケ......よく来たな。お前達は、オレの自慢のチームだ。さぁ、行ってこい!」
対して、カカシの顔を真っ直ぐ見つめる四人も口元を上げ、カカシの言葉と共に足を踏み出した。試験会場へと繋がる扉は少し重い。しかしこの重さが試験の重さなのだと全員が思う。この重さを、手に入れてやるのだと。
「......トモエ」
最後にカカシに呼ばれ、トモエはその場で振り向いた。カカシが言いたいことは一つだけ。
"気をつけろ"。そのカカシの表情は真剣だったが、対するトモエはいつもの如く、微笑むだけだった。
***
扉を抜けた四人の目に入ったのは、只ただ人だった。
ナルトとサクラは単純な驚きの声を漏らし、トモエは息をのみ、サスケは周りからの刺すような視線に睨み返す。サスケが感じた通り、七班が他の下忍達を見ているように、他の下忍達も七班を見ていたのである。それはただ見るというだけの行為に留まらず、殺気すら籠っているように思える。これから戦うであろう者たちのことを考えると殺気立つのしかないのだろうか。
穏やかなムードは付け入る隙もないな......とトモエは何気なく思った。とはいえ、その感想は五秒後には覆されることになるのだが。
始まりは、第七班の同期である山中いのによる突撃だった。
「サスケくんっおっそーい!!」
サクラ同じくサスケに夢中であるいのは、他の三人など目に入らず、サスケに抱きついたのである。
「私ったら久々にサスケ君に逢えると思ってぇー、ワクワクしてたんだからー!」
「サスケ君から離れーっ!いのぶた!!」
「あーらサクラじゃない。相変わらずのデコりぐあいね、ブサイクー」
「なんですってェェェ!!!」
まるでアカデミーと変わっていないのか、いのとサクラの口論が始まる。それに挟まれるサスケも良い迷惑だろう。「助けろ」とばかりにトモエを睨むサスケだが、「面白そうだから」ということでトモエはあえて気付かないフリをした。
「ったくいののヤツ......」
「久しぶり、トモエ。元気だった?」
「変わりないですよ。チョウジくんは相変わらずよく食べますねぇ」
「トモエ…お前もこのクソめんどくせー試験受けんのか?」
「そうみたいですね、でもシカマルくんが受けるとは意外でした」
「はぁ、ほんとめんどくせーよ」
バリバリと自前のお菓子を頬張る秋道チョウジは、トモエに挨拶を返しながら、何故かシカマルをちらちら見やっている。それからさらに、これまた同期のチームがやってきた。
犬塚キバと赤丸、日向ヒナタ、油女シノの三人と一匹である。
「ひゃっほう、見っけぇ!これはこれは、皆さんお揃いで!!」
「こ、こんにちは」
その三人の姿を認め、一番面倒くさそうにしたのはシカマルだ。口癖も変わらず「めんどくせー」で溜め息をつく。
「七班だけじゃなしに、お前らもかよ」
「ふ〜ん、なるほどねぇ。今年の新人下忍十名全員受験ってわけか」
キバの自信ありげな視線がサスケへと流れる。
「さて。どこまでいけますかねぇ、オレたち。ねェ、サスケくん?」
「フン。えらく余裕だな、キバ」
「オレたちゃ相当修行したからな、お前らにゃ負けねーぜ」
「うっせーってばよ!!サスケならともかく、オレがお前らなんかに負けるか!!」
試験が始まる前から喧嘩腰の三人、キバにサスケにナルト。この関係はアカデミーの頃から何も変わっていないらしい。
この場にいる全員が全員、ここがどういった場だったかというのも忘れ、自分たちで騒ぎあっていた。
そんな時だった。
「おい、キミたち!もう少し静かにしたほうがいいな」
堂々とこの三班の輪に入ってきたのは、銀髪に丸眼鏡の青年。全員の視線が彼に集中し、対して彼のほうも全員の顔を眺める。
「キミたちがルーキーナイン......いや、今年はテンか。アカデミー出たてホヤホヤの、新人十人だろ?可愛い顔してキャッキャと騒いで。全く、ここは遠足じゃないんだよ」
「誰よアンター、偉そうに!」
挑発的な青年の言い方にいのが反抗する。青年はさらっと「僕は薬師カブト」と名乗ってから、「それより、周り見てみな」と青年改めカブトは他の忍のほうへ目をやった。
そこには、七班が入ってきた時よりも明らかに数段苛々が増していると思われる集団。ナルトやキバでさえも息を飲む。
「アイツらは雨隠れの奴らだ。気が短い。試験前で皆ピリピリしてる......どつかれる前に、注意しておこうと思ってね」
そう言うカブトの額にあるマークは木ノ葉のものだった。仲間意識から注意してくれたのだろうか、とトモエは素直に礼を言う。すると、何故かカブトは数秒トモエの顔を捉えて意味ありげな視線を送り、それからにっこりと温和そうな笑みを浮かべた。
「いいや、礼には及ばないよ。右も左も分からない新人さん達だしね。昔の自分を思い出すよ」
「カブトさん、でしたっけ?じゃあ、あなたは二回目なの?」
「いや?七回目。この試験は年に二回しか行われないから、もう四年目だ」
「へー。じゃあ、この試験について色々知ってるんだ!」
サクラに続いてナルトは「はー、カブトさんってばすごいんだな!」と心より素直な感想を零すが、捉え方によれば皮肉にもなりえる。だがあえて都合の良い方向に捉えたカブトは、得意げに笑い、「じゃ、可愛い後輩達にちょっとだけ情報をあげようかな」などと言って数枚のカードを取り出した。"忍識カード"というらしいその札は実に二百枚にも及んでいる。
「この試験用に、四年もかけて情報収集をやったんだ。このカード、見た目は真っ白だけど......」
説明を続けるカブト。だがトモエは彼の説明を小耳に挟みながらも一人、疑念を持つ。
四年もかけて情報を集めたということは、初めて試験を受けた時からということになる。それではまるで初めから受かる気がないかのようだ。一体どんな理由で、とトモエは首を傾げるが、カブトの説明を遮ることまではできない。
カブトは自身のチャクラを練り、一枚のカードの情報を晒してみせた。これは今回の試験の総受験者数と総参加数らしい。四年もかけて情報収集したかいあってか確かにかなり細かい。
サスケはそれを認めた後、鋭い瞳でカブトを見た。
「そのカードに個人情報が詳しく入ってるヤツ、あるのか?」
カブトはその質問に肯定を示し、親切にもサスケの目的であるロック・リーと我愛羅の情報を提示した。それからカブトはその二人の情報を読み上げる。二人の情報は個人のものというだけに決して多いものではなかったが、サスケの興味を引くのには十分だった。
「木ノ葉、砂、雨、草、滝、音。今年もそれぞれの隠れ里の優秀な下忍がたくさん受験に来ている。まあ、音隠れの里に至っては近年 誕生したばかりの小国の里なので情報はあまりないけど、いずれにしても、凄腕ばかりの隠れ里だ」
「つまり......ここに集まった受験者はみんな」
「そう!リーや我愛羅のような、各国から選りすぐられた下忍のトップエリート達だ。そんなに甘いもんじゃないよ?」
「(......我愛羅くん)」
たった今情報を提示された、この集団のどこかにいるだろうその人物に、トモエは思いを馳せる。つい先日に会った我愛羅を思い出す。初めは我愛羅は気付いていないのかとさえ思ったが、視線を交わした時のあの反応は違う。そして次に、随分昔の記憶の中の我愛羅がトモエの脳裏に浮かんだ。
一瞬、彼女の微笑みが消えた。それに気付いたサスケが、「どうかしたのか」と声をかけてきたことによってトモエは思考をやめ、「なんでもありません」と返した。サスケは怪訝そうな顔をしていたが、一応は納得したようだった。
その時、ちょうど二人の視界に入ったのはナルトとサクラだった。サクラがなんとかと言ってナルトを励まそうとしているが、しかし。
「おらァアアアア!!」
その大声の主は言うまでもなくナルト。
「オレの名ははうずまきナルトだァ!!てめーらにゃあ負けねェぞ!!分かったかァー!!!」
ナルトの顔には一切の躊躇はなく、その指先は殺気立ってる集団へと向いていた。一層 集団の視線が鋭くなった気がするが、当の本人は全く気にしていないらしい。
「あはは......ナルトくんは大物ですねぇ」
「......どこがだよ」
トモエは微笑んで独り言を呟くが、それにサスケがどことなく刺々しく返す。
そうして新参者たちはカブトの注意も忘れてまた好き勝手騒ぎだすのだが、それが気に入らない者達が集団の中に潜んでいた。以前 第七班を偵察していた三人組だ。その額に光るのは───音符のマーク。
「聞いたか?音隠れは小国のマイナーな隠れ里だとよ」
「心外だね」
「アイツら、ちょっと遊んでやるか」
***
音忍四人衆の狙いはたった一人、先ほど音隠れを小国だとか言ったカブトだった。
カブトも前々から気付いていたようで、飛んできたクナイに後方へと下がった。下忍たちにどよめきが走る。音忍の猛襲はそれでは終わらず、 前に出てきたドスが腕を振りかぶる。
それはカブトには当たらなかったが、しかし、避けたはずだというのに眼鏡は割れた上にカブトは嘔吐していた。
「あ!吐いたァ!?」
「カ…カブトさん大丈夫!?」
慌てて彼に駆け寄るナルトとサクラ。そんな彼らの前に、四人の音隠れの下忍が現れた。
「なーんだ…大したことないんだぁ、四年も受験してるベテランのくせに…」
「アンタのカードに書いときな。音隠れ四名、中忍確実ってな」
と、その時…
「静かにしやがれ!どさくれヤローどもが!!」
突如、試験会場の前に大きな白い煙が立ち込めた。辺りが驚いた声をあげる中、その煙から現れたのは大勢の上忍たち。その彼らの前に堂々と立っているのは体躯の一際大きい男。
「待たせたな。中忍選抜第一の試験、試験官の森乃イビキだ」
イビキと名乗った男は手短かに自己紹介した後、その凄みのある視線をこの部屋の出入り口付近に向ける。
「音隠れのお前ら!!試験前に好き勝手やってんじゃねェぞコラ!いきなり失格にされてェか!!
良い機会だ、言っておく。試験官の許可なく対戦や争いはあり得ない。また許可が出たとしても、相手を死に至らしめるような行為は許されん......分かったな」
イビキの迫力ある言葉に悪態をつく者は少ない。それほど薄気味悪い笑みを零している上忍たちの威圧感があったのである。
「ではこれから中忍選抜第一の試験を始める。志願書を提出して、代わりにこの番号札を受け取ってその番号通りの席につけ。お前らが全員席についたその後に、筆記試験の用紙を配る!!」
「ペッ…ペーパーテストォォォォ!!!?」
ナルトの悲惨な声が、響き渡った。
「ではこれから、中忍選抜第一の試験を始める…
志願書を順に提出して、代わりにこの座席番号の札を受け取り、その指定通りの席に着け!
その後、筆記試験の用紙を配る…」
「ペッ…ペーパーテストォォォォ!!!?」
ナルトの悲惨な声が、響き渡った。
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