十二

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 「オレと戦え」

 サスケとトモエの二人の瞳に映ったのは、赤地に黒の三つ巴が描かれたカカシの左目だった。二人の視線を感じているだろうに、その目は再不斬を真っ直ぐ見据えて逃さない。普段のカカシからは想像もつかない鋭さ。

 何故。
 サスケとトモエの心の中に渦巻く疑問。"あれ"をカカシが持っているはずがないのだと。

 「ほぉ。噂に聞く写輪眼を早速見れるとは、光栄だな」
 「さっきからシャリンガンシャリンガンって、なんだよそれ!!」

 ナルトが空気も読まず叫ぶ。何も言わずともサクラも怪訝そうにしている。暫く何も言えずに動揺していたが、「......写輪眼」と呟いたのはサスケ。

 「いわゆる瞳術の使い手は、全ての幻・体・忍術を瞬時に見通し、跳ね返してしまう眼力をもつという。写輪眼とは、その瞳術使いが特有に備えもつ瞳の種類の一つ。......だが、写輪眼の持つ能力はそれだけじゃない」

 サスケにもトモエにも未だ信じられない気持ちがあったが、カカシの目に宿るそれは紛れも無く"写輪眼"だった。誰もが恐れる能力をもつ。その事を知っているのだろう再不斬は、「御名答」と笑う。

 「写輪眼の能力はそれだけじゃない。それ以上に怖いのは......その目で相手の技を見極め、コピーしてしまうことだ」

 次第に霧がどこからか現れ始める。
 「霧が、どんどん深く」とサクラが無意識に呟く。辺り一面は既に白で覆われ、再不斬の姿はぎりぎり確認できる程度にまでなっている。再不斬の仕業か。

 「オレ様が霧隠れの暗殺部隊にいた頃、携帯していたビンゴブックにお前の情報が載ってたぜ。......それにはこうも記されていた。"千以上の術をコピーした男。コピー忍者のカカシ"」

 下忍達の目が驚き見開かれるのも知らず、カカシと再不斬は互いに睨み合った。

 「(なんなの、カカシ先生ってそんなに凄い忍者だったの!?)」

 サクラは心中で戸惑い、ナルトは「スゲーってばよ!」と感嘆する。
 一方で、トモエはこくりと息を飲んだ。もちろんカカシの異名にも驚きだが、やはりサスケと同じく一番の関心は、"写輪眼"に向けられていた。何故なら、写輪眼はサスケの一族である、"うちは"特有の瞳であるから。その血筋でもないカカシが持っている理由がどうしても思い浮かばないから。サスケの中でも何度も自問自答が繰り返されるが、どうしても答が思い浮かぶことはない。

 それよりも、再不斬の低い唸るような声が聴こえ、下忍達はぱっと視線をあげた。

 「さてと。お話はこれぐらいにしとこうぜ。オレはそこのじじいをさっさと殺んなくちゃならねェ」
 「!!」

 タズナの目が見開かれると同時に、ナルト、サクラ、トモエ、サスケはタズナを中心に卍の陣を組んだ。覚悟の上とはいえ緊張感が下忍の間に流れる。それぞれが強くクナイを握り、再不斬に意識を集中させた。
 対し、再不斬は下忍達を全く意識していない。

 「つってもカカシ......まずはお前を倒さなきゃならねェようだがな」

 次の瞬間、再不斬はふっと消えた。

 「!?」

 下忍四人は隠しきれない動揺と共に辺りを見渡す。カカシはじっとそこで感覚を研ぎすまし、ぱっと水上を見た。カカシの予感は的中し、そこには印を組み、左腕を上げている再不斬がいた。かなりのチャクラを練っている。

 「あそこだ!」
 「しかも水の上!?」

 後から気付いたナルトとサクラが叫ぶ。サスケは無言を徹し、トモエは「速い......」とぽつりと呟いた。
 全員の視線が集まる中、再不斬のまわりに更に深い霧が集まり始めている。そして、再不斬はすぅっと消えていた。

 「忍法 霧隠れの術」

 その術名の通り、まるで霧の中に馴染み込むように、再不斬の姿が隠れてしまったのである。カカシは背後の下忍達に説明するよう口を開いた。

 「まずはオレを消しにくるだろうが......桃地再不斬、コイツは霧隠れの暗部で、無音殺人術の達人として知られた男だ。気がついたらあの世でした、なんてことになりかねない......オレも写輪眼を全てうまく使いこなせるわけじゃない。お前達も気を抜くな」

 カカシの一言一言が重い。汗が滴り落ちる。心臓がこれ以上ないほど高鳴っている。背筋が、寒い。

 また一層霧が辺りを包んでいく。下忍達から見ても、そんなに距離はないはずのカカシの背が見えづらい。再不斬の気配も捉えられない今、それが余計不安を煽る。
 そして、不気味な声が全員の耳に届いた。

 "八ヶ所"

 「え!?な、なんなの!?」

 "咽頭・脊柱・肺・肝臓・頚静脈に鎖骨下動脈、腎臓・心臓。さて......どの急所がいい?"

 トモエの身が震える。
 どこにいるかも知れないというのに、再不斬の圧力が体中にのしかかっているようだ。ただならぬ殺気の、その全てが自分に向いているようで、真っ先に殺すと無言のうちに言われているようで、怖い。それを紛らわせるためにより一層強くクナイを握る。

 「(大丈夫、大丈夫、大丈夫......)」

 歯を食いしばり、自分に教え込もうとする。

 「(近い......)」

 一方で、カカシは細胞の一つ一つが再不斬の気配に反応を示していた。カカシにとってはこちらに下忍、一般人がいる以上、あまり長引かせたくない戦いだ。護りながらでは確実にこちらの体力が削られる。

 カカシはすっと印を組んでいた。そして、その行動と同時にカカシの殺気もまた流れ始める。再不斬のそれとも劣らぬそれに、下忍達はびくりと体を震わせた。

 上忍同士の殺気のぶつかり合い。身近で感じる初めての感覚に体は正直だ。お互いがお互いを蹴落としあい、殺そうとしている。この恐怖は並大抵のものではない。ほんの一瞬でも気を抜くと、あっという間に死んでしまう。

 特に、サスケとトモエは実力に伴ってか、余計にそれを感じ取っていた。

 いつもの冷静で動じないサスケは今はいない。今はただ、その実力の差に体がどうしようもないくらいに震えている。手に力すら入らず、今にもクナイを落としてしまいそうだ。
二つの殺意が同時に自分を襲ってくる。
 圧倒、なんて言葉ではとても言い表しきれない。手を伸ばしたところで絶対に届かない距離。圧されている。痛みはないというのに、痛みよりも"恐怖"。そのうち狂乱してしまいそうだ。
 震える手でトモエは自分の服を強く握った。

 その時、カカシの声が響いた。

 「サスケ、トモエ」

 急に呼ばれたことに二人は同時に顔を上げ、霧の向こうのカカシを見上げる。広い背中がそこにあった。

 「安心しろ。お前達はオレが死んでも守ってやる」

 それから二人に振り向いた。

 「オレの仲間は絶対、殺させやしなーいよ」

 カカシの表情は、この戦闘の場には似合わないくらいの、いつもの柔らかい微笑みだった。
 トモエとサスケの二人だけでなく、ナルトとサクラもその表情にほんの少し落ち着いた気持ちを取り戻す。

 恐怖が一瞬だけ、和らいだ。
 そう、一瞬だけ。

――前を見ろ!!

 「、え」

 突然トモエの脳に響いた声はいつもと違っていた。静かで凛とした声ではなく、珍しく慌てているそんな声。
 疑問に思うなか、言われた通り前を見てみた、その時だった。

 「終わりだ」

 そこには再不斬がいて。
 自身の背と同じ位の大剣を、自分に向かって振りかぶっていたところだった。
 タズナの背を守るトモエごと目的であるタズナを斬ろうとするその光景に、誰しも息をするのを忘れた。
 守りに入るのにももう遅く、せめてもの防衛本能でクナイを握ったまま腕で顔を覆い隠し目を閉じる。それからすぐに身体が宙に投げ出された感覚に陥った。

 「!?」

 そしてゴロゴロと身体が地面に転がされていった。
 うずくまりながら身体を起こせば、周りにいたナルトたちも自分と同じであったようで、地面に唖然と座り込んでいる。
 トモエは顔を上げ、自分たちを突き飛ばした人物の名を小さく呼んだ。

 「カカシ先生…っ」

 背後から急所である再不斬の腹をクナイで深く深く刺すカカシに、トモエたちは勝利を予感した。
 やっぱり先生は上忍だと認識されざるを得なかった。
 しかし、誰もが思わなかった事態が起こった。それはまるで水風船のようだった。
 刺さった再不斬の身体が水となって弾け飛んだのだ。

 「先生、後ろ!!」

 サクラの声でカカシが振り返るよりも早く、カカシの背後にいた再不斬は大剣を振りかぶりカカシの身体を真っ二つに斬り裂いた。
 思わず出かけた悲鳴を押し殺し、トモエは両手で口元を押さえ込む。
 しかしそれはカカシのフェイクだ。

 「動くな」
 「!!」
 「――…終わりだ」

 再不斬の斬り裂いたカカシは、写輪眼でコピーした水分身の術の分身であったのだ。
 霧の中で隠れていた本体であるカカシは今、再不斬の首筋にいつでも斬りつけられるようクナイを突きつけている。
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