十三

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 「ククッ、終わりだと?わかってねーな、サルマネごときじゃこのオレ様は倒せない、絶対にな」
 「……」
 「しかしやるじゃねーか。コピー忍者カカシと呼ばれるのにも頷ける。
 けどな…オレもそう甘かねーんだよ」
 「、何!?」

 バシャッと、クナイを突きつけていた再不斬が水へと変わり、消える。
 そしてそれはナルトがそれも水分身なのかと驚きの声を上げた時だった。
 カカシの背後へ移動していた再不斬の剣が振りかざされたのだ。
 身を屈め、かわしたカカシであったが、たたみかけるように繰り出された足にはかわすことが出来なく、腹を蹴られたカカシは湖へと飛ばされていく。

 「せんせー!!」

 ナルトのカカシを心配する叫び声が辺りに響く中、トモエ達はそれぞれ驚きを隠せずにいた。
 初めての戦いで、しかもいきなり上忍同士の戦いのこの場で唯一頼りのカカシがあんなに簡単にやられてしまったのだ。
 まるで雪のようにじわじわとトモエの心に不安が積もっていく。

 「、さ、すけ…?」

 ふと隣りにいたサスケの指がちょこんと手に触れると覆いかぶさるように包まれた。
 大きな手は温かくて。無意識にぎゅっと握りしめていた手はゆるりと解かれていくと、それと同時に不安も消えていく。
 サスケは特に気にした様子もなく、真っ直ぐ再不斬を瞳に捕えている。

 「……偉そうに額あてまでして忍者気取りか」

 ククッ、と湖に立った再不斬が言った。
 毎回恐怖を誘うあの笑いを浮かべた再不斬の片手の先に、ある大きな水の塊には何かが捕えられていた。

 「だがな、本当の"忍者"ってのはいくつもの死線を越えた者のことを言うんだよ」

 水中の中でもギラつく片目に光る赤い瞳。ゆらゆら揺れる白銀の髪。
 間違いない、あれはカカシ先生だ。
 再不斬がやったのだろうかと再不斬を見れば、素早く印を結び水分身を出しているところだった。

 「つまり、オレ様の手配帳にのる程度になって初めて忍者と呼べる…
 お前らみたいなのは忍者とは呼ばねェ、」

 再び出された霧隠れの術でまた視界が悪くなる。その瞬間ドカッと鈍い音と共に、黄色い頭が再不斬に蹴飛ばされていった。

 「ナルト!!」

 サクラがそれを目で追いながら叫ぶ。
 あっという間にトモエ達より後ろで尻をついていたナルトの頬は、土でうっすらと汚れていて服も汚れていた。
 そんなナルトにひとつの違和感。額に輝くべき物がない。

 「…ただのガキだ」

 静かな声で言った再不斬の足がジリリと踏みつけるそれは、トモエが探していたその物だった。
 ナルトの額あてがどんどん再不斬の足で汚れていく。それを見て自分の物ではないのに何故だか悔しくて。
 力のこもった手に気付いたサスケが見ていたのをトモエが知ることはない。

 そこへ圧倒的な再不斬の強さを前に戸惑うトモエたちに、捕まっていたカカシが声をあげた。
 下忍である者が上忍に勝てるはずがない、タズナを連れて逃げろ、と。
 大事な教え子を目の前で殺されるところなんて見たくはないのだ。
 そんなカカシの思いに素直に反応したのは、意外にも再不斬の強さを思い知らされたナルトだった。

 勢いよく立ち上がり逃げようとした、その時。ズキリと響いた左手の傷が立ち上がろうとしたナルトを引き止めたのだ。
 それから脳に蘇る遠くない記憶。

 
――よぉ、けがはねーかよ、ビビリ君


 嫌なほどクリアにナルトの脳に残っていた。そして自分で決めた、この左手に誓った思い。

 ――そうだ、オレってばもう逃げねェって決めただろ…!!

 「うおおおお!!」

 地面に尻をついていたナルトが全速力で再不斬へと向かっていく。
 丸腰でカカシを捕まえた再不斬になんか刃向かうわけがないとサクラが声を上げる。
 しかしトモエは見たのだ、顔つきががらりと変わったナルトの横顔を。

 「……バカが」

 再不斬は向かってくるナルトへ小さく鼻で笑うと、容易くナルトを弾き蹴飛ばした。
 再び地面に転がってくるナルト。
 そんなナルトの行動が無駄だと思ったのか、サクラがキッとナルトを見た。

 「一人で突っ込んで何考えてんのよ!
 いくらいきがったって下忍の私たちに勝ち目なんかあるわけ……っ」

 言いかけて気付いたナルトの手に握られた物。サクラはそれを目にして声を上げて驚いていた。
 ナルトの行動は無意味なものではなかったのだ。全ては再不斬のもとから自分の誇り高き宝物を取り返すため。
 サスケとトモエはいつも通りあまり表情は変わっていなかったが、少しは驚きを胸にしたはずだ。

 「おいそこのマユ無し……お前の手配書に新しくのせとけ!
 いずれ木ノ葉隠れの火影になる男、」

 力強く結ばれた額あてが誇らしく輝く。

 「木ノ葉流忍者、うずまきナルトってな!!」

 顔を上げたナルトの表情は額で光る額あてよりも輝いてみえた。

 ***

 「さーて、暴れるぜェ……」

 それからサスケに作戦があると告げたナルトは、口元を腕でこするように拭った。
 もう逃げ腰のナルトはどこにもいない。

 「お前ら何やってる…逃げろって言っただろ! オレが捕まった時点でもう白黒ついてる。
 オレ達の任務はタズナさんを守ることだ、それを忘れたのか!!」

 言うことを聞かない教え子達に堪忍袋が切れたのか、初めてカカシが怒りをあらわにした。
 逃げるか。闘うか。決め手となるタズナに振り返ったのはきっと第七班全員同時だっただろう。
 少し考える素振りを見せたタズナの答えは少年ふたりを笑顔にさせるものだった。
 元はといえば自分がまいたタネ、思う存分闘ってくれ、と。

 しかしそこで素直に攻撃をさせてくれる相手ではない。
 妖しい笑みをした再不斬が突然切り出したそれは、トモエ達の年齢の頃には手を紅く染めている、ということだった。

 「鬼人、再不斬!」

 身動きが出来ないと歯がゆい思いで、隣りにいる本体の再不斬を睨み付けたカカシは吐き捨てるように言った。
 そして続けた言葉はトモエたちを恐怖に陥るのには充分だった。

 その昔、霧隠れの里には忍者になる為の最大の難関である卒業試験があった。
 問題を解くようなものではなく、忍術を披露するようなものでもない。

 「生徒同士の"殺し合い"だ」

 しかしそれは10年前現れた悪鬼により変革をせずにいられなくなった。
 理由は簡単。まだ忍者の資格を持ってもいない幼い少年が100人を超える受験者を喰らい尽くしたからだった。
 そしてそれには一切の戸惑いを見せなかったという。

 「楽しかったなぁ…アレは…」

 噛み締めるように言った再不斬。その瞬間。本当に一瞬だった。
 手を握ってくれていたサスケの手がするりとごく自然に、でも何か心に残るように離れた瞬間、隣りにいた温もりが、まるで風が吹き抜けたように消えたのだ。

 「サスケくん!!」
 「……っサスケ?」

 サクラの息の詰まった声の先には、分身の再不斬に蹴られ踏み潰されていたさっきまで隣りに並んで手を握ってくれたサスケ。
 真っ白で空っぽだった頭に長く時間をかけて、やっと色が入ってくる。拒絶、空虚、恐れ。

 「死ね」

 冷たく言い放った再不斬の手が、自身の背に担いでいた大剣を握り、足下で痛みに堪えるサスケに振りかぶろうとした。
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