十四

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 その時にはもう何が起きたか、何を起こしたのか、その場にいた者達、ましてやトモエさえ分からないけれど、
 ――ただただ、もう目の前が闇に囚われることは嫌だった。

 「や、めろ……!!」

 ぽたり、トモエの瞳から一粒の涙が零れ落ちていく。
 地面に吸い込まれるその時、不意に吹き出した突風に涙は攫われた。
 トモエを取り巻くように吹き荒れる風は、辺りを包む霧をも吹き飛ばすほどの威力であり、突然の状況の変化に再不斬の大剣を振りかぶる手が驚きに止まった。

 「……ほぉう、カカシ、なかなか面白いモン連れてんじゃねえか……」

 トモエの周囲を吹き荒れる鋭い突風は、まるで一瞬の隙をも逃がさないとばかりに再不斬に襲い掛かっていく。
 このままではいけないと考えを出した再不斬はサスケから足をのけ後退しながら、
 大剣で自分の身を守ると重く素早い風を受け流していく。

 自由になったサスケは、吹き荒れる風の中心にいる名を小さくその唇にのせると、かき消すように舌打ちを零す。
 それからナルトに呼ばれるがままに振り返れば、大きな手裏剣を渡された。
 受け取った一瞬、何かを感づいたサスケは水分身の再不斬がトモエの風に苦戦しているのを良いことに、手裏剣を投げる構えを起こす。

 「風魔手裏剣・影風車!!」

 空を切り裂きながら向かう先は、カカシを捕える本体である再不斬だった。
 しかしそれは容易く再不斬に受け止められてしまう。
 が、その手裏剣の影に隠れていたもう1枚の手裏剣が再び再不斬を襲う。

 「が、やはり甘い」

 そう呟いた再不斬は容易にその手裏剣を避けてしまう。
 しかしそれで良かったのだ、少年ふたりの狙いはコレだったのだから。
 再不斬の背後に回った手裏剣がボンッと煙を纏いながら現れたのは、手裏剣に変化をしていたナルト本人だったのだ。

 そのままナルトはクナイを再不斬一直線に投げる。
 これを避ければカカシを閉じ込めていた水牢の術が解いてしまう。
 ギリギリまで引き付け考えた末、再不斬は水牢の術を解き、そのクナイを避けることを選んだ。
 しかしギリギリだった故に頬に一筋の赤い傷を付けられた再不斬はガキに傷つけられたと怒りが増し、ナルトへ手にしていた手裏剣を投げつけようと構えた。
 が、それは漸く自由になったカカシに阻止された。散々好き勝手してくれたと、怒りが積もりに積もっているカカシの殺気は再不斬をも上回るものだった。

 その時、大型の剣をタズナとその近くにいるサクラに振り上げる人物が1人。
 そう、再不斬の水分身である。

 「ッ…!!」

 どうにかしよう、と頭では思うのだが、恐怖が身体を支配しそれが出来ない。
 それはサクラだけでなくタズナも同様で、その場から動けない。
 流石に誰もが予想外だったらしく、サスケやナルト、それにカカシでさえも反応が遅れた。

 「終わりだ!小娘も巻き添えでなァ!!!」

 高笑いをした再不斬の水分身が、その手に持つ刃を振り下ろす。
 来るであろう痛みに耐えるよう、サクラはきつく目を瞑った。

 ―――ガキィィィッ!

 しかし、痛みは来ない。痛みの代わりに聞こえたのは、金属がぶつかり合う音。
 目を開けたサクラの視界には、信じられないものが映っていた。

 「サッ、クラさん…!離れて!!」

 たった一本のクナイで再不斬の持つ大型の刃を受け止めるトモエが、そこにいた。
 咄嗟にサクラの前に出たのだろう、体勢が崩れている。
 しかも、相手は大の大人。力の差は歴然としていて、既にトモエの肩は受け止めきれていない刃が、深く食い込んでいた。

 「トモエ!!?どうして、」
 「ッく…!」

 苦痛に顔を歪ませながら、トモエはその体勢のままもう一本のクナイを取り出し、再不斬の足元に投げる。
 それを避けるため、一旦再不斬がトモエから離れる。
 その隙にトモエは体勢を立て直し、クナイを握り直す。

 肩の痛みを堪えながら、トモエは射抜くように再不斬を見つめる。
 そしてそのままクナイを構え、一気に再不斬との距離を詰めた。

 「そんなに死にてェなら…殺してやらァ!!」

 再不斬も再び刃をトモエに向け、不敵に笑う。
 トモエは距離を縮めながら、あっという間に印を結ぶ。

 (水遁・水乱波の術)

 印を結び終わると同時に、トモエから一直線に再不斬へ水が押し出される。
 一刻も早くこちらに来たいカカシやナルト、サスケだが距離がそれなりに遠い。
 カカシに至っては再不斬の本体が邪魔をし、様子を見るのがやっとだ。
 トモエが放った水を、再不斬は右に逸れてかわす。それを見て、トモエは僅かに口端を上げた。

 (風遁・空砲弾の術)

 素早く印を結び、トモエは次の術を発動させる。
 しかし再不斬は自身に迫ってくる風の弾丸を、再び右に逸れてかわした。
 それを見た途端、トモエが一気に再不斬に近付いた。
 そして、そのままクナイを力一杯振り下ろす。

 「!」

 目を見開く再不斬。
 が、彼は敏速に反応し、大型の刃でそれを受け裁いた。
 そしてまた、彼女が片手で印を結んでいたのにようやく気付く。
 そう、気付くのが遅かった。

 「なッ…、」

 最初にやった“水乱波の術”と、次に放った“豪火球の術”の二つは、トモエが術を使うことで、次に繰り出すのは忍術だと錯覚させるために使ったもの。
 しかし再不斬の予想と違い、トモエが繰り出したのは忍術でなく、
彼女の手に握られているものは――白い刃。

 それを持ったトモエが直接再不斬に斬りかかるというものだった。
 バシャリ、と再不斬の身体が水に変わり、その場に滴る。
 その横にトモエも不時着し、そのまま座り込んだ。

 「ッはぁ…はぁ……」
 「トモエ!!」
 「トモエちゃん!!」

 そこに駆け寄ってくる、サスケとサクラ、そしてナルト。
 サクラがトモエの肩に手を置いて顔色を窺う。
 元々白い肌をしているトモエだが、今はもっと白くて青白い。

 「しっかりしてトモエ!」

 サクラの心配する声が聞こえてきたが、それに応答できずトモエの意識は途絶えた。
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