二十

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 「クク…ククク……」

 再不斬はくつくつと喉を鳴らすと、体勢を立て直した白に目を向ける。
 白はそれを見ると、立ち上がって印を結んだ。
 彼の表情はわからない。仮面の口元は三日月を描いており、それがまた不気味であった。

 「残念です…」
 
 その途端、サスケとトモエの周りに冷気が立ち込める。
 嫌な予感しかしない。トモエが思わず後ずさった、その直後…

 秘術・魔鏡氷晶!!

 サスケとトモエの周りに氷のような鏡がいくつも現れた。
 それらは二人を覆うように広がって行き、やがてドームのように変化する。
 見たことがない術に、カカシまでもが目を目を見開く中、白は鏡の中に入っていく。
 一方中では、無数の鏡に白の姿がいくつも映っていた。

 「!」
 「これ、は…」

 身体を強張らせるサスケと、呆然と声を発するトモエ。
 そんな二人に、鏡に映る何人もの白が言葉を紡ぐ。

 「じゃあ…そろそろ行きますよ」
 「「!?」」

 背中に嫌な汗がつたうのがわかった。
 サスケがトモエに目をやると、彼女の身体は僅かながらに震えている。

 「僕の本当のスピードをお見せしましょう」

 その直後、サスケとトモエ目掛けて、白が千本を両手に飛び出した。
 先程の速さに比べると、遥かに速い。目ではもう追えない程だ。
 鏡と鏡を移動しているらしく、白の持つ千本は移動をする度に二人に傷を作っていく。

「うぐぅっ…!!」
「っ、く…!」

 目で追えないということはつまり、回避が出来ないということ。
 血が飛び散るのを感じながら、サスケとトモエは急所を隠して痛みに耐えることしか出来なかった。

 すると突然、白からの攻撃が途切れた。
 外で何かあったのだろう。この隙に作戦を考えたいが、体中の傷が中々集中させてくれない。

 「ッ…」

 思わず膝をつき、そのまま倒れこむ。
 隣でサスケも同じように倒れていて、荒い呼吸を繰り返していた。

 「っお前の方が…」
 
 目線が合う。サスケはそのまま、自傷気味に笑った。

 「俺より、傷多いじゃ、ねェかよ……」
 「…そうみたい、ですね」

 良く見てみれば、確かにサスケよりもトモエの方が傷の数が多かった。
 忍術を使いこなすトモエに、白も警戒していたのだろう。と、鏡の向こう側で何やら声がする。
 聞こえて来た声は、やけにサスケとトモエを安心させるようなものだった。

 「俺が来たからには、もう大丈夫だってばよ!
 物語の主人公ってのは大体こーゆーパターンで出て来てあっちゅーまにィー…敵をやっつけるのだァー!!」

 (話が長い…)
 (というか、完全にいい的になってる…)

 ナルトに冷静なツッコミを入れつつも、サスケとトモエは何とかして身体を起こし、やっとのことで状況判断を初める。

 「この傷から見て…千本で攻撃されてるっていうのは確かですが…」
 「今のところ、俺は急所という急所は狙われていない…お前もか?」
 「一応…」

 腕の傷を見ながら、トモエは目を閉じて状況を整理し始めた。

 (とにかく、この鏡が白の攻撃の要であるのは疑いようがない…)
 「とりあえず…私とサスケは内側から、ナルトくんには外側から攻撃してもらいましょう…」
 「…そうだな、」

 目を開け、再び鏡の中に入り込む白の姿を確認するトモエ。
 その横で、サスケはどうにかして外にいるナルトに声をかけようと、辺りを見回す。
 ――が…

 「よっ、サスケにトモエちゃん!助けに来たぞ!」
 「は!?」
 「わー予想外ですねぇ」
 
 なんと連係をとろうとしていた人物は、鏡の中に自ら入ってきたのだ。
 まさかの展開に、サスケはギョッとして目を見開く。トモエは反対に笑みを浮かべていたが、この状況では恐怖を覚える笑みともいえた。

 「こっ…このウスラトンカチ!忍ならもっと慎重に動けェ!!」
 「ナルトくん、今ならアカデミーに戻ってもいいんですよー」
 「な、なんだァ二人とも!せっかく助けに来てやったのにィ!!」

 助太刀どころか、状況が悪化している。精々良かったことと言えば、ようやく写輪眼を使うことが出来たことだろうか。両目に意識を集中させつつも頭を抱えていると、三人の正面にある鏡に現れた。

 (こうなったら…鏡をぶっ壊すまでだ!!)

 どーいうことだぁコレ!と喚くナルトを他所に、サスケが印を結ぶ。

 火遁・豪火球の術!!

 炎が一斉に鏡に向かい、大きく広がる。
 しかし、炎が引いても鏡は何事も無かったようにあった。つまり、全く効かないらしい。

 「全然効いてねェーじゃん!!」
 「そんな火力ではこの氷の鏡は溶けませんよ。この術は僕だけを写す鏡の反射を利用する移動術。
 ボクのスピードから見れば君たちはまるで止まっているかの様…」

 悔しそうに唇を噛むサスケ、それを見つめるトモエ。そして、いまだ状況が理解できていないナルト。そんな三人に、白は再び攻撃を開始した。

 「がっ!?」
 「う…っ!」
 「ぐっ…!」

 地面に叩きつけられ、血飛沫が舞う。
 ナルトが影分身で応戦しようとしたが、それも呆気なく失敗に終わった。

 唯一、トモエのみが秘孔を突こうとするものを、どうにかかわしている状態だ。しかし、チャクラの量はあと僅か。
 それに、ナルトとサスケのことを気にかけつつ自分のことを守るのはかなり至難の技らしく、避けきれない千本がいくつか身体に突き刺さっている状態だ。

 万事休す。この言葉が、ピッタリである。

 そうして事態が最悪の状況へと傾いていたとき、動いたのはやはり彼女だった。

 「…仕方ないですね。本当は使うつもり、なかったんですが……そうも言ってられないようですし」
 「トモエちゃん…?」

 突然ふらりと立ち上がったトモエに対し、ナルトたちはどうしたのか、と目を向ける。そのトモエの様子を見ていた白も、警戒を強めるように針を構えた。
 そして印を結んだトモエが、次の瞬間、放った術に全員が驚愕した。

 気体中にあった水分を凍らせ、みるみるうちに彼女の周りには、鋭利な氷の矢が多数できていた。風遁でもない水遁でもない、サスケも初めて見る彼女の術を食い入るように見ている。

 「何故ッ、キミがその技を…!?」

 しかし一番初めに、驚きの声を上げたのは白だった。
 それもその筈だ。

 忍術の中には、血継限界によって2つの性質変化を一度に合わせ新たな性質を作り出す能力が存在する。血継限界とは遺伝によってのみ伝えられる、特殊な能力または体質。基本的に血の繋がりのある者のみがその力を得る資格があるが、資格がある者が全て力を持つわけではなく、血継限界が覚醒しない場合もある。
 そして、氷遁は水遁と風遁を同時に発動し組み合わせた忍術。以前、再不斬と戦った時にトモエが持っていた白い刃の正体も、この氷遁で造り出した氷の刃だったのだ。

 「それは僕たち雪一族にしか使えないもの…!」
 「…はい。だから、私も貴方の術を見た時驚きました。まさか同じように氷遁を扱う人がいたなんて。私は、雪箆トモエ。この術は両親から受け継いだもの…」

 "雪箆"――その苗字に白は何か気づいたようで、そうか、と小さく呟いた。

 「本当はまだ未完成に近いので、あまり戦闘では使用したくはなかったんですが…
仲間を守るためなら……出し惜しみする必要はない、ですよね?」

 氷遁・白矢はくし

 氷の矢が白に向かって何本も飛んでいく。それは一瞬の出来事で、氷で造られた鏡と、氷で造られた矢がぶつかった。あたりにはひんやりとした冷気が立ち込める。

 「……やったか…?」

 サスケがポツリと呟く。その声と同時に、やがてゆっくりと視界がクリアになっていった。
 そして…見えてきた光景にトモエが目を細める。確かに幾つかは壊すことはできた、が…彼らの目の前には未だに大きな鏡が存在していた。先ほどトモエ本人が言っていたように、この氷遁の技自体、まだ彼女には扱いきれていない。未完成に等しかったせいか、その威力は白の力には及ばなかった。

 途端、がくん、と身体の力が抜けた。
 「ぁ、」と声を漏らし、その場に倒れるトモエ。

 「トモエッ…!?」
 「すみ、ませ……チャクラ、切れた……みた、い…」
 「ッ…!!」

 苦しそうにトモエが顔を歪ませる。サスケはぐっと唇を噛み締め、鏡の中にいる白を睨んだ。

 (畜生…!このままじゃマジでヤバい!俺がなんとかするしか…)

 グッと足に力を入れ、立ち上がるサスケ。それを見た白は、再び千本を手に持ち、サスケ達を見据えた。

 「君はよく動く…そこの女の子もどうやら限界らしいですね。」

 白の声がサスケの意識とはまた別方向から送られる。サスケが振り向いた途端にまた千本が放たれるが、サスケは反射神経で避けた。

 「素晴らしい。素晴らしい動きです。キミは、よく動く」
 ――けれど、次で止めます」

 今度は前方。隠れる気もなく目の前に姿を現した相手。サスケは思わず身を引いた。

 「運動機能、反射神経、状況判断能力。キミの全てはもう限界のはず」

 次々と白の姿が隣の鏡へ、隣の鏡へと移っていく。
 足の血が毒々しくコンクリートの地面を濡らしている。サスケももちろんそれを分かっている、よって緊張感は今まで以上となる。サスケは白の姿を見失うまいとじっと視線を送っていた。

 「(落ち着け......集中しろ!そして......)」

 サスケの瞳が一瞬、ぶれる。

 「(見切れ!)」

───白の手から離れる千本が、そこから先、サスケの目には実に遅く見えていた。

 サスケの動きは、それまでよりもずっと素早い。千本が到達する何秒も前に、余裕をもってサスケは動いていたのだ。サスケは、トモエとナルトを一瞬にして抱え、跳んだ。

 完全な見切り。
 驚きに目を見張ったのは白だけでなく、トモエもだ。抱えられながらトモエはゆっくりと視線を上げ、見慣れた顔を直視した。するとトモエの瞳が一瞬にして射止めたのは、"赤"。

 赤地に黒の三つ巴。写輪眼、そのもの。

 もちろん白もその写輪眼を確認していた。写輪眼、血継限界。それがサスケにあるとなると、長くは戦えない。この戦闘は長く続けるべきではない。

 「これでカタをつけます!!」

 なんと、白がサスケから標的を変え、ナルトに狙いを定めたのだ。あえてトモエを狙わなかったのは、彼女の術が発動するのを恐れたが為だろう。

 「ッ!!」
 (まさか…彼を…!?)

 本能的に、身体を動かす。トモエは動かない身体に鞭打って、ナルトに覆いかぶさるような体勢になり、白の攻撃を受け入れようとした。仮面の奥で目を見開く白。息をのむサスケとナルト。
 トモエは来るであろう痛みに耐えるべく、ぐっと目をきつく瞑った。

 しかし、痛みはいつまで経ってもやって来ない。

 それを不審に思ったトモエは、閉じていた目を開き、顔をそちらに向けた。ナルトも同様に、視線を彼女と同じ方向に向ける。そしてその光景を見た途端、身体から力が抜けるのがわかった。

 「ッ……!!」
 「サスケ、お前…!!」

 ナルトと、それに覆いかぶさったトモエを庇うように、サスケがそこに立っている。
 彼は体中が千本で貫かれており、一瞬何があったのか理解が出来なかった。

 「な…んて顔、してやがんだ…よ…この、ウスラトンカチ…」

 そう言って、後ろを振り向いたサスケが弱々しく笑う。

 「な…なんで、俺達を庇って…!!」
 「ナルト…お前なんか、大嫌いだったのによ……」

 呆然とするトモエ。その横にいるナルトは、現実を理解したくないとばかりに唇を噛み締めた。

 「なんで…なんで、庇ったり…!!」
 「知るか、よ…」

 口から吐血をしながら、サスケはナルトからトモエに目を向ける。

 「ナルトを、庇ったり…しやがって……その時の、お前は…俺以外、誰が守るんだよ……バカ…!」

 ぐらり、とサスケの身体が傾いた。倒れそうになったサスケを、トモエが必死に受け止める。

 「あの男を…兄貴を、殺すまで……死んでたまるかって…思って、たのに…」
 「サス、ケ…っ、」

 ボロボロと、トモエの瞳から涙がこぼれた。いつもの冷静さは何処へいったのか、トモエの心は揺れ動き、制御しきれない。頬を伝ったいくつもの雫はサスケの頬に落ちて、下に流れて行く。

 「お前らは…死ぬな……」
 「サスケッ、」
 「…!!」

 トモエ同様、ナルトの目からも涙が流れた。
 最後の力を振り絞るように、サスケがトモエの頬に手を伸ばす。トモエは泣きながらその手を握り、サスケの身体をぐっと抱き締めた。

 「俺は……お前が、ずっと……」

 言葉は、続かない。トモエの頬に触れたサスケの手から、力が抜けた。
 目を閉じたサスケに、トモエは大きく目を見開く。

 「サスケッ…ねぇ…!返事を…返事をして…っ!」

 まるで刃物で身体を貫けられたような衝撃波が、トモエに容赦なく襲い掛かっていく。

 「嫌だ…イヤッ…!サスケ…お願い、一人に……一人にしないで…ッ」

 切なる願いが溢れ出し、トモエを不安定にさせる。
 心の一部を失われ、ぐらぐらと揺れ動く。

 そんな時、白の声が響く。

 「彼は…僕に一撃をくれ、怯むことなくキミ達を庇って死にました。
 大切な人を守る為に、罠だと知っていながら飛び込んでいける…彼は尊敬に値する忍でした…仲間の死は初めてですか?これが、忍の道ですよ…」

 そう言いながら、白は鏡の中に戻っていく。
 サスケの身体を抱き締めて泣くトモエの横で、ナルトが立ち上がった。

 「許さねェ…」
 「!」

 そして、白はナルトの異変に気がつく。

 「……て……る……殺してやる!!」

 ナルトの目つきは、まるで獲物を狙う獣のように変化していたのである。
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