二十一

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 もう、自分の頭が可笑しくなったのかと思えた。サスケ程の量ではないが、トモエの身体は何本かの千本で貫かれている。しかし、その痛みすらを感じないほど、彼女は現実を理解できていなかった。

 ナルトと自分を庇って、サスケが死んだ。
 そして、ナルトは様子がいつもとは全く違う。
 ナルトのチャクラが具現化し、まるで狐のようなものを作り出していたのである。

 「ナル、トくん…?」

 白に向かっていくナルトを見つめながら、トモエは呆然とした様子で彼の名前を呼ぶ。ナルトから発せられるチャクラは、トモエが今まで感じたことがないほど、醜悪なチャクラであった。先程のナルトの面影は無く、本能で動いているようにも見える。
 さらに、白のスピードにも彼は着いていっていた。否、白の速さを上回っているのかもしれない。遂には術者の白を殴り倒したのか、氷の鏡が完全に割れて粉々になり宙を舞う。

 トモエは突き刺っていた巨大なチャクラが消えたことに気が付いた。ナルトに何かあったのかもしれない。トモエが顔を上げた先には真っ二つに割れたお面があった。

 「ナルト君……僕を……」

 あの時ナルトが森で出会った、きれいに微笑んでくれた人が、

 「殺してください」

 静かに涙を流している少年が、再不斬のパートナーであったお面の子の正体だった。



 ――早く殺して。

 白の切ない声が聞こえる。例え最期の願いだとしてもそんなこと出来る筈がない。他に道はないのか。頼まれたナルトが唇を噛み締める。

 「納得いかねぇ! 強い奴でいるってことだけが……お前のこの世にいていいっていう理由なのかよ!!」

 もう橙色のチャクラを身体に纏わせていないナルトが泣き叫ぶように声を張る。ナルトと一緒にトモエも白の過去を聞いた。
 両親を自らの手で殺めてしまい、拾ってくれた再不斬の道具として今日まで生きてきた白の人生。自由を求めようともしなかった白を己の手で終わらせてしまっていいのか。

 「トモエさん、貴女も構いません。僕は、貴女の大切な人を殺めてしまったんですから」
 「…白……」
 「君たちの手を汚させることになって、すみません」

 白の目蓋が閉じ、もう一度持ち上げた瞳は悲しみに揺れ動いていた。敵であるのに優しい心を持つ彼は忍に向いていないとトモエは思った。

 悔やみ続けたナルトが遂にクナイを握り締めた。ナルトの鋭い眼孔を、瞳を閉じて穏やかな顔で受け止める白が儚い。ナルトが一気に駆け出していく。振りかざされるクナイの先が輝いた。

 「……っ!ごめんなさいナルト君! 僕はまだ死ねません!!」

 そう言うやナルトのクナイを受け止めた白が素早く片手で印を結び、一瞬で消えてしまった。しかしすぐにナルトは白を見つけて、カカシたちの方へ走っていった。

 ***

 霧が晴れる。白は、カカシから再不斬を庇って死んだ。
 その結果はきっと、チャクラ切れでロクに動けないトモエが何をしようとも、変わらなかったことだろう。すると、サクラがタズナの手を引いてトモエの方へ走ってきた。

 「トモエ!!サスケ君、は……」

 サクラの言葉は続かなかった。その隣で、タズナは大きく目を見開く。
 涙を幾度なくこぼすトモエに抱き締められ、ピクリとも動かないサスケ。頭の良いサクラのことだ、すぐに状況を理解した。
 サクラはその場に膝をつくと、サスケの頬にそっと触れる。

 「冷たい…これはもう、幻術じゃ…ないのね…」
 「っサクラさ…」

 サクラの顔が、泣きそうになって歪む。トモエはその表情を見て、再び涙を流した。

 「私…いつも忍者学校のテストで百点とってた…」
 「!」
 「百以上もある忍の心得を全部覚えてて…いつも得意げに、答えを書いてた…。
……ある日のテストでこんな問題が出たの。
“忍の心得・第二十五項を答えよ”って……それで、私はいつものようにその答えを書いたわ」

 サクラの瞳から、大粒の涙がこぼれる。トモエが場所を譲るようにその場から一歩後ろに下がると、サクラはサスケの身体に身体を伏せた。

 「…“忍はどのような状況においての感情を…表に出すべからず……
任務を第一とし、何事にも涙を…見せぬ心を持つべし”って……」

 そう言って、サクラは声をあげて泣き出した。タズナは辛そうに目を逸らし、トモエは少し離れた場所で座り込むと静かに涙を流した。


 その時――

 「おーおー、ハデにやられてェ…ガッカリだよ、再不斬」

 黒いスーツを身に纏った男を先頭に、何人もの男達がゾロゾロと姿を現した。
 再不斬が、その男の名前を口にする。

 「ガトー…」

 そう、彼が全ての黒幕である。ガトーが現れた理由は単純、再不斬をここで殺す為だ。
 ナルトが再不斬に何かを叫んでいる。トモエたちのいる場所では、よく会話が聞こえなかった。

 再不斬はナルトから受け取ったクナイを口に咥えると、そのまま一人で武器を持った男の集団の中へ駆け出す。

 様々な攻撃を受け、再不斬の身体は限界であるはずだ。しかし彼は気合で身体を動かし、一番奥にいるガトーに向かって一直線に走る。

 そして、咥えたクナイでガトーの首を斬り飛ばした。役目を終えたかのように、再不斬はそのままその場に倒れる。

 それは、必死に生きた男の最期であった。


 「……サクラ…重いぞ…」

 掠れた声だったが、耳に届いたのは聞き慣れた声。サクラが驚いて顔を上げて声の主…サスケを見ると、彼はうっすらと目を開け、こちらを見つめている。

 「……!!」

 驚きと感動が混ざり合い、サクラはその場でボロボロと涙を流す。しかし、サスケが生きている、と確認できた途端、サクラは勢い良くサスケに抱きついた。

 「サスケ君…!!サスケ君、サスケ君…!!!」
 「…サクラ…痛てーよ…」

 その声に、今までずっと再不斬達に目を向けていたトモエが、バッと振り返ってサクラ達に顔を向けた。
 サスケの瞳と、トモエの涙で滲んだ瞳。二人の視線が交じり合う。信じられない、というような顔をしたトモエは、震える唇で彼の名前を呼んだ。

 「サ…スケ…?」
 「……あぁ」

 気を遣ったのだろう、サクラが泣きながらそっとサスケから離れる。照れ臭そうに顔を上げたサスケを見た直後、トモエの双眼からいくつもの涙がこぼれ始めた。

 そして、トモエはそのままサスケに飛びつく。驚いたサスケが目を見開くが、トモエは離す気などサラサラないらしく、そのまま泣きながらサスケの服に顔を擦りつけた。

 「良かった…」
 「トモエ、」
 「本当に、死んだかと…良かった……生きててくれて、良かった…ッ」

 ここまで感情を露わにするトモエを見たのは、サスケも久し振りのことである。
 小さな頃より広くなった背中に腕を回してトモエはぎゅっと抱き締める。耳元にかかる息、伝わる鼓動。そのどれもが、彼が生きているという証拠になってくれる。

 トモエの涙がまた溢れ出す。
そして突然降ってきた雪がトモエの頬に舞い降り、じんわりと溶けていった。
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