二十二

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 ゆらりゆらりと髪が海を泳ぐように揺れ動く。柔らかく気持ちのいい風が頬に優しく触れていく。その場でトモエは目を閉じて両手を胸の前で合わせた。

 あれから日は過ぎ、二週間ぶりに彼らにトモエたちは会いに来た。
 彼らとは、再不斬と白のことだ。白は最期まで再不斬の道具として、彼にとって大切な人である再不斬を庇って亡くなった。
 鬼のような再不斬であったが、やはり白のことが大切だった彼はガトーを亡き者にし、自らも白の傍で亡くなっていった。

 トモエはゆっくりと目蓋を持ち上げ、目の前の小さな墓を見つめた。再不斬の剣と白の布地が風に揺れている。

 「でもさぁカカシ先生…忍者の在り方ってやっぱりこの二人が言ってた通りなのかなぁ……」
 「忍ってのは自分の存在理由を求めちゃあいけない…、ただ国の道具として存在することが大切……それは木ノ葉でも同じだよ」

 つまり忍者になるということは、己の心を押し殺して国のためだけに動くというものなのか。忍者は感情を持ってはいけない、と。

 「アンタもそう思うのか?」
 「んーいやな……だから忍者って奴は皆知らず知らずそのことに悩んで生きてんのさ……再不斬や、あの子のようにな……」

 再不斬や白が生きてきた道。
 自分の居場所を見つけたとしても、きっとそこは安心できる場所じゃなかったのではないだろうか。

 「……よし、今決めたってばよ!オレはオレの忍道を行ってやる!!」

 そう高々と胸を張るナルトをトモエは視界に捉えた。瞳はキラキラと輝き、ただただ真っすぐ前だけを貫いていた。

 トモエはここにくる途中で摘んだ花をお供え物の傍にそっと添える。二枚の花びらが天に向かうように舞っていく。目で追い続けていると黒い影が覆い被さった。

 「その花、トモエが摘んだの?」
 「はい」

 カカシはトモエの言葉に、ほんの少し目を細めた。そして突然、ナルトは何かを思い出したようで、純粋な疑問を投げかける。

 「なぁなぁ、どうしてトモエちゃんは白と同じような技使えたんだ?この間の修行で身に着けたのか?」

 それにはナルトだけでなく、サスケやサクラも気になってはいたようだ。全員の目線がトモエへと向いた。

 「それは多分…白さんと私が同じ"雪一族"だからですよ」

 白の墓石を見つめるトモエがポツリと言う。彼女がそれ以上喋る様子は見られなかったので、代わりにカカシが口を開いた。

 「元々、雪一族は北国の方に住んでいたといわれ、国が亡国となってからは一族は離散して、故郷の無い流浪の民となったと聞く。
 その中でも雪箆家は、雪一族の本家筋にあたる家系なんだよ」
 「雪箆って…トモエちゃんちのことじゃん!?」
 「アンタ、ほんっと鈍いわね…」

 難しい話についていくのが大の苦手なナルトを、呆れたようにサクラは咎める。
 一方、サスケの方はトモエの後ろ姿をジッと見つめていた。

 「そして後に雪箆家は木の葉に移り住んだ。
つまり…白のような分家の末裔である人達と違い、唯一保護を受けることができたわけだ」

 もしも白とトモエの立場が違っていたら、白の運命も変わっていたかもしれない。

 「へー…オレってば全然知らなかった」
 「アタシも…トモエの家にそんな歴史があったなんて……」

 カカシが話し終えたところで、トモエは付け加えるように話す。

 「…ご先祖様の言い伝えにもあったんです。
雪一族は小さい一族ではあったけれど、仲間同士の繋がりは強く…、だから本家である私たちが、分家の人たちを見放すようなことになってしまい…とても辛かった、と。
――…一度でいいから、また"彼等"に会いたい」

 夕日に魅せられる花びらが風に揺れた。

 「そう、聞いています。だから今回、こんな形にはなってしまいましたが……白さんに会えてよかった。

 白さんが…一人じゃなくて、よかったです」

 自身が"必要とされない存在"と思い絶望していた白。しかし、彼が生きていたこと、彼と出会えたこと、それを嬉しく思うひとたちもいた。今、彼がそれを知ったら…どう思うのだろうか。

 「…トモエは優しいね」
 「いえ…別にそういうわけじゃ……」
 「そんなことなーいよ。トモエは優しい」

 ニコニコと嬉しそうに目を細めるカカシに頭を撫でられながら、トモエは僅かに眉を寄せて否定する。
 それでも微笑むことを止めないカカシに何だか恥ずかしくなり、ふと下に目を向けた。

 「おい、そろそろ戻るぞ、ナルトぼけっとすんな」
 「よっしゃ!誰が一番先に家に着くか勝負だってばよ!よーい……どんっ!!」
 「あっバカナルト! 一人で勝手に行くんじゃないわよ!!」
 「トモエ行くぞ」
 「うん…」

 どんどん小さくなる背中――ナルトは随分離れたところにいる。
 トモエはもう一度二人に顔を向けると、彼等のあとを追う。

 
――【ありがとう】と、誰かがそう言っていた。

 ***

 背中にくるずっしりとしたリュックを背負い、木ノ葉から出発した時と同じように皆で立ち並ぶ。
 今日はイナリたちとの別れの日。任務を無事終えたトモエたちがここに携わる必要はこれ以上ないのだ。

 「イナリィ……お前ってば寂しいんだろ〜。泣いたっていいってばよォ!」
 「泣くもんかァ! ナルトの兄ちゃんこそ泣いたっていいぞ!」

 意地っ張りなナルトとイナリはいつもこんな風だった。二人で笑って、喧嘩したかと思えば、また笑いあって。まるで兄弟のようだった彼ら。別れたくないとお互いが思っているはずなのに、その意地っ張りな性格が出しゃばり、
素直になれない彼らは背を向けあい、思う存分涙を流している。
 それには周りも苦笑いをするしかなかった。少しでも素直になれたらいいのに、と。少々不器用な別れになったが、彼等にはこれが丁度いいのかもしれない。

 「よーし早く帰ってイルカ先生に任務終了祝いのラーメン奢ってもらおーっと! それにさ、それにさ、木ノ葉丸にもオレの武勇伝聞かせてやろー!」
 「じゃ、私は…ねえサスケ君、里に帰ったらデートしない?」
 「いや、断る」
 「そ…そんなあ……」
 「あのさ、あのさ、……オレってばいいよ!」
 「うるさい! 黙れナルト!」

 わちゃわちゃと騒がしい彼らを見つめながら、トモエはいつものように小さく微笑んだ。先ほどのイナリたちとの別れがまるで嘘みたいだ。あの大量の涙を流していたナルトは一体どこへ行ったのやら。

 雲一つない晴天。青い青い空がどこまでも続いており、太陽の光が暖かい。
 そんなとき、ふとカカシに声をかけられた。

 「トモエは里に帰ったら何がしたい?」

 細められたカカシの瞳を見ながら、そうですね…と考えを巡らせる。帰ったら何をしよう。特に決められたこともないし、かと言って特別何かしたいと思うこともない。

 「もし暇なら、オレが修行見てあげようか?」
 「カカシ先生が、ですか?」
 「そ。今一番伸びしろが良いからね」

 ぽんぽんと頭をカカシに撫でられる。変わらず目を細めて笑うカカシの視線から逃げるようにトモエは目を伏せ、俯いた。

 「あーっ! カカシ先生ってば何してんだってばよ!」
 「そういうのセクハラっていうのよ、セ・ク・ハ・ラ!」
 「おいカカシ、さっさと離れろ」
 「お、お前ら…そんな、冤罪でしょーが」

 勢いよくカカシに向かっていく二人と、鋭い視線を送る一人。
 トモエが呆気にとられるなか、より賑やかさが増した第七班はがやがやと橋を渡り続ける。

 その橋は勇気と希望を分け与えた少年の名、ナルト大橋と名付けられたのだった。
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