三本の丸太が立ち、草原が広がっている穏やかなここは今日の演習が行われる舞台。時間より10分オーバーでナルトが慌てたようにやってきて、取りあえず第7班は揃った。
……担当上忍のカカシを除いて、だが。
.....そして、その何時間か後。
「やー諸君、おはよう!」
「「おっそーい!!」」
ナルトとサクラの合唱にトモエは笑みを浮かべ、カカシよりはずっと前にきたサスケは不機嫌そうな顔を隠そうともしない。
早起きした意味はなんだったんだ!とばかりに怒りをぶつける彼らだが、カカシはそれを無視しながら、時計を木の幹の上に設置した。
疑問を向ける子供達に、カカシは手に持ったスズを見せる。
「ここにスズが3つある…これを俺から昼までに奪い取ることが課題だ。もし昼までにスズを奪えなかった奴は昼メシ抜き!あの丸太に縛り付けた上に目の前で俺が弁当食うから。
スズは1人1つでいい。3つしかないから必然的に1人丸太行きになる…で!
スズを取れない奴は任務失敗ってことで失格だ!つまりこの中で最低でも1人は学校へ戻ってもらうことになるわけだ…」
カカシの言葉に4人の顔が険しくなる。つまり、これは奪い合いを仕向けているようなもの。
「ああ、手裏剣も使っていいぞ。オレを殺すつもりで来ないと取れないからな」
オマケのように言ってのけたカカシ。だが今まで聞き慣れない"殺す"という単語に反応しない者はいない。
「でも!危ないわよ先生!」
「そ、そうそう!黒板消しもよけきれねーほどドンくせーのにィ!本当に殺しちまうってばよ!」
明らかに動揺しているナルトのセリフも。しかし、"上忍"カカシは大きく溜め息をついた。
「世間じゃさぁ、実力のない奴にかぎって吠えたがる......ま、"ドベ"はほっといて、よーいスタートの合図で」
何気ないカカシの言葉、しかし、その一部の単語にナルトは大きく反応した。
"ドベ"。アカデミーにいれば一日に何度も聞かされていた言葉、しかしその屈辱はたまったものではない。ナルトの手はすばやくホルダーに下がっていた。
「ちょっと!」
サクラが声をあげるが既に遅く、ナルトはクナイを手に猛スピードでカカシに迫った、が。
「そう慌てんなよ。まだスタートは言ってないだろ」
まさに刹那。気付いたら、カカシは下忍たちの隣にいたのである。ナルトの持っていたクナイは、カカシの手によってナルトの後頭部に刺さる寸前だった。
「(速い......!)」
目を見張るトモエ。目で追いきれなかったというより、そうすることを考える間もなかった。これが上忍のスピード。まともにやって勝てる相手じゃないことなど一目瞭然だ。
そんな四人の表情に満足したのか、カカシは不敵に笑った。
「オレを殺るつもりで来る気になったようだな。やっとオレを認めてくれたかな?」
そう言ってカカシは四人の顔を順に見渡す。
「クク......なんだかな。やっとお前らを好きになれそうだ」
じゃ、始めるぞ!というカカシの声に、その場の空気が一気に緊張したものへと変化する。これを成功させなければ、下忍にすらなれない。それだけは、4人とも何としてでも避けなかった。
「よーい……スタート!!!」
その言葉を合図に第七班員たちは散り散りになった。
***
カサリと音をたてながら、草陰にトモエは身を潜めた。息を殺し気配を消すと、草陰から外の様子を覗き込む。そこはちょうどナルトがカカシに指差していたところだった。
「忍びたる者。基本は気配を消し、隠れるべし」
辺りにカカシの声が響く。先ほどまではいた下忍候補たちも、やっと事態の深刻さに気付いたのか、今は本気になって気配を消しているようだ。それでもやはり上忍のカカシにはまだまだといったところではあるが。
ただ一人の例外だけは、評価するにも満たさない。
「いざッ、尋常にしょーーーぶ!!!」
「あのさぁ……お前ちとズレてない?」
これにはカカシ、サクラやサスケまでもがバカか?と呆れた。
「ズレてんのはその髪型のセンスだろーっ!!」
すると早速ナルトがカカシに仕掛けだしていた。しかしカカシが小さな動きを見せて、すぐ急停止。カカシの手が伸びた先にはポーチだ。
「忍戦術の心得その一。体術を教えてやる」
そして取り出した物はといえば、一冊の、いかにもいかがわしげな文庫だった。目前のナルトの表情などものともせずに、カカシはそれを開いて読み始める始末。
「どうした、早くかかってこい」
「えっ......でも、あのさ、あのさ?なんで本なんか」
「なんでって、本の続きが気になってたからだよ。別に気にすんな、お前らとじゃ本読んでても関係ないから」
そんな挑発的な言葉にナルトが辛抱できるはずもなく。ナルトはすぐさま攻撃を再開したが、カカシは見事それらを全て片手でひょいひょい受け止めていた。前言通りずっとその目は文章を追っているにも関わらずだ。
「上忍って......こんなにも」
身を潜めて二人を見るトモエはぽつりと零す。勿論、トモエとて想像はしていた。なんといっても、上忍対下忍"候補"だ。実力差があるのは当然だとは思っていたが、しかしトモエはようやく、自分の推測が甘かった事に気付いた。
「(でも試験内容なのだから、可能性はあるに決まってる......はず)」
自分自身に思い込ませるように唱える。だが実際、意気込みだけで敵う相手でないことは確かだ。じゃあ、一体どうすればいい?
トモエが考えている間にも、ナルトの一方的な攻撃は炸裂していく。だがどんなスピードでも強さでも、全てが受け止められて避けられる。カカシは一度も攻撃していないが、それでもナルトが圧倒的不利なことは目に見えて分かる。
「(どうすれば、合格できる......?)」
だがそんなトモエの思考も、次のカカシの動きで遮られていた。
「......!あれは、」
"虎の印!"
それを確認した時には、もうトモエの体は動き出していた。ガサガサと木の葉の間をすり抜けて行く。何度か葉や枝のせいで皮膚が悲鳴をあげるが、そんなことトモエの頭にはなかった。
「!?」
「うおッ!?」
一瞬にしてナルトとカカシ、二人がいる場に躍り出たトモエは、瞬間的にナルトの服の襟首を掴む。
掴まれたナルトも、虎の印を構えていたカカシも目を大きく見開き、だが突然のことに動くことができず、トモエとナルトはその勢いのまま近くの川に突っ込んでいた。
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