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 川の水の中に二人の姿。ナルトとトモエのそれぞれの髪は、流れに合わせて揺らめいていた。水中に入ってくる光に反射し、トモエの長い銀色は煌めいている。

 ナルトは未だに状況を掴めていないようだったが、水中でトモエが鼻に人指し指を当てたために一応頷いていた。そんなナルトの手を引いて、トモエは徐々に川下へと進んでいく。とりあえず一時的にカカシから離れようとしてるのかと思い、ナルトはあえて逆らおうとはしなかった。

 ぷはあっと二人が川から顔を出したのはその数秒後。
 川はそれなりに深く足はつかないが、トモエもナルトもそれぞれ近場の草諸々を掴んで体を支えた。カカシの姿は見えない。元の場所から少しは離れたらしい。

 「ごめんなさい、いきなり驚いたでしょう」
 「あー、うん。でもなんか、危ねえトコだったんだよな?」

 ナルトは物分かりよく思い返す。カカシが自分の背後で何やら印のようなものを組んでいるのは寸前に目にし、サクラが叫んでいたのも思い出した。
 実はあれがとんでもなく下らない技だったとも知らず、トモエは安堵の溜め息を零す。

 「良かったです、間に合って」
 「へへっ、ありがとだってばよ。......って、トモエちゃん、その傷は!?」

 能天気に笑ったナルトだったが、すぐに違和感に気付いて声を上げていた。トモエの顔や服のあちこちが傷だらけだ。

 「......ああ、これ」
 「なんで......もしかしてオレを助けるために、」
 「大げさですよナルトくん。枝で掠れた程度ですから」

 確かに大したものではない。一日二日もすれば消えるだろう痕は、特別気にするようなものではない。
 だがそう言って笑うトモエとは対象的に、その原因となってしまったナルトには後悔も大きい。罪悪感と、自責の念だ。

 「(オレがすぐ動かなかったから......オレを、守るために)」

 ナルトは歯ぎしりした。

 「(女の子に守られるなんて......!)」


 「......トモエちゃん」

 暫しの沈黙のあと、ナルトは顔を伏せてトモエの名を呼ぶ。カカシがいるであろう方向を見つめてどうしようと考えていたトモエが、それに気付いて首を傾げた途端だ。

 「見てろよ!!」

 ナルトが叫んだかと思えばジャボンッと水しぶきがあがり、唐突にその姿を消していた。そして水面からも見えるオレンジ色はどんどん上流へ泳いでいく。カカシのいるところへだ。

 驚いたトモエもすぐさま川へ沈み、飽くまでも"忍者らしく"を努めて川の流れに逆らった。だがさすがに追いつけるものではない。トモエが再びナルトをきちんと視界に入れた頃には、ナルトは水中で何らかの印を組んで飛び出していた。

 トモエも遅れて顔を出す。

 「ナルトくんッ!!無闇に突っ込ん、じゃ......」

 しぼんでいくトモエの声。地上を目に捉えたトモエは目を疑った。カカシに向かって走っているのは、八人ものナルトだったのだ。

 「「へへーん!!お得意の多重影分身の術だ!!油断大敵、今度は一人じゃないってばよォ!!」」

 八人それぞれが自由な意志をもって、カカシに向かって行く。「分身じゃなく、影分身か」とカカシは小さく呟いた。

 「御託ならべて大見得切ったって、所詮はナルト。まだその術じゃオレはやれないね」

 カカシも多少驚いたが、既に余裕の表情でナルトの影分身を見据えている。相変わらずカカシの片手は"イチャパラ"が陣取っている。しかしカカシが溜め息をつき、またその目で文章を辿り始めた時。

 「な、なにっ!?後ろ!!?」
 
 後ろから現れた九人目のナルトがカカシを捉えたのだ。その意外なナルトの行動に、カカシは勿論、トモエも、サクラも、サスケでさえも目を見開いた。

 「へへ、忍者ってのは後ろ取られちゃダメなんだろ......カカシ先生ってばよォ!」

 一人のナルトが飛び上がった。後ろから押さえられていたカカシには、更に他のナルトが足下に食いつき、動ける状態ではない。飛び上がったナルトは得意げな顔でニィっと笑んだ。 

 「さっきから遊ばれてたからな!とりあえずここで一発、殴らせてもらうってばよ!!」

......しかし。

 バキィッと派手な音があたりに響く。無論それはナルトが相手を殴った音だ。だが、殴られたのはカカシではなく、"ナルト"だったのだ。
ボフンと煙に消えた相手に、目をぱちくりさせたナルトは、ではお前かではお前かと次々自分の影分身を殴っていく。しかも殴り返されもするのだから、正直見られるものではない。

 水辺からあがったトモエが、どうしようかと逡巡しているうちに、ナルトの影分身は全て解けたらしい。最後にはボロボロの姿で一人佇んでいるナルトがいた。影分身は分身が受けたダメージも本体に戻ってしまうという特殊な術だ。

 「ナルトくん、大丈夫ですか?」
 「だ、だーいじょーぶ、だいじょーーぶ......続きはオレ一人ですっから、トモエちゃんは戻っていいってばよ......。
 この演習ってば、合格できんのは三人だけだから......お互いそれぞれで頑張ろうぜ」

 ナルトのその言葉にトモエはどこか引っかかったが、結局「分かりました」と笑顔を浮かべ、その場から退いた。場所は元の茂みの中。今確かになにか違和感を感じたが、結局それに辿り着くまでには至らない。

 表では、ナルトがまた行動を起こしている。今度は地面に転がる罠に気付いてしまったらしい。

 「スズゥーー!!」

 叫ぶナルト。落ちているのはそう、カカシが持っているはずのスズだった。
 普通はそこで誰もが策略の可能性を考えるが、なにを考えたのかはたまた何も考えなかったのか、ナルトは何の躊躇もなくスズに飛びつき、見事罠に引っかかってしまう。

 「なんじゃこりゃぁああ!!」

 あっという間にロープにつり下げられたその姿。びよーんびよーんと左右に揺れる様は見るからに無様、そしてその視界の端からようやく上忍が姿を現した。

 「術はよく考えて使え。だから逆に利用されるんだよ。それと......バレバレの罠にひっかかるな、バーカ」

 登場と同時にバカにしてくるカカシにナルトが怒らないはずがない。しかしカカシはそんなの知ったこっちゃないと、次の言葉を発した。

 「忍者は裏の裏を読め!」

 そのセリフを耳に、トモエは深い思考に陥った。裏の裏。この演習の"裏の裏"とは何だ?
忍の世界で騙し合いは日常茶飯事物だろうが、こんな演習如きでそんなものがあるのか。今のトラップ程度に使う言葉としては重過ぎやしないか。もしかして、この演習には他の意図がある?

 今 どこからか手裏剣が飛んできてカカシに刺さったが、結局それは丸太だった。カカシはどこへ行ったのか、ナルトの前から姿を消している。恐らく今手裏剣を投げた犯人、サスケの元へ向かったのかもしれない。
 今の変わり身も騙し合いだ。でもやはり違う気がする。

 「(先生は一人ずつ試してる。でも、それの裏の裏って......?)」

 下忍になるために本当に必要なのは、なんだ?
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