四十

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 サクラの額当てがカランと音をたてて落ちた。

 「この!」

 それと同時にキンは動き出す。隙だらけのサクラの背中に、クナイを刺そうと。しかしサクラはそれを察知し、素早く印を組んだ。キンがその背中にクナイを差した時、サクラの姿は丸太に変わっていた。
 本物のサクラは既にザクへと迫っている。ザクの右側から責めようとするサクラは数本のクナイを一気に放った。だがザクは焦ることなく冷静に印を組む。

 「空気圧100%、超音波0%、出力、斬空破!」

 ザクの両手の通気口から空気圧が吹き抜ける。クナイの流れが変わる。クナイはまたサクラの元へと返り、それだけではすまされず、サクラの体を襲った。途端にまた丸太へと変わる。
 ザクはそれさえも見越していた。

 「バレバレ。上だ」

 ザクの視線が上空に向かう。そこには、ザクへと飛びかかりながらも、また同じ印を組んでいるサクラの姿。何のことはない、ただの変わり身の術だ。

 「馬鹿の一つ覚えか。二度も三度も通用しねえって言ってんだろうがよぉ。てめーはこれで......」

 そうしてザクは数本のクナイを放った。

 「十分だ!」

 ざく、ざく。生々しい音をたててそれらは全てサクラに命中する。ザクは鼻で笑って、また"本物"のサクラを探し始めた。しかし、どこを見ても桜色の髪は見えない。
 ザクは怪訝に思うと同時に、頬に何かが落ちてきたのに気付いた。それは、真っ赤な血だった。

 「な、なんだと!?」

 ザクはようやく気づき、再び上空を見上げていた。サクラの姿はまだ消えていなかったのだ。
 印はフェイク。そのサクラは、紛れもない"本物"だった。サクラの手にあるクナイに気付こうとも、ザクは避けきることができずに腕を刺され、そのまま二人して地面に崩れ落ちた。
 その上、サクラはザクの腕に強く噛み付いたのだ。誰もが目を見張った。

 「放せコラ!!」

 振り上げられたザクの拳が、何度も、何度も、サクラの頭や顔、体を殴る。サクラの額や口から血が出るのに長くはかからなかった。しかし、それでもサクラはザクの腕に噛み付いていた。痛みのせいで涙が出てこようとも、必死に。

 そして、それを見ていたいのの脳裏に昔の光景が蘇る。


 小さい頃いじめっ子にいじめられて、いつも泣いていたサクラ。
 それを救ったのがいのだった。
 それから二人は親友としていつも仲良く遊んでいたのだ。しかし、

 『皆、聞いて聞いて!私好きな人ができたの!誰だと思う?』
 『サスケくん、とか言わないでよ』
 『え、何で分かったの?』
 『…っ』
 『何言ってんの。サスケくんはモテまくり人気ナンバーワンなのよ!』
 『えーそうなんだ。うわー…ライバル多いのか、どうしよー…』
 『でもサスケには、いつもあのトモエちゃんが隣についてるじゃん。もう勝ち目ないんじゃないの?』
 『トモエちゃんって、』
 『そ!白銀の長い髪をした、とっても綺麗な子よ!アタシ密かに憧れるのよね〜』
 『へ〜…』

 サクラがサスケを好きだと言ってから、いのはサクラとどう接していいか分からず何となくぎこちない関係になっていってしまった。
 そして―――

 『トモエちゃんみたいに髪長くすれば?』
 『え?』


 ――いのちゃん!サスケくんって、長い髪の女の子が好きらしいのね!

 今、いのの目に映るのは…地に落ちたサクラの桃色の髪だった。

 ザクの拳の強さは一向に弱まらない。それどころか更に大きなものとなり、サクラの体はいつしか投げ出される。しかしサクラの瞳の強さもまた、一向に弱まらない。

 「いい加減にしろ!」

 ザクは苛立っていた。噛み付かれた腕の痛みにも、サクラの屈しようとしない視線にも。遂には両手の通気口を向けるほどに。

 「サクラ!お願い、もう、やめてよ!!」

 トモエの嘆願の叫びが響く。しかしサクラは逃げない。一向に、逃げようとは。

 茂みが揺れたのは、その時だった。ざっと出てくる影。ザクの前に、三人の人影が立ちはだかる。
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