四十一

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 長い金髪。一つに束ねられた黒髪。それから、茶髪。それらが現れた途端、誰もが目を見開いた。ザクも術を放つことを一瞬忘れる。サクラとトモエは目を見開く。
 新しく現れた人影。それは、第十班であるいの、シカマル、チョウジだった。

 「いの......どうして」

 サクラの口からぽつりと漏れる声。いのは親友の声に、背を向けながら笑って返した。

 「サスケくんの前で、あんたばっかりいいカッコさせないわよー!」
 「無茶しやがって......おい、トモエもお前、大丈夫かよ」

 ぶっきらぼうにトモエを見たのはシカマルだ。シカマルの視線の先でトモエはまだ目を見開いている。どうやら現実に頭がついていっていないらしい。

 「は、はい......。......本当に、来てくれてありがとう、三人とも」

 トモエがようやく返した時、付属の笑顔を見て、シカマルといのもまた笑った。
しかし、一方でチョウジは。

 「二人とも何考えてんだよぉ!コイツらヤバすぎるってぇ!!」

 チョウジはその首のマフラーを引っ張られながらの登場であったから、最初から乗り気じゃなかったのは見え見えだったわけだが。喚き散らすチョウジをシカマルは「しょうがねぇだろ!!」と一蹴する。加え、三人のこの行動の発端であるいのは悪びれもなく「ごめんねー」と笑った。

 「けど、どーせスリーマンセル。運命共同体じゃなーい!」
 「ま、なるようになるさ」
 「いやだー!!まだ死にたくなーい!!」

 三者三様な反応を示す第十班はかなり個性的であった。暫く口喧嘩は終わりそうにない。ここまで来て往生際が悪いチョウジは未だ逃げ出そうと騒いでいる。
 その様子を見て、フンと鼻で笑った者がいた。明らかに小馬鹿にした顔を向けたザクである。

 「お前は抜けたっていいんだぜ?"おデブちゃん"」

 途端、場が一気に静まっていた。
 「あ、ヤバ」と思う者数人、「ラッキー」と思う者数人。静かになったのは、逃げる逃げると連呼していたチョウジが急に大人しくなったからである。

 「今、なんて言ったの?あの人......僕、よく聞き取れなかったよ」
 「チッ。嫌なら引っ込んでろっつったんだよ、この"デブ"!!」

 ......秋道一族は特有の術を使いこなすため、一定以上の体形を保っておくべきだと言われている。しかし、無論一族の中にも様々な性格を持つものがいる。もちろんそのことをコンプレックスに抱く者もだっているのだ。そして、チョウジはその該当者だった。

 「僕はデブじゃない!ぽっちゃり系だァッコラァー!!!」

 そして一度言われると、気が収まるまで暴れるのである。彼の今の剣幕と先ほどの表情は似ても似つかない。ぽっちゃり系バンザーイ!!とまで叫んでチャクラを吹き出し始めるチョウジだった。

 「よーし、お前ら分かってるよな!これは木ノ葉と音の戦争だぜェ!」
 「いいわよーチョウジ!今のアンタイケてるわー!」
 「ったくめんどくせーことになりそうだぜ」

 シカマルはやれやれと頭を振った。
 そんな時、ふいにシカマルの耳に「痛っ」と小さな声が聴こえた。見れば、トモエが震える体を無視して上体を起こし、その上立ち上がろうとしている。ドスの技がまだ効いてるのか、ザクの攻撃でダメージを蓄積したのかは判断できないが、とにかくトモエの顔は痛みに歪んでいた。にも関わらず立ち上がろうとしているのだ。

 「(......めんどくせーヤツ)」

 シカマルは思い、溜め息をついた。その途端、トモエの体の動きが止まる。シカマルとトモエの影が繋がっていた。トモエはハッとして、術の主を見上げる。

 「......シカマルくん」
 「じっとしてろ、馬鹿。無理すんな、お前は十分やっただろ」
 「でも、」
 「それでも戦るっつーならオレはずっと影真似しとくからな。オレがチャクラ切れしたらお前のせいだぜ」

 脅迫まがいの言葉にトモエは顔を落とす。ぽつりと聴こえた感謝の言葉に、シカマルは影真似を解いた。これがシカマルの優しさだとわかるからこそ、トモエはもう何も言えずに、第十班と音忍達の戦いを見ておくしかなかった。

 いののかけ声と共に、戦闘は始まった。

 「じゃあいのチーム、全力でいくわよー!!フォーメーション、いの!」
 「シカ!」
 「チョウ!!」

 長年お互いを護りあってきた、三人の一族のチームプレイは並のものではない。
 始めに攻撃を仕掛けたのは"倍化の術"を発動させたチョウジ。巨大化した彼はごろごろと転がりながら、目下の敵であるザクへと進んでいく。ザクがそれに対し何度目かとなる"斬空破"を放ったわけだが、今のチョウジにその程度は効かなかった。

 「なッ、跳ねやがった!!」

 吹っ飛ぶこともなく、跳ね上がり、今度は上空からザクを目指したのである。重力も加わって更にスピードも上がっている。ザクは既に成すすべがない。"斬空破"を放っても意味がないことはたった今解ったところであるし、得意の超音波も触れられないことには発動不可能だ。

 それを見越して動こうとしたのがドスだった。振動を使えば、触れられずとも相手を再起不能にすることができるためだ。
しかし、またそれを見越して動いたのはシカマル。

 「!? 体が!」

 ドスの体は既に自由に動かない。シカマルに操られている現状も理解できず、ドスは狼狽える。
 その間にもチョウジは進み、チッと舌打ちしたザクは逃げる選択肢を掴んだ。しかし、地面に勢いよく衝突しても、チョウジの勢いは収まらない。この場をどうにかできるのは既にキンだけである。もちろんいのシカチョウはそれも逃さない。

 「シカマル、私の体、お願いねー!」

 いのは笑いながら印を組んだ。キンが逃げる暇もなく、印は完成する。"心転身の術"。山中一族特有の精神を奪う術により、キンの体は今や、いのの思うがままだった。代わりにいの本体は力を失うが、それはシカマルが支える。
 他里の忍であるドスとザクでは現状を理解することは不可能だった。ザクは苛立ったようにキンの名前を呼ぶが、

 「これでオシマイよ!」

 キンは手にしたクナイを自身の喉元に向けたのである。

 「アンタたち!一歩でも動いたら、このキンって子の命はないわよ!ここで終わりたくなければ巻物を置いて立ち去るのね!アンタたちのチャクラが感じられなくなるまで遠のいたら、この子は解放してあげるわ!」

 ドスは動けず。ザクも成すすべなく、その上、キンはいのに乗っ取られ。音忍三人衆の不利は絶対だった。

 しかし、あろうことかドスとザクの二人は意味深に笑うだけ。

 いのの忠告を受け入れる様子は見当たらない。冗談だとでも思っているのかと、いのは唇を噛む。そして、それならと、「チョウジ!」と指示を飛ばした。
 するとチョウジはまた回転を始め、向かう先は、いのが入っているキンの体。


 その時、じっと戦闘を見ていたトモエはさっとドスのセリフを思い出した。
 三人の目的は、"サスケを殺すことだ"と───つまり、この試験の合否はどうでもいいのだ。仲間が一人、欠けようと。


 「ダメ!!その人たちには!!」


 しかし、そのセリフは遅すぎた。

 「いの!!」

 キンの体が吹っ飛ばされる。しかし、それはチョウジの攻撃に当たったからではない。仲間であるはずのザクが、その通気口をキンに向け、空気圧を放ったのだ。
 いのは反応できずに喰らい、チョウジも勢いを失い目が回ったと地面にへたり込む。

 「な、なんて奴らなの......仲間を、傷つけるなんて」
 「へっ、油断したな」

 吐き捨てるようにザクは言う。縛られているままのドスも怪し気に笑む。

 「我々の目的は下らない巻物でもなければ、ルール通り試験を突破することでもないんだよ」
 「なに......!?」
 「サスケくんさ」

 トモエはびくりと体を揺らした。昨夜の恐怖が甦ってくるような感覚。サスケの名前が頭の中で何度も木霊した。あの、粘つくような生温い声で。

 ドスを縛っていた影真似がついに外れ、いのの術の弱点も発見されてしまう。何より、音忍達に仲間意識などない。脅しなど効くはずもなかったのだ。

 しかし、この戦いはゲームでも演習でもない。取り返しのつかない命がけのルールの上での戦闘だ。
 サクラとトモエの顔は強ばっていた。彼らの目的はサスケ。例え力が残っていなくても、負けると解っていても、黙って見過ごすわけには───


 「気に入らないな」


 その、どこか怒りも滲ませたような声が降ってきたのは、そんな時だった。


 「マイナーの音忍風情が。そんな二線級をいじめて勝利者気取りか」
 「......わらわらとゴキブリみたいに出てきやがって」

 降ってきた方向を見上げ、誰よりも先に悪態をついたのはザク。全員の視界に映ったのは、木ノ葉の額当て。リーの班員である日向ネジと、その隣にいるのはテンテンだった。

 「そこに倒れているオカッパくんはオレたちのチームなんだが......好き勝手やってくれたな!」

 その言葉と共に発動されたのは、日向の血継限界・白眼。
 まるで全てを見通すかのようなその瞳に誰もが若干の畏怖を覚える。ようやく言葉を発したのは、強がるように口元を上げたドス。

 「気に入らないのなら、格好つけてないで降りてきたらいい」

 挑発するような物言いだ。
 しかし、ネジはその時、そうする気を失っていた。肌でじわじわと感じ始めたチャクラ。

 「いや......どうやら、その必要はないようだ」

 「......え、」

 小さく呟いたのは、トモエだった。ネジの言葉をゆっくりと呑み込んでから、トモエは確かめるように背後を振り向いていた。


 「......サスケ......?」


 ───それは、ずっと待ち望んでいたことだった。
 この場に立っている誰よりも強いサスケが、起き上がってくれたならば。協力して、戦ってくれたならば。音忍なんて蹴散らしてくれるだろうと。心のどこかで、そう思っていたことだった。

 しかし、トモエはその瞬間、震える体を抑えることなどできなかった。サスケの全身から漏れだしている禍々しいチャクラは恐怖の対象でしか在り得なかった。いつもサスケと嬉々として話そうとするサクラでさえ、サスケの意識が戻った事に、喜色を見せなかった。

 サスケの足が、一歩、踏み出される。紫にも見えるチャクラが立ち上る。
 そこでトモエはようやく気付いた。サスケの体を取り巻いている赤く光る痣。まるで今のサスケから溢れるチャクラが描かれているように、おどろおどろしい呪印。


 「トモエ......サクラ」


 サスケの口から漏れる声。低くて、冷たい。


 「お前らをそんなにしたヤツは、誰だ」


 写輪眼は、大体の目星はついているのか、ドスとザク、キンを見ている。
 トモエは何も言えなかった。代わりに、サクラが「サスケくん、その体」と声を震わせる。不安が辺り一帯を包んでいる、が、それを唯一感じていないサスケは、どうってことないように応えた。

 「心配ない。それどころか、力がどんどん溢れてくる......今は気分がいい」

 そうして、サスケの脳裏に過ったのは蛇の目。


 「あいつがくれたんだ......。ようやく理解した。オレは復讐者...例え悪魔に身をゆだねようとも、力を手に入れなきゃならない道にいる...」
 「サスケ......!」
 「早く言え。お前らを傷つけたヤツは、どいつだ」

 憎悪しか含んでいないサスケの瞳。いつものサスケはどこにもない。トモエもサクラも何も言えなかった。言いたくも、なかった。

 しかし、ザクが自ら言い出したのだ。「オレだよ!」などと、冷や汗を流しながらも、挑戦的な目で。
 その途端、より一層 鋭い視線がザクを突き刺した。勝てない、そうすぐさま理解したドスとは違う。むしろそんなドスに苛立つかのようにザクは怒鳴った。

 「ドス!!こんな死に損ないにビビることはねェ!」
 「よせザク、分からないのか!」
 「コイツら全員一網打尽だ、一気に片付けてやる!斬空極波ァ!!」

 ドスの忠告など聞く耳ももたない。ザクの攻撃は素早かった。一秒で印を組んだザクの両手の通気口から、先ほどの"斬空波"の比ではない空気圧は一気にサスケを、トモエを、サクラを、ナルトを、襲った。危険を感じて茂みに隠れた第十班にも影響を及ぼすほどの。

 やがてそれは止み、砂埃だけが辺りを舞う。静寂が漂った。やはり余程のチャクラを浪費する術なのだろう、ザクは息を切らしている。だがその視線の先に、サスケたちの姿は見えない。ザクは得意げに笑った。

 「バラバラに吹っ飛んだか」

 しかし、その余裕もほんの一瞬のことだった。


 「誰が」


 ザクの耳に低い声が届いた瞬間、ザクは背を殴られ吹っ飛んでいた。そこに立っていたのは言うまでもなく、サスケ。
 その後ろには横たえているナルト、座り込んでいるトモエとサクラがいる。起き上がったザクとドスは信じられないものでも見たような目でサスケを見ていた。あの一瞬で全員を抱え、尚かつザクに一撃を与えたというのか。

 「火遁 鳳仙火の術!」

 印を組み終えたサスケの口から何発もの炎が出される。ザクは舌打ちして起き上がり、すぐさま対抗して空気圧を発動した。しかし炎は消えたものの、それだけではなかったのだ。ザクは目を見開く。炎の中から現れた手裏剣がザクを襲った。

 「ザク!!下だァ!!」

 そして、ドスは手裏剣で傷を負ったザクに咄嗟に叫んだ。
 一気にザクの懐に入り抜け、その背中を足で押さえつけたサスケがいた。
 サスケの両手にはザクの両腕がしっかりと掴まれている。

 「クク......両腕が自慢らしいな、お前」

 心底愉快そうな笑みが、そこにあった。人を傷つけることになんの躊躇も覚えないというような顔。サスケの両手に力が加わる。
 ザクの肩が、みしりと、嫌な音をたてる。

 「や、やめろ......!」

 ザクの口から嘆願にも似た言葉が出た。しかし、サスケの笑みはただ濃くなるばかり。

 トモエは自身の背中に這い寄る悪寒を感じていた。駄目だ......駄目だ。
 敵を傷つけることが悪いのではない。そうじゃない、だけれど、今のサスケは───


 「やめて......サスケ!!」


 トモエの叫び声は、しかし、サスケの耳に届かなかった。


 ボキ、バキリ、ゴキリ___!


 耳を塞ぎたくなる程の残酷な音。腕と肩を離されたザクは何も言えずその場に落ちる。サスケをそれを冷たい目で見つめて、次の獲物を目に止めただけ。「残るはお前だけだな」と、サスケの赤い瞳がドスを睨んだ。


 「お前はもっと楽しませてくれよ」


 視線の先のドスは身動きをとることすらできない。

 サスケが一歩、一歩とドスへと近づいていく。その足はトモエの前をすっと、なんの未練もなく横切っていた。

 まだそれほど離れてもいないのに、トモエにはサスケの背がとても遠くに感じられた。今のサスケを、トモエは全然 知らない。いつものサスケがどこにも、見えない。
 サスケを必死に呼び止めるサクラも、怯えているドスも、今のトモエの視界には入らず、トモエはサスケの背にあるうちはの家紋だけを目に止めていた。
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