四十二

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 トモエは重い体に鞭を打ち、フラつく足取りでサスケに向かって走り出した。

 「もう、いい…!」
 
 ドスへの距離を縮めていた、サスケの腕をしがみつくように掴む。
 こちらを向いたサスケの眼は写輪眼に変化しており、呪印が顔全体に広がっていた。

 「トモエ、」
  「…もう、大丈夫だから…ッ」

 幼馴染がこうして自分に何かを懇願するのは、余程のことがない限りあり得ない。
すると、サスケの体を覆っていた呪印が徐々に引き、その反動のようにサスケは尻餅をつく。
サスケは驚いた様子で自分の隣にいるトモエを見る。

 それだけで十分だった。トモエの密かに笑う。トモエの背はゆっくりと、後ろへと倒れ始めた。
 「トモエ!」とそう叫ぶ仲間の声ももう遠い。トモエは最後に、自分の背を支えてくれた存在に気付いたけれど、襲ってくる疲労と睡魔は待ってはくれなかった。

 「どしたの?ネジ。珍しいじゃない、手を貸してあげるなんて」
 「手じゃない、足を貸したんだ」

 全てが終わった後。音忍たちが退き、ルーキーたちも方々に散った後。まだ体調が戻りきらないリーを看ながらテンテンはふいにそんなことを言った。
 テンテンが言った意味はトモエのことについて。あの時、トモエがクッションもなしに地面に倒れ込もうとした時、片膝でその体を支えたのは紛れも無くネジ。だがその当の本人は、何故か不愉快そうにしていた。

 「どっちでもいいわよそんなこと。なに、あの子になんか思うところがあるの?」
 「あるわけがない。ただの気まぐれだ」
 「ふうん?......フフ、綺麗だもんね、あのトモエって子」
 「いい加減にしろ」

  ネジは遂にテンテンを睨む。が、テンテンは「はーい」と笑いながら言っただけで悪びれた様子はない。
 ネジは溜め息をついた後、その肩をリーに貸しながら、タンっと地面を蹴った。

 ***

 『必殺!影分身、魚捕りバージョン!!』

 幾十にも同じ声が川辺に響き、それに続いてばちゃんと大人数が一斉に川に飛び込む音。そしてまた続くのは、クナイが刺さる音と、少し離れたところからはくすくすと笑う声。

 「全く。あんな大声出しちゃって、ナルトのヤツ。敵がやってきたらどーするつもりなのかしら」
 「クスクス、ナルトくんらしくて良いじゃないですか」

 岩の間から見えるナルトとサスケの魚捕り風景を横目に、トモエは笑いながらサクラに返した。
 時間は正午前後。お昼時である。ナルトとサスケは食材である魚を、トモエとサクラは火の準備を。とりあえず枝を集めておけば、サスケが火遁を使ってくれるという寸法だ。

 「火の用意ができたので、火遁をお願いします」
 「ああ。......とりあえず四匹でいいか」

 それまで保存用にもっと捕れだのなんだの言っていたくせに、トモエの手を引いてさっさと戻ろうとするサスケを見て、ナルトが怒声を張り上げたのは言うまでもない。

 ***

 ぱちぱちと燃える火の中で魚が焼けていく。
昼食をやっと始めた第七班。それなりに全員が腹を空かせ、待ちに待った食事のはずだった。しかし約一名を除いて、三人はなんとなく重苦しい雰囲気を放っていた。
 ナルトはただただ魚が焼けるのを心待ちにしているだけだが。

 「もう、四日目ですね」

 そう切り出したのはトモエ。言うまでもなく、それは第二試験が始まってからのこと。同じことを考えていたサクラが「そうね」と同調する。第二の試験開始は昼の三時頃。あと25、6時間しかないと、サスケも口にした。

 期限の半分はとうに過ぎた。これまでは大蛇丸戦や音忍戦で傷ついた体を癒すのに時間をあてていたが、そろそろ動かなければならない。半分を過ぎたということは、かなりの数が合格していてもおかしくはない。対となる巻物が手に入る確率も少ないだろう。
 それどころか。

 「もしかしたらもう、"天"の巻物は、ないかも......」
 「どういうことだ、サクラ」
 「だって、この第二試験、期限の五日間のうち、もう四日も経っちゃってるのよ?それって、試験のトータル時間の八割は使っちゃってるってことだし。...参加人数80人、26チーム。天地13本ずつしかない巻物......ただでさえ、合格は最大13チームでしょ?それに、トモエとナルトは知らないだろうけど」
 「?」
 「サスケ君は覚えてるわよね?大蛇丸ってヤツが、私たちの持ってた天の書を燃やしちゃったのを」

 トモエ達は音忍と戦闘後、二日間をチャクラと体力の回復にあて、試験から離脱していたのだ。
 ただでさえ26チームしか通過できないこの試験…全ての巻物が無事とも限らない。

 「次の敵が…ラストチャンスだな」

 四人の間に重い空気が漂う。

 「…水、汲んでくる」

 トモエは重い空気を断ち切るように、竹でできた水筒を手に取り立ち上がると、その場を後にした。
 その後ろ姿をじっと見つめていたサスケが、少し経ってから立ち上がる。

 「…俺も行って来る」

 そう言って同様にボトルを持って、トモエの行った道を歩き出した。

 ***

 木々の中を抜ける銀色。その目にちょろちょろと流れる小川が見えてきた。

 小さいため息を一つ。
 何度目になるのかわからないこの行為を続けながら、トモエは大きめの石に座り、ぼんやりと川の流れを見つめていた。

 (大蛇丸……一体、何者…)

 ――呪印

 ふとサスケの肩にできていた、模様を思い出す。本人から直接聞いたわけではないので、詳しいことはまだ分からないが、恐らくあれは大蛇丸につけられたもの。
 しかしサスケはまだトモエにこの事実を伝えてこない。

 「随分遅いな」

 考え事に没頭していたからだろう、背後の気配に全く気付けなかった。驚いて顔を上げると、そこには無表情でこちらを見下ろしているサスケの姿があった。

  「……何してたんだ」
  「別に…」

 数秒程二人同じように川の流れを見つめていた。ほんの少し、今だけは二人だけの時間が流れる。しかし、突然ガシャンとサスケの手から水筒が落ちた。見ると首筋を抑え、痛みに耐えているサスケ。

 「サスケくん…ッ」
 「何でもねぇ…」
 「どうして隠すんです……そんな嘘をつく必要がどこにあるんですか、…全く…相変わらずですね貴方という人は」
 「トモエ…?」
 「とっくに気づいていますよ、その呪印のこと…大蛇丸とやらにつけられたんでしょう?」

 トモエの言葉にサスケは目を見開いた。そして彼女から僅かに目を逸らす。

 「…お前に隠し通せるわけねぇか。異常に勘が鋭いもんな、トモエは」

 しばらく沈黙が走るが、最初に動いたのは意外にもトモエだった。何も言わずサスケに背を向け、元来た道へと一歩足を進める。
 そして、

 「……負けないで下さいね」
 「!」
 「そんな呪印に負けないでください、うちはサスケ」

 そう言いながら、トモエは再び歩み始めた。その彼女の後ろ姿を見て、サスケは小さく呟いた。

 「あぁ…負けねぇよ。


―――心配かけてごめん……でも、


 「ありがとう、トモエ」


 心配してくれてありがとう――
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