四十六

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 その後約束通り、サスケに連れ添うことになったトモエ。二人がカカシに連れられて来たのは、試合の音など全く届かないような場所だった。
 暗い廊下を進んだ先にあったのは、円を描くようにして書かれている封印式だった。ここに来るまで一言も話さなかった三人だが、目的の場所に着いた途端、カカシが後ろにいたサスケの方に顔を向ける。

 「んじゃ、サスケ服を脱げ」
 「は?」

 その言葉を聞いて、一気にカカシをギロリと睨みつけるサスケ。

 「上半身だけでいいから。ほら早く…」
 「ま、待てカカシ!どういう意味だ!!」

 カカシの言葉を遮り、サスケが声を荒げる。

 「何を恥ずかしがる必要があんの。あ、オレ、別にそんな変な趣味ないよ」
 「ちげーよ!アホ!そうじゃなくて……ッ」

 フルフルと震えながら、サスケはトモエをビシッと指差した。指を差された彼女の方は、何故かいつも通り笑顔でこちらを見ている。

 「あーハイハイ。そゆことね。トモエ、サスケが恥ずかしいそうだから、こっち見ないで欲しいって」
 「なッ!…オレはそういう意味で――「私は全然平気ですよー」

 顔を真っ赤にしているサスケだが、幼馴染の突然の爆弾発言に驚きを隠せない。

 「サスケくんの上半身ぐらいで、私は動揺しませんよー。だって、昔は一緒にお風呂入った仲じゃないすか〜。何をいまさら恥ずかしがる必要があるんです?面白い冗談ですねぇ」
 「……」
 「……サスケ、まぁ、そのなんだ。ドンマイ」

 目を点にしているサスケの肩に、カカシは優しく手を置いた。たった十三歳の少女が言う台詞ではない気がする、と男二人は同じことを思ったのだった。当の本人は意図が読めないのか、首を傾げていたが。

 
 封印には、思っていたよりも激痛が伴った。
儀式が終わった後、荒い息のサスケにカカシがふぅ、と息を吐く。

 「今度もしその呪印が再び動き出そうとしても、この封邪法印の力がそれを押さえ込むだろう」

 労るように膝をついたカカシをサスケは横目で見る。

 「ただし......この封印術は、サスケ。お前の意志の力を礎にしている。もしお前が己の力を信じず、その意志が揺らぐようなことがあれば、呪印は再び暴れ出す。心得ておけ」
 「......」

 カカシの言葉が終わると同時に、サスケの体が前に倒れる。それを見越していたのか、いつの間にか傍にきていたトモエが床にぶつかる前にサスケを支え、ゆっくりと横たわらせた。
 封印の衝撃は強いとはいえ、それだけで倒れるほどサスケは柔じゃない。よほど疲労していたんだな、とカカシは苦笑した。

 「封印の法術まで扱えるようになったなんて…成長したわね、カカシ」

 ゾクリ、とカカシの背筋に寒気が走る。トモエもハッとしたように目線を向けた。
 いつの間にこの部屋の扉の場所に立っている人物――大蛇丸は、ニヤリを笑みを浮かべていた。

 「大蛇丸…」
 「悪いけど、カカシ君には用ないのよ。あるのは、その後ろの子……ついでに、トモエちゃんもね」
 「…っ!」

 トモエは大蛇丸と目が合うと眉を寄せ、慌ててサスケを腕の中に収める。一目見て恐怖を覚えたのか、珍しく彼女の腕は震え、声も出ていなかった。

 「…なぜサスケとトモエをつけ狙う!」

 後ろにいる二人を庇うように、カカシが大蛇丸の前に立つ。大蛇丸はそれに動じず、相変わらず薄気味悪い笑みを浮かべていた。

 「私も欲しいのよ…うちはの血がね」
 「目的は何だ…!」
 「…最近出来た音隠れの里…アレは私の里でね…これだけ言えば、分かるわよね」

 カカシは大蛇丸の言葉に、僅かに顔を顰める。

 「くだらない野望か…」
 「まぁ、そんなようなものね…で、その為には色々…いいコマが必要なのよ」

 カカシの顔が険しくなる。殺気を漂わせながら、カカシは低い声で大蛇丸に問いかけた。

 「サスケ…それにトモエも、そのコマの一人ってわけか」
 「違うわよ…そのサスケ君とトモエちゃんは、優秀な手ゴマ…今戦っている彼らは、ただの捨てゴマよ」

 言葉を紡ぎながら、大蛇丸はゆっくりとカカシとの距離を縮める。カカシはそれに気付くと、すぐさま片手に千鳥を発動させた。

 「二人にこれ以上近付くな…今の俺なら、アンタと差し違えることくらいが出来るぞ…!」
 「くくっ…ククク…クハハハハッ!」

 突如、笑い出す大蛇丸。その笑いを急に止めると、彼は再びカカシを見据えた。

 「すること、言うこと…全てズレてるわね」
 「何!?」
 「そんな封印しても、何の意味もないわ…分かるでしょ、目的のため…。どんな邪悪な力であろうと求める心…サスケ君は、その資質の持ち主…復讐者なのよね」

 一旦言葉を切り、また言葉を続ける。

 「それに比べて…トモエちゃんは不思議よね」
 「!!」

 突然、大蛇丸に話しかけられ、トモエはサスケを抱きしめる腕に力を入れた。

 「サスケ君と同じ境遇にいるのに、アナタはサスケ君とは違う…。
 復讐なんてこと、全く望んでないのね…」

 その言葉に、トモエが目を見開いた。サスケとトモエの過去については、カカシも十分知っている。だからこそ、二人の成長が少々不安なところもあった。

 「自分の親を殺されたのに…どうして何も思わないのかしらね。幼いころの記憶だから、もう親の顔なんて――忘れちゃったのかしら」

 「黙れッ!!」

 トモエの悲鳴にも近い叫び声。彼女がこれほど怒りを露わにすることなど、ましてや人前で、今までなかったことだった。
 しかし大蛇丸は口端を上げ、さらに言葉を続けた。

 「本当は憎いんじゃないの?」
 「トモエ!ヤツの言葉に耳を貸すな!」
 「自分の親を殺した"彼"のことが……。
 ねぇ、心から“慕っていた人”に裏切られる気分って、どんな感じ?」
 「…ッ五月蠅い…!」

 パキパキ、と地面が凍っていく音がする。トモエは無意識に自分の力を制御できなくなっているのだ。気体にある水分が冷たく凍っていく。

 その彼女の様子に、ペロリと大蛇丸の長い舌が彼の自身の唇を舐め上げる。

 「ククク…本当に良い才能を持っているわね。恐らくトモエちゃんは自分でも思っている以上に――

 “過去”から逃げられない。

 だから、サスケ君が私の元に来れば…貴方も一緒に来ざる得ない」

 まるでトモエの心を見透かしているかのように、大蛇丸は話す。

 「…お前は、うちはだけでなく、雪箆の力も欲しいってことか?」
 「ご名答。その通りよ…特にトモエちゃんはその歳でもう、雪一族の血継限界の力を殆ど操っている。もう少しすれば上忍にだってなれる資質の持ち主」
 「ッ…だがサスケもトモエも、」
 「いずれ、二人は…特にサスケ君は、必ず私を求める。力を求めてね…!!」

 そう言って、大蛇丸はその場を去っていった。大蛇丸の後ろ姿を横目に、カカシは背後で眠るように倒れているサスケと、その彼を膝に乗せ俯くトモエに目を向ける。

 「…トモエ」
 「……忘れてなど、ない…」

 震えたような声が聞こえた。するとトモエは一筋の涙を流し、その雫はサスケの頬に落ちた。

 「…忘れてなんか、いない…ッ…悲しく、ないわけ、…ない…。
 
 父さんのこと……今だって、ずっと…ずっと……本当はッ…」


 【イタチさんを…許してあげなさい】


 【ある男を必ず、殺すことだ】

 
 トモエの脳裏に、
 “彼を許せ”という父と――“彼を殺す”という幼馴染の姿が過っていた。


 人知れず涙を流すトモエ。いつも冷静で感情など人前では見せない、とても忍らしいな、そう思っていたが…それは自分の大きな間違いだったらしい。

 「今は泣いとけ…」

 それだけ言うとカカシはトモエの頭を肩に寄せ、優しく手を置いた。
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