四十八

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 ナルトが病院に運ばれて数日後、修行を終えたトモエはまた彼のお見舞いに向かっていた。いよいよ明日が本選だというのにナルトは目を覚まさない。

 見舞いにも行ってみよう、そう思い立ったトモエはいのの実家であるやまなか花屋に寄ることにした。

 「こんにちは」
 「いらっしゃい…て、トモエじゃない。どうしたの?」
 「ナルトくんのお見舞いに行こうと思いまして。そういういのさんこそどうしたんです?その果物」
 「チョウジが焼肉食べ過ぎて入院してるのよー全くバカよねぇあいつ。それで私も今からお見舞い行くとこ。よかったら一緒にどう?」

 トモエはいのに待って下さいね、と声をかけガーベラを三本購入した。淡い色合いでとても綺麗だ。

 「なんで三本?」
 「チョウジくんとナルトくん、そしてリーさんの分です。まずはいのさんと一緒にチョウジくんのところに顔を出しましょうか」

 ガーベラの花言葉は以前図鑑で調べて知っていた。今の彼らにぴったりな言葉。「希望」そして「常に前進」だ。

 ***

 「この前サクラとサスケくんのお見舞いに来た時にリーさんのこと見たけど、だいぶ良くないみたいよー。それでも修行してたけどね」

 トモエといのは病院に着きチョウジの病室に行く道すがらリーの話をした。リーが忍を諦めなければならないほどの怪我だと知っているにも関わらず決して互いにそれを口には出さなかった。
 彼の前向きな姿勢を自分たちだけでも認めていたかった。きっと彼は良くなる。そうでなければあまりにも酷だ。

 「あ、トモエここよー。チョウジの病室」

 いのはそういうと病室の扉を数回ノックし中へ入り、その後ろからトモエも続いた。

 「チョウジー良くなったー?」
 「あ!いの!トモエ!」

 そこには思っていたよりも元気そうなチョウジの姿があった。随分退屈していたようで2人を見たチョウジは満面の笑みを浮かべている。そしていのの持ってきたフルーツの盛り合わせを見つけると飛びかからんばかりの勢いで「はやく皮を剥いて食べよう!」と催促した。

 「なによー心配いらなかったじゃない。トモエも食べるでしょ?私カットするわよー」
 「ふふ、私はチョウジくんの元気な顔を見られただけで充分ですよ。これから他の人のお見舞いにも行きますし、それは二人で食べて下さい。あ、チョウジくん、これ、私からはお花です」

 トモエは持ってきたガーベラを一本花瓶に刺し「お大事に」とチョウジに言った。彼はそれにニコリと微笑んだが、すぐにあ!と叫びトモエの手を掴んだ。

 「そういえばさっきシカマルが来たんだ!ナルトのところに行ったみたい。最近トモエが修行で忙しくてなかなか会ってないって話してたからよかったら顔見せてあげてよ」
 「シカマルくんがそんなこと言ってたんですか?珍しいですねぇ。丁度ナルトくんのところにも行くつもりだから今から顔を見に行きますか。ありがとうチョウジくん。それじゃあまた。いのさんもここまでありがとう」

 トモエは二人に手を振り病室から出て行った。
 二人だけになった病室で、チョウジは相変わらずフルーツの盛り合わせを見つめている。
いのはその山の中からリンゴを選び丁寧にカットしていく。

 「…あんたたまには気の利くこと言うじゃない」
 「シカマルのこと?ボクだってバカじゃないんだ。友達には幸せになってほしいよ」
 「あんたはバカじゃなかったとしても、当の本人が自分の気持ちにはっきり気付けてないみたいなんだけどねー」
 「シカマルはそういうとこ鈍いからね」
 「ね。まったくこっちがイライラするわよ。…ところで今更だけどあんたフルーツ食べていいの?」
 「………………食べる」
 「はぁ…おあずけねー」
 
 いのは呆れたようにカットしたリンゴを一人で食べ始めた。隣でチョウジがシクシクと悲しんでいるがまるで無視している。
 病室にはリンゴかガーベラか、とても爽やかな香りが満ちていた。

 ***

 「二人ともどこに行ったんですかねぇ…」

 ナルトの病室に着いたトモエはもぬけの殻になっているベッドを見てそう呟いた。
 昨日まで目を覚まさなかったナルトがようやく回復し二人で散歩にでも行ったのだろうか。
 トモエはナルトの花瓶にもガーベラを一本刺し、とりあえずまずはリーに会いに行くことにした。

 スタスタと廊下を歩きリーの病室の前まで行くと中から声がする。

 「てめー!ゲジマユに何しようとした!」

 トモエは思わず扉に伸ばしていた手を止めた。今のはナルトの声だ。何故かはわからないがその声からは焦りがうかがえる。

 「殺そうとした」

 それに答えたのはとても冷たい感情のない声。聞き覚えのある、我愛羅の声だった。

 「何でンなことする必要がある?」

 次にきこえてきたのはシカマルの声だった。
 どうやら我愛羅がリーを殺そうとしていたのをナルトとシカマルが阻止したらしい。
 トモエはそう理解すると自分が出て行くことで余計に場を荒らさないようとりあえず様子を伺うことにした。誰かに危害が加わるようなことがあればすぐに行動できるようにと右手にはクナイを構えている。

 それから繰り広げられた会話は思わず耳を塞ぎたくなるようなものだった。

 我愛羅は最強の忍となるべく父親の忍術で砂の化身を取り憑かせた状態で生まれ落ちたこと。
 最初は過保護に甘やかされ育ってきたこと。
しかしあまりにも強大な力故に周りからバケモノと恐れられるようになり、実の父親から幾度となく暗殺されかけてきたこと。

 「家族とは憎しみと憎悪で繋がるただの肉塊だ」

 そう言い切った我愛羅は更に続けた。周りの勝手な都合で得た力のせいで殺されそうになる自分は何のために生まれてきたのかわからなくなってしまったということを。

 やがて彼はこう結論付けた。
 「自分は自分以外の全ての人間を殺すために存在しているのだ」と。
 自分の為だけに戦い、自分だけを愛し生きる。他者は自分に生きている喜びを感じさせてくれる為に存在しているのだ、と。

 「殺すべき他者が存在し続ける限り俺の存在は消えない」

 我愛羅は今どんな顔をして話しているのだろうか。トモエはクナイをしまい扉を開けた。

 「っ!?トモエ来るな!」

 トモエに気付いたシカマルが思わずそう叫んだ。ナルトは我愛羅の話から自分にも共通する孤独さを感じたのか、ただ立ち尽くしてしまっている。

 我愛羅はトモエを見ると一瞬顔を歪めたがすぐに空気中の砂を操りそれを彼女の身体に纏わり付かせた。

 「…お前から死ね」

 我愛羅は冷たく言い放った。しかしトモエは抵抗もず彼の目を見つめている。我愛羅はまた顔を歪めズキンと頭が痛むのを感じた。

 「おいやめろ!トモエ!」

 シカマルが慌ててトモエの元に駆け寄ろうとした時、そこまでだ!と大きな声が響いた。

 扉を見るとそこにはリーの担当上忍であるガイが立っていた。

 「本選は明日だ。そう焦る必要もないだろう。それとも今日からここに泊まるか?」

 我愛羅はガイの姿をみるとさっき以上に痛みだした頭を抱え、フラフラと扉に向かう。

 「お前たちは必ず俺が殺す…待っていろ…」

 我愛羅は全員を睨みつけ病室から出て行った。咄嗟にシカマルがトモエに駆け寄った。

 「…怪我してねぇか?」
 「…大丈夫。ちょっと驚いちゃっただけですよ」
 「トモエごめん…俺ってば、お前を助けらんなくて…」
 「謝る必要なんてないですよナルトくん」

 トモエは気付いていた。きっとナルトは我愛羅の気持ちが少し理解できてしまったのだということに。得体の知れないバケモノを身体の中に宿しているという共通点、それは本人同士にしかわからない苦しみがあるのだろう。ナルトを責めることなんてトモエにはできなかった。
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