五十一

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 「そのはしゃぎ様からして…一回戦、勝ったのか?」

 サスケがナルトにそう尋ねるとナルトは誇らしげに「もちろん」と答えた。サスケもどことなく嬉しそうに見える。

 カカシもそんな様子を微笑ましく見守っていたが、ハッとしてゲンマに質問をした。

 「こんだけ派手に登場しちゃってなんだけど…もしかしてサスケの奴失格になっちゃった?ホラ遅刻したでしょうサスケ…」
 「アナタの遅刻癖がうつったんでしょ!?ったく!」

 ゲンマの言葉をきいたカカシは気まずそうに頭をかいている。

 「で…どうなの?」
 「…大丈夫ですよ!サスケの試合は後回しにされました。失格にゃなってません」
 「アハハ…そりゃ良かった!良かった!」

 そんな彼らを我愛羅が冷たい目で見下ろしている。サスケもそれに気付いたのか、二人は互いに睨み合う。

 「あんな奴に負けんじゃねーぜ!」
 「ああ…」

 サスケはナルトの言葉にはっきりと答えた。そしてナルトは更に続ける。

 「俺も…お前と闘いたい……!」

 真剣な眼差しだった。それはまさにライバルにむけられるもの。最早サスケもナルトを認めている。「…ああ」とサスケが答えるとナルトは嬉しそうに笑ってみせた。

 「サスケ…」

 トモエはサスケをみて安心していた。やはりカカシと修行していたのか。

 「トモエー俺も久々会うんだからちょっとは喜んでよ」
 「わー先生お会いできて嬉しいですー」
 「わぁ棒読みだぁ」

 ***

 「意外と長い階段だね…」
 「ほらトモエちゃんもシカマルも急ぐってばよ!」
 「人生慌てたってろくなことねーぞ」

 そんな会話をしていた三人だったが、ナルトが妙な気配を感じとった。

 トモエとシカマルもようやく気付いたようで慌てて息を潜める。
 すると本選出場者の控え室と試合会場を繋ぐトンネルの方から、グチャ、ズチャっと何かを握りつぶすような音が聞こえる。そして生臭い血の匂いが漂ってきた。

 目を凝らして見ると、トンネルに二人分の死体が横たわっている。バカな男たちだ、彼らはこのトーナメントは賭け試合にうってつけだと、事もあろうに我愛羅にわざと負けるよう八百長を持ちかけてしまったのだ。

 しばらくするとトンネルの中から我愛羅が出てきた。服には所々血がついている。段々と自分たちに近付いて来る我愛羅に三人は身動きが取れないでいた。
 ドクンドクンと心臓の音だけが耳を支配する。

 いよいよ三人の間を我愛羅が通り抜けようとしたとき、トモエがぴくりと動いた。

 「我愛…!!」

 彼に駆け寄ろうとしたはずの身体は全く動かず、我愛羅は振り向くこともせずに試合会場へと消えて行った。

 「ふ〜〜〜」

 ナルトとシカマルは思わず階段に座り込む。しかしシカマルはすぐにトモエに詰め寄った。

 「お前なに考えてんだ!アイツに何しようとした!」
 「…分かりません、だけど勝手に身体が動こうとして…」
 「ったく…ギリギリ影真似の術でお前の動き止められたんだからな」
 「……ありがとうございます」
 「それにしてもあんなに躊躇なく人を殺す奴初めてみた…サスケでもヤバイぞこりゃ…」

 自分では我愛羅を救うことなんてできない。いや、そもそも救うなんて考えるのはおこがましいことだったのだ。
 それでもどうにか彼を変えたかった。というよりも本来の我愛羅を見せて欲しいという思いが消えない。何故だかわからないが彼は本当は慈愛に満ちた人物だと思えてならないのだ。

 「(我愛羅…サスケ…)」

 トモエは震える手をぎゅっと握りしめた。

 * * *

 カカシは試合が始まる前にサクラ達の元へ向かった。
 彼はガイに連れられたリーを見て、身体の具合は大丈夫なのかと尋ねる。その声でサクラはカカシに気付いた。

 「(あーあ…怒るわよサクラ…)」

 いのがそう思うのも当然だ。サスケが病室から消えたことでどれだけサクラが心配していたことか。カカシと修行していたのならそう連絡してくれてもよかったではないか。

 しかしサクラはその件について一切言及しなかった。それよりもサスケの首元にあったアザのことが気になって仕方ない。

 「カカシ先生…サスケくんの首にはアザがあったでしょ…アレは…」
 「心配ないよ」

 はっきりと言い切り微笑んだカカシを見てようやく安堵したサクラ。
 そしてカカシはサクラと話しながらも、会場に配備された暗部の少なさに疑問を感じていた。

 「この広い会場に暗部8人…2小隊とは少なすぎる。火影様はどうするつもりだ」
 「イヤ、相手の出方がわからん以上暗部は里の主要部にも分散し配備せざるを得ないのだろう」

 密かに相談し合うカカシとガイに誰も気付くことはなかった。

 * * *

 「始め!」

 緊張が高まる中、開始を言い渡されたサスケと我愛羅の試合。
 初めから警戒しているサスケはすぐさま臨戦態勢に入り、対戦相手を注意深く射止めている。対して我愛羅は開始から一歩も動いていない。ただ、我愛羅の背負うヒョウタンから出ている砂が徐々に増えていた。

 「そんなに、怒らないでよ......かあさん」

 前触れもなく呟いたのは我愛羅だった。その声を耳にできた誰もが耳を疑う。我愛羅の血走った目がサスケを捉えている。
 砂はまだ動き出さない。まるで我愛羅を護るように囲っているだけだ。そのわりに我愛羅は何故か苦し気に。

 「さっきはまずい血を吸わせたね......ごめんよ......でも、今度はきっと、美味しいから...!」

 どこにもいない"かあさん"にぶつぶつと話し続けている。だが、その"かあさん"に献身的な言葉を吐く割りには、我愛羅の苦しみは増しているように見える。数秒後には一層苦しそうな声を上げていた。
 砂が一旦、舞うようにして地面に落ちた。それが引き金となったのか、我愛羅の瞳に本人の意思が戻ってきたようだった。暗い瞳が確かにサスケを映す。

 「...来い!」

 サスケは足下の土を均した。

 * * *

 階段には未だ動けずにいるトモエ達がいた。茫然としていたさなか、シカマルが口を開く。

 「あいつと病院で会った時のこと覚えてるか?あいつあの時『お前たちは必ず俺が殺す…待っていろ』って言ってたろ…でもさっきそうしなかった」

 絶好のチャンスだったにも関わらずだ。彼らのことなど我愛羅の目にも入っていないようだった。

 「俺たちじゃ…物足りねーんだ」

 他者を殺すことでだけ自分が生きている意味を感じることができると言っていた我愛羅。今彼に生を感じさせることが出来るのはサスケなのだろう。

 ナルトは自分の身体が震えているのがわかった。

 「あいつ…一体何考えてるんだろうな」

 トモエはそう話すシカマルを見つめ、何故かこぼれ落ちそうになる涙をこらえた。

 「…我愛羅くんは助けて欲しいのかも知れない」
 「はあ?お前何言って…」
 「きっと彼は本当は…」

 そう言いかけたトモエだが、その先の言葉が見つからなかった。自分は何と言いたかったのだろう。
 トモエはその答えを探すように我愛羅達が闘っている試合会場へと繋がる通路を見つめた。
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