トモエとシノ、テマリとカンクロウの四人がいるその場所は、二つの緊張感に満ちていた。ナルトとシカマルは未だに上ってきていない。
一方のトモエとシノ側には、階下の雰囲気がそのまま伝わってきていた。トモエには両者に謎を感じているわけではない。サスケの行動の意味は解っている。しかしそれでもその額に汗が滲み出ている。
ただし、シノには解らない。
「今の状況を脱する手があるのか。サスケの顔を見る限り、切羽詰まった様子には見えない。何かあるらしいな」
「はい。サスケくんが習得したものはスピードだけじゃない...というより、リーさんのコピーは準備段階なんだと、カカシ先生は仰っていました。今までの彼にはなかった戦法ですね」
それが果たして我愛羅に通用するのか。トモエも顛末までは予想できない。だが恐らく、今の均衡状態は破れる。「それで、良い方向に転べばいいんですが...」とトモエはぽつりと呟く。
それを拾ったシノは、すぐさま「無駄に心配性だな」と返した。シノにしては珍しく茶化すような言い草だった。思わず階下からシノへと目線を移したトモエは、それでも真面目な表情を崩す事はないシノに、逆に可笑しくなってしまった。
だが、僅かに和らいだ雰囲気に水を差す声があった。
「チッ。ああなったら何しても駄目じゃん...」
「計画どころか、無茶苦茶にするつもりか!?我愛羅のヤツ!」
明らかに穏やかではない会話が、トモエとシノの耳に届いた。
二人は気付かれぬように横目でそちらを見る。テマリとカンクロウが冷や汗を滲ませてまだ何かを言っている。会話内容はどう考えてもこの試験のことではない。
「.....何の話ですかね」
「あまりいい雰囲気ではないことは確かだな。それに......気付いてるか、トモエ。この試験が開始した時からあった周囲の違和感」
トモエとシノは極限にまで声を潜めて囁き合った。テマリとカンクロウは気付いていないようだ。
シノの問いに、トモエはふっと向かい側の観客席のほうを見た。戦況に動きがないことにブーイングをしている観客たちが大勢いる。この騒がしい空間だからこそ目立つものは、トモエも薄々感じていた。
「......やはり、多いですね」
「ああ。一人や二人は最低限かもしれないが、ただの試験にしてこの暗部の人数は大掛かりすぎる...」
暗部独特の無音はこの騒ぎに馴染めていなかった。
「何かがある...そう考えるのが妥当だな。もしかしたらそれにヤツらが関わっているのかもしれない」
ヤツら、と言うところでシノは僅かに首をテマリとカンクロウのほうへ傾けた。
「杞憂で終われば一番いいが」
「...そうですね。気にはなりますけど、今 動くのは得策じゃない…」
「何かがあるというのならこの試験の最中なのだろう。ここにいればオレたちも出れる。とりあえず今は成り行きを見ているしかない。杞憂で終われば一番いいが、な」
二度目の同じセリフにトモエはこくりと頷いた。その目がもう一度 砂の兄妹を気にしたが、やはり気付いている様子はない。トモエの手すりを掴む力が強くなった。今はサスケと我愛羅の試合が最も気がかりなのは確かだった。
その時、サスケの長い集中が、終わった。
サスケは瞑っていた目を徐々に開いていく。どんな隙も逃さない鋭い紅い瞳が砂の球体を突き刺す。確かな変化はその左手にあった。
目に見える程の高密度のチャクラがその手を覆っていた、それだけではない。ゆっくりとではあったが、そのチャクラが性質変化を起こし始めていたのだ。
ーーチリ...チリヂリヂリ......
サスケの第二の基本性質、"雷"へと。
サスケの唸るような声に応えるようにそれは強く、激しくなっていく。青白く光り、小さな雷が集まり出す___。
「あれは...?」
サスケが修行で得た技、それは"千鳥"というカカシのオリジナル技だった。
千鳥は視認できるほどの膨大なチャクラをうむ肉体活性と、体術を極めスピードを高めたことで、ただの突きを暗殺用のとっておきの技へと昇華させたものだ。
サスケは、電の迸っている左手を大きく振り上げると、そのまま壁を伝って駆け出した。初めは小さな存在感であった雷はいつしかうるさいまでの音をあげ始める。まるで千羽もの鳥が一斉にさえずってるように。
サスケは全速で我愛羅へと向かっていく。我愛羅を隠す砂の球体を破壊するために。その間も言うまでもなく、第三の目がサスケの動きを捉えていた。だがサスケを追い返そうとする砂の刃はサスケには届かない。
ーーーその瞬間、サスケの左腕が球体の中へと侵入した。
独特の音を奏でながら放たれた"千鳥"は、砂に当たると同時に今までで最も高く唸りを上げた。
サスケの左手に纏う千鳥は徐々に小さくなっていった。千羽の鳥のさえずりが消えた。サスケはそれでも暫しじっと球体の中に腕を沈めていた。反撃も、我愛羅の叫び声でさえ、一切ない。
「(どうなってやがる...)」
心中で思ったその瞬間、サスケの背筋は凍った。
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