五十四

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 "...なに......この、あったかいの..............."


 ーーー我愛羅はその闇の中、何かこの世のものではないものを見るような目で、自身の白い手に落ちる"生暖かいそれ"を眺めていた。サスケの攻撃は届いた。
 それは我愛羅にとって、幼い頃以来 一切目にしたことのないものだった。これからも目にするはずのないものだった。

 「うわぁァアアッ!!血がァッオレの血がァああアアアア!!!」

 今度こそ我愛羅の叫びは会場内に響き渡った。会場内にいる全員が目を丸くする。未だに突き刺していた手をサスケは迷わず引き抜こうとするが、簡単に抜けないことに気付いたのはこの時が初めてだった。身の危険を感じたサスケは手段は選ばなかった。

 「この...ッ」
 
 再び小さな千鳥が鳴き喚いた。悲鳴があがる。砂の力が抜ける。一瞬の隙でも見逃さない。サスケは今度こそ、自分の腕を取り戻した__が、後ろに飛び退いたサスケを追うように、"それ"は現れた。

 「な...ッ」

 腕。"それ"は確かに腕だった。黄土色をした、巨大な、腕。凶暴な爪が逃げるサスケを捕まえようとする。とても我愛羅のものだとは思えない"それ"が。

 サスケは危機を脱し、"それ"から間一髪のところで逃れた。"それ"は諦めたように球体の中に戻っていく。我愛羅が未だに閉じこもる球体へと。

 トモエが手すりを握りしめる力が強くなる。サスケと砂の球体を交互に見やり、下唇を噛み締める。

 「(今のは、何......?)」
 
 トモエとシノが考えていたことはほぼ同一だった。だが、シノはその冷静さ故に、距離をとったところで観戦している二人の会話内容も聞き取っていた。

 「完全憑依体になったのか!?」
 「分からない...傷ついてるみたいだし、今までこんなことは...!」

 砂の球体には今や穴が一つ空いていた。サスケが千鳥を灯して突き刺した場所だ。冷や汗を流すサスケはその穴の奥をじっと見つめていた。暗いが、中で何かが動く様子だけは見える。そして不気味な音も聴こえていた。その正体ははっきりとは知れない。だが一つだけ確かなのは、人間が出せる声ではないことだ。

 唐突にサスケは"何か"を穴の奥から感じた。だが、あっさりとその球体は徐々に見る影もなくなっていき、砂が風に撒かれて消えていった。
 現れたのは我愛羅。酷く血走った目で睨みをきかせているが、それでも人間である我愛羅だった。先ほどの太く大きな腕やサスケが感じた"何か"は決して今の我愛羅のものではなかった。

 もっと違う何かが、そこにはあるはずだったのだ。


 会場内はふっと静かになった。
 騒がしかった観客達も異常な雰囲気に呑み込まれたのかもしれない。
 息を呑む音がそこら中で聴こえていた。
 それでも、観客達はそれ以上のことを想像できるはずもなかった。

 観客達の注目するものが変わった。その時 上空から降ってきたのは、数多の白い鳥の羽根___

 「…!?」

 羽根はトモエとシノの前にも現れていた。確かなのは、これがサスケや我愛羅の術の影響のものではないことだった。
 くら、と一瞬よろけたのはトモエもシノも同時。だが二人の"忍"はすぐさま片手印を組んだ。

 「「解!」」

 途端、パンッと弾かれるようにして、羽根はトモエとシノの前から遠ざかった。二人を襲った立ち眩みももうない。
 二人は言葉を交わす前に瞬時に状況を確認するーーー既に半分以上も眠っている観客、声を掛け合う木ノ葉の忍たち、動き始めた何人もの暗部、慌てていない"隣の二人"。

 「どうやら......予期していた何かが起こってしまったようだな」

 小さく言ったシノにトモエはこくりと頷いた。それからトモエはハッとして手すりから身を乗り出し階下を見た。だがサスケと我愛羅の様子は何も変わっていない。
 トモエは安堵し息を吐いた、しかし、異変はそれだけではすまなかった。

 盛大な爆発音。

 トモエ、シノ、更には階下のサスケでさえも目を見開いて、音の方向を見た。煙が盛大に出ている、その場所はーー里長が観戦していた塔。

 「三代目…!」

 トモエは呆然として呟いた。酷い煙のせいで中の様子は見えない。トモエの唇は震えている。
 シノだけは"砂"の兄妹が呟いた言葉を拾っていた。作戦開始、と。
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