六十一

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 翌日、木ノ葉は雨に見舞われた。
 三代目火影、猿飛ヒルゼンの葬儀のために集まった人々はその雨に濡れながら彼を偲んでいる。

 トモエは皆と同じ葬儀の場にはまだ居なかった。少し離れた所にある里の忍達が眠る墓場に来ているのだ。

 「トモエ…?」

 墓の前でしゃがみこんでいると、背後にカカシが立っていた。傘もささずに濡れてしまっているが、それはトモエも同じだった。

 「トモエ…三代目の葬儀はもう始まってるぞ」
 「…もうそんな時間なんですね。朝早く来たのに、ここに来るといつも長居してしまって」

 トモエはそう微笑み墓碑に刻まれている母親の名を指でなぞると、持ってきた花束を供えそっと手を合わせた。

 「雪箆アラレ…母の名をなぞるといつも不思議な気分になります。どんな人だったのかな、って。母は私のことどう思っていたんでしょうか」
 「…お前の母は俺の師の友人だった。師が言ってたよ、とても勇敢な人だと」

 トモエはそれがカカシの慰めかもしれないと思いはしたが、それよりも嬉しさの方が勝った。
 涙が出そうになるのを堪えながら、トモエは記憶にはない母を想った。しばらくそうしていると、カカシがトモエの横にしゃがみ込んだ。

 「…カカシ先生をたまにここで見かけていました。悪いかと思って声はかけませんでしたけど」
 「あら、そうだったの。…実は毎日来てるんだ、朝早くにね。昔友人を亡くしたことがあって、…このオビトってやつなんだけど」

 カカシが指差した場所にはうちはオビトと刻まれている。うちは、サスケと同じだとトモエは思った。

 「大事な人だったんですね」
 「うん…でも、ここに来るたびに昔のバカだった自分をいつまでも戒めたくなるんだ」

 ふと隣を見ると、カカシが悲しそうな顔をしている。
 トモエは何も聞かず、そっとカカシを抱きしめた。彼は一瞬驚いた顔をしたが、やがて片腕でトモエを抱きしめ返した。

 「先生、人が死ぬって辛いことですね」
 「そうだな…俺はトモエ、お前も含めもう誰も死なせたくないよ」
 「私は死にませんよ。強くなって、カカシ先生、あなたまで守れるくらいになるんですから」

 カカシは嬉しそうにうん、とだけ頷き、自分の友人と師の友人に手を合わせた。

 そんな二人の様子を、二人が気付かない位置で自来也が見ていた。明るい顔をしているが、死を悼む二人を見たせいでどうしても三代目のことを思い出してしまう。

 自来也がトモエ達と同じくらいの歳だったころ、ヒルゼンは自分たちの師匠だった。ヒルゼンはいつも優秀な大蛇丸と自分とを比べ、その度にムッとしたのを覚えている。
 それでも、ヒルゼンは自来也を見捨てることなく側で見守り育ててくれた。時に覗きなどバカなことも一緒にやった。

 全てが、大切な思い出だ。

 自来也はヒルゼンの葬儀に向かうカカシとトモエを見送ると、下を向き目を瞑った。



 黒の装束に身を包んだ参列者達は皆暗い顔をしている。
 ヒルゼンの孫である木ノ葉丸はさっきから涙が止まらないようだ。木ノ葉丸の隣に立つイルカはその泣き顔を見ながら幼い頃ヒルゼンに言われたことを思い出していた。
 両親が殉職してしまったイルカはアカデミーでは明るく振る舞いながらも、一人になると孤独感に苛まれしょっちゅう泣いていた。そんな時、ヒルゼンが現れ彼に言葉をかけた。里を守ろうとする強い意志、火の意志を持つものは家族そのものであると。家族のいない自分を、家族だと言ってくれたヒルゼンの優しさ。
 
 彼は、本当に立派な火影であった。

 イルカはそっと木ノ葉丸を抱きしめた。

 「イルカ先生…何で人は…人のために命をかけたりするのかなぁ…」

 ナルトがポツリと呟く。三代目火影は木の葉の皆を守るために死んだ。

 「人間が一人死ぬ…過去や今の生活、そしてその未来と一緒にな…
 たくさんの人が任務や戦争で死んでゆく…それも死ぬ時は驚くほどあっさりと、簡単にだ」

 死は無を意味する。

 「死にゆく者にも夢や目指すものはある…しかし、誰にもそれと同じ位大切なものがあるんだ。
 自分にとって大切な人達…互いに信頼し合い、助け合う。生まれ落ちた時からずっと大切に思ってきた人達との繋がり…そして、その繋がった糸は時を経るに従い、太く力強くなっていく…大切だから…」

 「うん…なんとなく俺にも分かるってばよ…でも、

 ―――死ぬのは辛いよ」

 「三代目だって、ただで死んだわけじゃない。ちゃんと俺達に大切なものを残してくれてる…いずれお前にも分かるようになるさ」

 「うん、それもなんとなく分かるってばよ…」

 カカシの言葉にナルトは力強く頷いた。


 あんなにも降っていた雨が止み、どんよりとした雲が漂っていた空には太陽の光が差し込んだ。



 木の葉舞うところに火は燃ゆる

 火の影は里を照らし

 また、木の葉は芽吹く

 三代目が小さな木の葉達に残した火種は、やがて強く大きく燃え、またこの里を照らすだろう
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