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 演習場の森の中。慣れない地形を歩きながら周囲を見渡すトモエ。その脳内を駆け巡っているのは第七班(仮)のメンバーの二人だった。

 「(サクラさん、大分動揺していたみたいですし.....きっと彼のところへ向かったんでしょうね。あの人に何かあったのかな)」

 サスケの実力はよく知っているとはいえ、気になる。と思って、カカシがいないのなら他にすることもないためにトモエはずっと仲間の姿を捜していた。

 だがちょうどその時、ぞくりとトモエの背筋に冷たいものが走った。

 「人のことばっか考えてないで、まず自分の事でしょ」

 トモエは咄嗟に目を開き、印を組んでいた。ざわりとした直感のおかげかその攻撃を防げたのは間一髪。

 ゴウ___!! 

 トモエの印で術が発動してから、現れたのは"風"。トモエを中心として張られている球状の風の膜が"それら"を弾いた。

 「風遁 風繭(かざまゆ)」

 トモエの口から紡がれる術名。それが現れたのは数秒、周囲を確認してから、術を解いた。風繭に弾かれ、周囲に転がっているのは数本のクナイ。
 静かになった木々の上で、鳥が上空で鳴いている。トモエは、自然な動作で振り向いていた。

 「私の番、ですか」

 そう言ったトモエが振り向いた先に見たのは、正真正銘、これからトモエたちの担当上忍になるかもしれないカカシだった。クナイを投げた手をそのまま、未だイチャパラに視線を落としている彼だったが、不意にトモエの顔を真っ直ぐと射抜く。

 「さすが雪箆だな、トモエ。風遁......なかなか術のキレがいい」

 そのセリフにトモエは僅かな動揺を示した後、きゅっと口元を引き締めた。「ま!それはいいとして」とカカシは言いつつ本をしまう。トモエは目を丸くした、が。

 「戦うか?」

 カカシの口から次に出たのはそんな予想外の言葉だった。
 一瞬 ポカンとするトモエ。だがそのカカシの視線が、あまりにも意味深なものだということに気付く。

 「この試験は......」
 「......」
 「この試験の本当の答は、"裏の裏"に隠れてるんですよね?」

 トモエの問いに沈黙するカカシ。そしてふっと笑ったあとに、「そうかもね」と曖昧に答えた。
 表情を失ったトモエは、暫しの間目を伏せる。こう言ったはいいものの、裏の裏の意味なんてまだ見いだせていない。はっきり分かっていることは、一人で立ち向かってもまるで歯が立たないということだけだ。だがそうなると、他のメンバーと協力を仰ぐしかなくなるが、スズは元より三つしかないのである。

 そこでトモエは不意に昨日のカカシの話を思い出す。

 『卒業生28名中、下忍と認められる者は9名、または10名!』

 この9と10という数字は、何故?大体 それくらいしか合格できないだろうと踏んでの元?それにしては、9と10という数字に固執するような物言いだったと、トモエは記憶している。
 となると、トモエは一つだけ思い当たるフシがあった。

 「もしかして......班、全員で合格できたりするんですか?」

 9。それは唯一のフォーマンセル・七班は合格できない計算で、10はその逆だ。それならば成り立つとトモエは確信するが、何せそうであるという根拠はないので、トモエは終始カカシを伺い気味だった。
 しかし、カカシはトモエに思うような反応を見せない。

 「つまり、"何が"必要だと思う?」

 そう返されてしまうと困ってしまうトモエは、頭を抱えるしかなかった。オマケに大前提がスズ取り合戦となれば、トモエの考察は全て無意味に帰す。しかしそれを見当違いだったのだろうかと考え出せば 9と10に疑問が残る。最早トモエはお手上げ状態であった。
 わかりません、と無念そうにトモエが言えば、カカシは苦笑していた。

 「そうか......できれば答えてほしかったが。お前、ナルトを助けたしね」
 「はい?」
 「でも、ま!これにばっかり時間を費やすわけにもいかないし、お前だけ優遇するわけにはいかないし」
 「......?どういうことですか?」
 「とどのつまり......オレは、お前らの実力も試してみたくてね」

 「!」

 カカシの目がぎらりと光った瞬間、トモエは反射的に距離をとっていた。カカシはその行動に「良い反応だな」と笑いながらまた本を取り出す。
 本を一度 しまったのはこの話をするためだったのか、と少し肩を落としたトモエだが、すぐに今この瞬間にだけ集中した。

 「......もう、いいんですか?」

 相手の本を読む動作を捉えながら問う。カカシは全く 顔をあげることはしなかった。片手の人差し指で、まるで挑発するかのようにトモエを誘う。頭に血を上らせたりはしなかったが、それでもトモエが迷わず突き進んでいったことには変わりはなかった。

 ガ___ッ!!

 その鈍い音は、トモエの蹴りがカカシの腕に当たった音だった。入ったわけではない、当たっただけだ。
 カカシは一歩も動かないままに、ただトモエの足を抑えた。それはナルトの時と変わらなかったがカカシは無意識に目を細める。

 「(重い......)」

 ナルト以上にトモエの蹴りは重かった。
戦闘は得意じゃなさそうだと認識をしていたカカシはそれを即座に取り消す。体重の軽いくノ一がこれだけ重い蹴りを繰り出せるのだ、それなりの修行を重ねたのだろう。
 そのことに驚く間もなく、受け止められた足を支えにしたトモエは一気に飛ぶ。流石にそれには目をあげたカカシ。暗い森に差し込む光に一瞬目が眩んだが、その光より前方にいるトモエが空中で印を組んでいるのは捉えた。

 「(分身の術!)」

 心の中でそう唱えたトモエ。すると、トモエを囲うようにして現れたのは、オリジナルを差し引いての五人のトモエ。
 カカシが下で刮目してこちらを見ているのを捉えながら、その"六人"は一旦 地上に下りてからバラバラに行動を始める。カカシから五メートル程 離れたところで、カカシを中心とした円を描きながら走っていた。

 「せー、の!!」

 そのかけ声を出したのはどのトモエだったか。ただ、とにかくその一言で"トモエ"たちはカカシに突っ込んできた。一人で攻撃を受け止められるのなら、一気に立ち向かい、どこに本命がいるのかを惑わせたらいい、との考えなのだろう。

 「(......左目を使えば一発なんだけどね)」

 ふっと笑ったカカシ。あと五秒ほどで、分身のほうの嘘の攻撃とオリジナルの本物の攻撃が一斉に繰り出される。しかしカカシは至って冷静沈着で、四秒までは一切動かなかった。

 しかし、残り一秒になると同時に、素早く印を結束させる。オリジナルのトモエはハッと目を見開いた。

 「風遁 風繭」
 「っ......!?」


 残り、0秒。

 ゴウ___!

 ついさっきトモエがやってみせた術が、カカシの手によって再生されたのだ。
 それはむしろトモエよりも大きな球状の風で、それに当たった全てのトモエの分身が消える。オリジナルのトモエだけは、風繭に直撃する前に後方へ跳んでいた。

 「どうして......その技」

 驚きに思わずへたりこんでしまったトモエ。その術は雪箆のオリジナル技だから、カカシが知っているはずないのに。
対するカカシはというと、組んでいた印を外し、再び本を読み出す。

 「どうしてって。別に単純なことだよ。オレにはお前以上の目があるからね」
 「......目?」
 「そう。一度見せてもらった術は、自分の持っていない性質じゃない限り、簡単に使わせてもらうことができる。アレを使わなくてもね」
 「......"アレ"?」

 一体何のことだ。しかしそれを聞こうと思った直後に、ジリジリジリジリジリ...!!となんともかしましい音がどこからか響き渡った。目覚まし時計の音だ。
 それを機に、「さてと」とカカシは話をはぐらかした。

 「残念。タイムリミットだな。考え方も戦い方も、中々のものだったよ」
 「......はぁ」

 なんとも微妙な言い回しをするカカシに、トモエは気のない返事をする。カカシは苦笑していたが、なにやら突然重い溜め息をついた。だがそうして歩き出す前に、トモエが「カカシ先生」と呼んで引き止められる。カカシは顔だけ振り向いた。

 「上忍相手に下忍が敵うわけがない。だから、スズを取り合うってことは本当の目的じゃない......で、当たっていますか?」

 にこり、と笑ってやはり答えないカカシ。トモエはそれに消沈したが、そのトモエには、また別の質問が返っていた。

 「オレもいっこ質問していい?トモエ」
 「はい」
 「さっきの技、どこで覚えたの」
 「父の遺品の巻物を見ました」
 「…そ」

 "父"という単語に反応するカカシだが、この事に関してこれ以上は深く聞くことは無かった。
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